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51話、誘き出すに限る

 翌朝。キャメル埋葬(まいそう)の作業後に二時間程の睡眠を取り、隣同士の部屋で宿泊したグロリアと合流する。


「よう。朝飯に行くか」

「ああ、行こう」


 朝からグロリアは身嗜(みだしな)みも完璧。流石は社会人である。むしろ心なしか、昨日よりお洒落(しゃれ)度が高いように思える。


化粧(けしょう)丁寧(ていねい)でお綺麗だこと。美人は見飽きねぇな」

「い、いいからっ、早く行くぞ……!」


 朝っぱらからグロリアを褒めて伸ばす。俺に気を遣って取った格式高い老舗(しにせ)の宿屋を、グロリアの背中に付いて追っていく。

 夜までなら受け付けで荷物を預かってもらえるとのことで、そこまで言うならお手並み拝見してやろうと、預けてから宿屋を出る。


「楽しみたいところではあるが、昨日の市場(マルシェ)で手早く食べてしまおう。その後は私が騎士としてサーカス団の責任者に話をする。捜査協力を願い出よう」

「それがいい」


 切り替え良し。仕事の話となると勇ましい騎士の顔となる。市場への歩みも早い。小娘とは言え、しっかりと頼りになる。


「何か食べたいものはあるか?」

「食べたいものは後で食う。今はなんでもいいから腹に入れて天幕へ急ぎたいな」

「いい心がけだ。目についた店で私と同じものを購入しよう」

「頼む……って言ってるところで、店がもう出てるな。働き者の売り上げに貢献しようか」


 今回は神様かザーマ様も見ているのかもしれない。都合の良いことに、サーカスのある広場に飲食店が出ていた。タコスかホットドッグのような食べ物だ。


「これを二つもらおう」

「はいただいま」


 行儀作法がどうのと言っていられない。立ったまま口へ放り込む。早食いは得意。あっという間に食べ終えてしまう。


「……いつもここで店を?」

「いつもは市場だな。ほれ、サーカスがあるだろう? そういう催し物がある時はここに店を出すんだ」

「食い物を片手に見たい客もいそうだな」

「そういうことだ。あのサーカス団は毎年来てくれるから、こっちも商売が助かってらぁ」


 サーカス団全体が関与している可能性が低くなる。毎年訪れているのならキメラ事件は前例があるはず。キメラが聖国で確認されたという話は聞かない。


「昨日の午前中にサーカス団から抜け出す団員を見なかったか? たぶん少年とかなんだけどさ」


 品を欠かない程度に急いで食べるグロリア。待ち時間の暇潰しに、この店員へも事件に関する質問をする。


「あそこからか? 流石にそれはいたとしても分からないなぁ。客商売だし、応対以外にも作業してっからよぉ」

「だよな」

「それにあのサーカス団は子供の団員が多いから、出て行ったとしても誰も気にしないと思うぞ?」

「そうなのか。子供が……」


 厄介なサーカス団だった。子供を大人数も抱える大所帯という事は、本部騎士の特権を使った大々的な捜査も見据えておこう。


「……んっ、食べ終えたぞ。早速になるが、サーカス団の責任者へ話を聞きに行こう」


 手早く朝食を終えると、グロリアとサーカスへ。聖国騎士と告げると団員はすぐにサーカス団「エピロ」を取り仕切る団長の元へ案内してくれた。


「――事件っ? 国際的犯罪を犯した奴が、我がサーカス団にいるやもしれないとっ?」


 恰幅(かっぷく)の良い女団長。名をハフナ・トキタ。ハフナは紅い派手な衣装を着ており、出番に備えて天幕を見回りに行く直前だった。

 多忙という事で手っ取り早く本題を切り出すと、話を聞くなり彼女は血相を変える。


「そうだ。ここの少年が禁じられた魔術を使用した恐れがある」

「こんな時に次から次から(・・・・・・)信じられないよっ!」


 苛立(いらだ)ちを(にじ)ませるハフナが化粧台から立ち上がる。


「……?」


 彼女の二言目に疑問を抱くが、反応に嘘は見られない。

 ハフナのサーカス団は子供に芸を仕込み、大人になると社会へ旅立たせる活動も兼ねているのだという。鍛えた神足通で生活できるので、とても慕われていると団員は言っていた。

 団長のハフナもまた団員を信頼しているのだろう。


「ウチの子達は厳しい練習を毎日行ってる! そんな暇なんてないはずだね! 騎士様には悪いけど何かの間違いに決まってる!」

「身の潔白を証明するためにも捜査させてほしい。協力してもらえないだろうか」

「協力っ!?」


 凄みある剣幕から拒否が予想される。だがハフナは無駄にデカい大声で言う。


「もちろん協力するともさ! ウチの子達じゃないっ。全員をしっかりと調べてやってくださいねぇ!」


 紅いハットを被る様は流石は団長。様になっている。

 こう地を踏ん張って懸命に生きている人間に、あまり迷惑はかけたくない。早めに終わらせよう。


「容疑がかかってるのは少年だってねぇ」

「ああ。被害者がそう証言している」


 ハフナに先導されて少年達のいる場所へ。

 今朝はまだ開演に向けて準備する前。日課である洗濯や食事、動物達の(えさ)やりの最中にあった。


「熊!」

「……!? ……な、なんだいこの子は。急に大声を出して、猛獣が珍しいのかい?」

「虎! (ひょう)! パンテラレオ!」

「違うよ、あれはライオンさ。猛獣だけは大人が管理しているけどね。ショーのほとんどは子供達がメインだ」


 (おり)に入れられた動物。(から)の檻も見られる。これらを飼い慣らして演舞を作る手腕には、いつ見ても驚嘆させられる。


「調教師の人に俺が褒めていたと伝えてください」

「……あ、ありがとね」


 騒々しく行き交う調教師を(ねぎら)う。

 連れて行かれたのは少年達のテントがあるエリア。普段着は全員統一されているようで、同じ服ばかりが干されている。見慣れない装い……と言えるだろう。


「集合してくれるかいっ――!」


 ハフナが号令を発する。何事かと表情に表す少年達が続々と集結した。


「全員で二十八人。好きに調べてくださいな」

「団長……この人達は誰ですか?」

「騎士様だよ。あんたらの中に魔術犯罪をしたやつがいるかもしれないと仰られてる」

「は、魔術犯罪!?」


 互いを見回して気を動転させている。無関係な少年達には申し訳ないので、単刀直入に指示を出す。


「昨日の午前中に天幕の外に出たやつは? 知ってるやつも教えてくれ」

「仲間を(かば)おうとする者も罪を背負うことになる。使用された魔術の悪質さからも庇うだけで重罪となることを、(きも)(めい)じるように」

「あ、騎士様が見逃さないってよ。さあ、早い者勝ちだぞ。誰から言うんだ?」


 騎士として立つグロリアから通告された警告がいい(むち)となる。少年達が怯えて仲間を疑い始めた。


「……」


 しかし疑心暗鬼という様相の中から生まれる声はない。


「……誰も出なかったのか? いなくなってた奴もいないのか?」

「そんな事を言われても……その時間帯は講演前の打ち合わせと準備でみんな大忙しです。しかも午前は全員に出番があるので外出する暇なんてありません」

「オウ、アミーゴ」


 全員にアリバイがあるという。謝罪として人類王と握手させてあげる。


「ほらね。ウチの子達が犯罪に関わってるなんてあり得ないんだよ」

「まだだ」


 鼻高々なハフナに待ったをかける。まだ全員を関与なしと断定するには早い。


「なんだい?」

「持ち物も検査します。全員漏れなく」

「この際なんでもやっておくれ。あとでまた調べられたりすれば変な悪評にも繋がりかねないからね」


 風評被害を恐れる気持ちも理解できる。早期解決はこちらも望んでいること。今日でケリを付けるべく徹底的に調査する。


「悪いけど講演前の稽古や開演準備はさせてもらうよ?」

「あ、どうぞどうぞ。そこまで中止させる権限なんてないっすから」

「じゃあね。なにか分からない時はその辺の団員を捕まえて聞くといい。全員に通達しておくからね」

「他の関係者の荷物も調べるので、それも忘れずに伝えておいてください」

「分かったよ」


 仕事が立て込んでいるハフナが去る。頼り甲斐のある背中を見せて、部下へと指示を飛ばしながら。

 非常に協力的でサーカス業にも熱意がある。ハフナは手荷物を検査していないので調べはするが、無関係と見ていいだろう。


「一箇所目なので無理もないが……ジェイク、当てが外れていそうだな」

「いやここで間違いない」


 サーカス団を訪れて確信した。団員の発言からも犯人の次の行動が予想できる。


「グロリアは荷物検査をしていてくれ。騎士や衛兵達も呼んで魔術関連のものを探してな」

「ジェイクはどうするつもりだ?」

「俺はまず調教師さんと話をしてくる」


 とても興味がある。先ほど気になった点を、調教師に話を聞いてみる。


 ♤


 現在、タリナ騎士達による荷物検査が行われている。対象は少年組。団長の話ではこちらにも調査の手が入るらしい。このままでは術式符が見つかってしまう。


「何故……」


 たった一度の実験でサーカス団まで調べられるとは想定していなかった。


「……」


 大天幕から歓声が上がる。午前の部が始まったことを意味する。機会があるとすれば今だけだろう。計画は早まったが、まだ支障をきたすことはない。


「次の街で領主の宝物庫も見たかったんだけどね」


 この街で決行する。記念館とカーターが持つ人類王の遺産を強奪するべく、恐怖のキメラを解き放つ。混沌とする街で効率的に回収すれば、組織に貢献できるだろう。キメラの魔術を教わった恩には報いよう。


「そうかい。俺もだ」

「……」


 発見される前に所持している術式符を燃やそうと、調理場の暖炉へ放る瞬間だ。

 背後から声がかけられた。


「少年って歳なら、少女だったってこともあり得るよな」


 ゆっくり振り返ると、そこには敵対心も剥き出しにして獰猛に微笑む少年が立っていた。


「お前みたいな集団に潜む殺人鬼(クズ)は、(おび)き出すに限る」


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