第71章
「いや~ハッピーだねぇ~。大将、コイツ、本当にオレのものにしちまっていいのかい?」
MFの起動を終えたイダデルがマニュピレータを操りながら声を上げた。
まるで新しい玩具を貰った子供のように、はしゃぎ立てている。
フードを深く被り直し、ネロは声を張る。
「気に入ってくれたようだね。機体概要、装備の説明はいるかい?」
「いらねぇ、いらねぇ、んなもん。使い潰しながらオレ色に染めるのが愉しいんだよ、こう言うのは」
舌をなめずり、金色の視線をモニター越しのネロに送る。
そうかい、と機嫌よく機体概要のデータ送信を途中で止めた少年は紅髪の少女を頭の上から足の先まで見据えるように眺めて意味深に笑っている。
紅髪の少女ヘリオス。無気力な瞳を中に泳がせているその様は、活発な印象の髪色とは裏腹に物言わぬ人形のようであった。
「気の強い野郎を組み伏せ、服従させる……気が強ければ強いほど屈服させた時の快感はたまんねぇだろう。女でも機体でもそいつぁ、一緒さ」
「なかなか面白い考えを持っているんだね、イダデルは」
「おや、大将も同じクチだと思ったんだが違ったかい……っとまぁ、与太話はこの辺りにしておこうか」
――そうだね、とカメラアイを樹海の闇に向けるネロ。
トーンッとMFが跳ねる音、数秒後に木々を粉砕しながら着地を果たしたMFが一機。
敵機を目視した途端、紅の少女が震え始める。その苦しげな姿はもはや発作に等しい。
虚ろな瞳に色が戻り始めたが、ネロが強引に少女の口を自身の唇で塞ぎ込むと無垢な人形へと戻った。
「いけない子だね、ヘリオス。僕だけを観るって誓い合った仲なのにこんなに疼いているなんて……帰ったらもう一度誓ってもらわなきゃ」
モニターが回っていることなど気にも留めず、ヘリオスの身体を撫で回しながら囁くネロ。
「いちゃこらしてるところ悪いんだが、あのオンボロ野郎……気味が悪いな。かなりの乗り手なのは間違いねぇ。おい、聞いてるか大将?」
「君の実力を少し見せてよ、新しい玩具も試してみたいだろう?」
「おいおい……アレと戦えってんのかい。気乗りはしねぇが、雇い主の意向なら仕方ねぇか」
伸び放題の髭を掻きながら悪態をつくイダデルだが、新しいMFの性能を試すという点においては乗り気なのだろう。イダデル機は意気揚々と戦闘態勢に入っている。
通信可能距離まで接近した敵機へネロは愉しそうに話しかけ始めた。
「やぁ~数日ぶり~! この樹海にいなかったらどうしようかと思ったよ。なかなか見つけることができなかったから、近隣の村をいくつか丸焼きにしながら必死に探したんだよ? あの時、ちゃんと死んでくれていればこんな手間をかけずに済んだのに。あんまり手荒な真似をするとヘリオスがうるさいんだ。僕の気苦労、わかってくれるかな?」
後方に下がりながら高みの見物を決め込むネロのMF【焔】。
返信用の通信が開かれ、イダデル、ネロの元に敵の表情画面と声が流れ込む。
その来訪者の表情は聞くまでも無く怒りに染まっている。
ネロは相手の顔を見ながら、満面の笑み。
「君を殺しに来たよ、ゼロ」
『お前を殺しに来た、ネロ』
左腕を失った漆黒の騎士が嫌悪に満ちた大剣の切先を紅き武者の前に突きつける。




