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ミリオン  作者: おこき
~第一幕~
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第5章

「はぁ、メタルフレームに乗りたい?」


 村で四機しかない“ハンドレット”を保有しているトングの家へ、リオンはいきなり申し出た。


「おっちゃん、頼むよ!」

「頼もう!」


 リオンが両手を合わせるのをセレネも真似しながら続く。


「いや、別にダメじゃねぇよ? リオンならいつもの通り乗ってくれ、と言いたい所だが、その嬢ちゃんが乗れるのか、俺は心配してるだけだ。 素人にゃ乗れねぇって、リオンが一番よくわかってんだろ?」


 家主・トングが困った顔をしながら、家の奥に顔をやる。


「別にいいじゃないのさ。 最近の若い子は、みんなアレに乗ってんだろ? それに、毎日メンテナンスしにきてくれるリオンのお願いだよ?」


 部屋の奥から大きなお腹をしたトングの妻・イロがゆっくり玄関に向かってくる。


「イロ、あんま動くんじゃねぇ! 腹の子に障る! わかった。 そんかわり、リオン。ちゃんと面倒看てやれよ? 女の子に怪我させたら許さねぇからな」


 トングはもうすぐ生まれる子が女の子なため、やたらと女の子の扱いにうるさい。


「それより、その嬢ちゃん……どっかで見たことがあるんだよな~」


「本当かよ? おっちゃん! どこで、どこで!?」


 頭を抱えて記憶を巡らせるトング。


「あ!!」


「どこで見たんだ?」


「忘れた……」


「おい! ボケるには早いぜ~おっちゃん」


 肩の力が抜けて、リオンは玄関に座り込んだ。


「いや~、まぁ、忘れるってこたぁ。 それぐれぇの付き合いだった。 ってことだな」


「そ~だよ。 家の人が、こんな可愛いお嬢さんとお近づきになれるわけがないでしょ?」


 トングが手を打ち笑う、その横でイロがリオンに耳打ちをする。

 「俺だって若い頃はなぁ」と夫婦の痴話喧嘩が始まるのを確認し、リオンは裏庭へ向かう。


「ともかくサンキュー、おっちゃん。 お礼に今日は念入りにメンテしといてやるよ!」


「あ、ってことは……いつもは手抜きだったってことか~?」


 リオンはトングの皮肉を「いつも一二〇%の仕上がりだって」と気軽に返し、駆けて行った。



「どうしていきなり、メタルフレームに乗りたくなったんだ?」


「わからん」


 リオンは事の発端であるセレネに尋ねた。


「だが、乗れば何か思い出しそうなんだ。 私はメタルフレームだったと思うから」


「はぁ……メタルフレームね」


 メタルフレーム乗りの間で、最高の乗り手は“メタルフレームになった”と極端な比喩表現をすることが暫しある。

 自分の意のままに操れている時、魔科学兵器が体の一部となっている錯覚を感じるのだ。リオンは、セレネも一流のメタルフレーム乗りだったのかと推測する。

 頭は覚えていなくとも、体が覚えていることはあるだろう。そこから、セレネの記憶を少しでも取り戻せるかもしれない。

 そのようにリオンは目論んでいた。


「どうだ~? 乗り心地は~? 最高だろ~」


 家の窓からトングが叫び声をあげている。


「まだ、起動もしてねぇよ~! おっちゃん、気が早過ぎだって~の!」


 リオンは叫び返す。何故か、トングは満足げにうなずいて、親指を前に突き出して笑っている。

 ……完全に意思疎通ができていない。


「どうだ? 何か思い出したか?」


「メタルフレームが好きな女の子なんて、また良い子を拾って来たな~!」


 トングの声を無視して、リオンは目を瞑ったままの少女に問いかける


「違う……これじゃない」


 コックピットに深々と座ったままセレネは目を開けた。


「違うって? 何が? 正真正銘のメタルフレームだぞ? しかも、ハンドレット!」


「うん、でも……違う。 こいつは成長しきっている。 もう、育たない」


 セレネの言葉に首を傾げるリオン。

 成長も何も、メタルフレームは身長が伸びたり、筋肉が付いたりしない。あくまでも機械だ。


「お前、さっきから様子がおかしいぞ? 何かあったのか?」


 気遣うリオンに、少女は答えない。

 少女自身も自分のことがわからないため、どうしたいのかわからないのだ。


「わからない。 ただ……」


「ただ?」


 セレネは、一呼吸してから続ける。


「こいつは、凄く、お前のことが好きのようだ」


 セレネは母が子を寝かしつかせるように、ハンドレットのコックピットを撫でた。

 その後、ハンドレットを所有している残り3件の家に行き、同じようにセレネをコックピットに乗せたが、結果は変わらず。 


「こいつは、お前が私を連れてきたことに焼きもちを焼いている」や「しばらく、手抜きでメンテナンスをしたことを根に持っているぞ?」など、メタルフレームの感情を読み取ったかのような言葉を残していた。


 リオンも雑な整備状態を見て、メタルフレームが怒っているだろうと思うことはあるが、セレネのように、コックピットに座っただけで判断するのは難しい。

 彼女の当てずっぽうという可能性もあるが、彼女がコックピットに入ってから伝わってくる“メタルフレームが安心している”雰囲気を感じ、リオンは言葉にできない愉快な気持ちになった。


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