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44話、タリナ観光

 監視者アンナとタリナ市場にやってきた。ズラぁぁ……ッと朝早くから露店もたくさん出ている。羊肉の串焼きやチーズ、パンに果物の店まで、早朝から商いに盛んだ。

 特にパン屋の前には朝食の買い出しであろう人達で盛況となり、焼き立てのパンが次から次へと売れている。


「俺は決めたぞ。アンナはどうだ?」

「……もう少し待ってほしい。種類が多くて迷っている」

「ゆっくり選びな。その間に俺はこのピクルスを(かじ)って待ってるからさ」

「もう買ったのかっ?」


 店員から丸々一本が串に刺さったピクルスを受け取って(かじ)る。今頃の実家では、俺の不在を悟ったリュートが暴動行為を行なっているだろうと確信しながら。


「ぽりぽり、ぽりぽり」

「……ジェイクは他の物は何を選んだんだ?」

「羊肉の串焼きとでっかいソーセージを焼いたやつを買おうと思ってる。羊肉はタリナの名物なんだってよ。まだ胃もたれしない若い内に無茶するんだ、俺は」

「へぇ、そうなのか。それなら私は羊肉の串焼きとパンを買おう」


 決まったようなので、ピクルスを急いで完食。チーズを除き、薄味な母の料理を食べているので塩味の効いたピクルスが体に染みる。次は香辛料をふんだんに振りかけた羊肉の串焼きを注文。


「店主さん、串焼き……四本ください」

「はい四本ね!」


 目でアンナに確認し、二本の指を立てたので俺のと合わせて購入。


「先にパンを買ってきな? 俺が受け取っておくから」

「悪いな。では行ってくる」


 アンナが小走りでパン屋へ向かう。俺は羊肉の串を受け取ってから、ソーセージを焼いている斜め後ろの店へ。

 注文してから受け取るまでに、タイミングが良かったのか、人混みが著しいパン屋にて早々と購入したアンナが帰ってきた。


「おかえり」

「た、ただいま」


 何が気恥ずかしいのか、真面目ヅラで照れている。


「ここら辺でいいよな。あんまり動き回るのも変だし」

「いいんじゃないか?」


 人の通りが多い道から一つ外れた川沿いの石垣。腰を下ろせそうなので、ここで朝食を摂る。


「癖があるような気もするけど香辛料のお陰で美味いが勝つ。流石は名物……牛肉ならもっと美味いんじゃね?」

「他の店でも売っていたし、もっと美味しい店があるのかもしれないな」


 二人して遠回しに予想を下回っていると評価した。俺もアンナに同感だ。もっと美味しい店はあると思う。現地の人に聞いてみたら良かった。


「……ソーセージは絶品。聖国はどこでもソーセージが美味いからな」


 パンは予想通りだったらしい。表情も変えることなく作業的に口に運んでいる。


「パンはどんなもん?」

「ん、食べてみるか?」


 一口に千切って差し出すので口を開ける。


「……」

「あん?」

「……何でもない、気にするな。ほら、食べてみろ」


 微かに目を開いて驚いていた。串とソーセージを両手に持っているのだから、当然だろうに。

 だが無事にパンを口に入れられて、試食が叶う。結果はやはり普通。


「な〜んだ。焼き立てにしては普通だな」

「文句はない。お気に入りのパン屋で買うものばかりを食べているから、たまには違う味もいいものだ」

「いい考え方だ」


 俺ばかりが得をしていたらバランスが悪い。半分になったソーセージをアンナへ。


「ほれ」

「……私はいい。ジェイクがすべて食べていいぞ」

「俺が食ったのは嫌?」

「他人の後は遠慮したいが、今はそういう拒否感は感じないな……」

「それなら食べてみな」

「……そこまで言うならいただこう」


 悩んでいたアンナの口にソーセージを軽く突っ込む。下衆な思いで。


「うぐっ!?」

「いっぱい食べて大きくなるんだぞ」


 驚いたアンナは頑張ってソーセージを噛み切る。口元に手を添えて睨むも、その姿に愛嬌すら感じる。

 アンナは口の中に物がなくなってから、俺の額を指で突いて形ばかりに叱った。


「……こら、驚いたぞ」

「こんなに可愛いコラがあるのか」


 何をしても許してくれそうなお姉さんがいる。この目の前の美乳を揉んでも、こいつなら怒られないかもしれない。


「……ジェイクは悪戯っ子なんだな」

「そうか? よく言われるけど、そんなことはないと思うぞ」

「よく言われているんじゃないか。それならジェイクは悪戯っ子だ」


 アンナが生真面目なあまり、人類王時代の癖で手を出したくなる。されど浮気はいけない。嫉妬天狗と先に出会ってしまったので、お近づきになれてもお触りまでで我慢する。


「なあ、昼は何を食べようか。ジェイクとなら何をしても楽しそうだ」


 食後に腹を落ち着けていると、やけに親しげに話しかけられる。ついさっき話し始めたとは思えない。小中高の幼馴染くらい気を許されている感覚だ。


「何を食べようかね。一緒に決めようね」

「色々と見て回ろう。きっとジェイクが気に入るものが見つかる」

「また恋人みたいに食べさせ合いするか? う〜ん?」

「……! じ、ジェイクがしたいなら……いいぞ」


 先程のウブな反応をおちょくってみた。

 ……もう宿屋に連れ込めるんじゃね? やはり異性として意識していたようで、顔を赤くして予想外に了承が返ってくる。


「さて、蒐集家ん家は朝早くから押しかけるのも迷惑だし、先に記念館に行こうぜ」

「そうしよう」


 二人並んで歩く。距離感はかなり近くなっているが、監視役としての職責故ではなく、無意識なのは分かる。(よこしま)な輩だったら人類王の勘が(ささや)くから。何が要因なのか知らないが、驚異的な早さで懐かれてしまった。


「ここか。金はかかるみたいだな」


 タリナを行くこと二十分後。自分の記念館を見つける。


「思ってたより立派。結構結構」

「まずは列に並ぼう。武装や荷物は預けなければならないはずだ。軽い身体検査もあるが、問題はないだろう」


 博物館を予想していたが、そのままだった。厳重な警備環境が見られるが、それだけ品に信憑性(しんぴょうせい)があって数も多いということ。悪霊を隠した品である可能性も高い。


「にしても値段が高いな。庶民に見せる気ある? 金儲けの欲が先行し過ぎだろ」

「盗難でもされたら大事件だからな。金額は妥当だろう」


 いやしかし入場料が高い。万が一を考えて、いくらか持参したバッハの小遣いがなければ、帰りの馬車に乗れなかった。無論、宿代やサーカス代を差し引いた上でだ。


「番号札は他人に渡さないように。では中へどうぞ」


 列で待つこと十分。アンナの言うように武装と荷物を預け、番号札を代わりに受け取る。帰る際に引き換えとなるらしい。

 というわけで入館してみれば、内部は金やベージュの落ち着いた色合い。天井も高く、壁沿いには人類王の品が点々と並べられている。


「……あんなに遠くに置かれてるけど、これで入場者は満足してんのか?」


 入場者が通れる道筋は縄で区切られている。それが品からかなり遠い。

 だが縄を超えたなら、少なくない数も配置された警備員が殺到して取り押さえるだろう。


「多くの入場者は望遠鏡を持参している。私も持っているから使うといい」

「アンナも見たいだろ? そうだろ? そう言ってみろ」

「それは当然として私も見たいと思うが、それではジェイクが楽しめないだろう?」

「見たいなら見ていいから。ユーガ様も俺なんかよりアンナに見てほしいってよ」

「そ、そうか。ジェイクが鼻の下を伸ばす意味は分からないが、そうさせてもらおう」


 戸惑(とまど)うアンナに望遠鏡を譲り、俺は遠めに観覧する。それに見たい物は見た。


「……」


 問題は、またまた幸運にも悪霊を宿した品が見つかったことだ。しかも今の段階で最も欲しかった低燃費型の悪霊。

 この状況でどう回収するか……。


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