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ミリオン  作者: おこき
~第三幕~
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第60章

 樹海の村、バーバ・ヤーガは一発の弾丸によって静けさとは無縁になった。


「敵襲! 敵襲ー!!」

「女、子供は一か所に集まって俺たちに付いてこい! 早く!」


 義賊が各個で村人を避難させる声、ヒステリックな叫び声などで昼間の殺伐とした村はここにはない。

 その中、弾け飛んだ家の前で佇む少年と少女達の姿があった。


「ジェノス……アルダインさん!! なんで誰もいねぇんだよ!」


 周囲を見やり気持ちのやり場を探してさけぶ。アルダイン宅は他の民家と離れた地点に位置しているのが災いした。

 用がない限りこんなところをうろつく人間はいない。まして、外灯など無い樹海の村だ。時間的にも外出者はいないに等しかった。


「リオン、落ち着く」

「中に二人ともいたんだ! 落ち着いてられねぇよ! 早く助けないと!」

「わかってる! でも……これは明らかに敵襲。状況を把握しないと危険!」


 声を荒げたリリィの姿を見てリオンは我に返った。彼女とて二人のことが気がかりなはずだ。この津波のような感情を押し殺してでも現状を打破するために彼女は毅然たる態度を失わぬようにしているのだ。

ここで自分が焦っても何の意味もない。迂闊な行動は自分だけでなく、周囲の人間まで巻き込む可能性がある。


「悪い……」

「別に、いい。私も同じだから」

「リリィ、確かこの村は誰にも見つけられないと言っていたが?」


 セレネはリリィ以上に事態に対して冷静な対応をとっていた。リリィは毅然に振舞おうと努めている様子だが、セレネに至っては毅然そのものである。

 彼女は普段の掴みどころのわからない姿から想像もつかない程、冷静沈着な対応をとることがある。非常時の緊張感がそうさせるのか、それともこれが彼女の本当の姿なのか。

 セレネの質問に対してバーバ・ヤーガの秘匿性に自信があったのか、問われたリリィは気まずそうに言葉を濁した。


「ん……大がかりな人避けの結界も張ってあるし、樹海の中ではMFのレーダーとかも使えない。普通は見つからない」

「でも、見つかってるぞ」

「か……考えたくないけど、誰かが手引きした可能性を考えるしか」


 リリィの推察にセレネは視線を彼女に返すだけだ。

 自分達の村を襲う手引きをする。そんな人間がいるというのか。まして、犯罪や魔女の疑惑を掛けられた人間が流れ着いた最後の居場所を。

 騒音に耳が慣れてきた頃、聞き間違えようのない脅威(・・)の音が聴こえてきた。


「……なぁ。この音って」

「メタルフレーム……」


 リオンの呟きにリリィが続ける。震動の大きさからかなり近いところまで来ているに違いない。


「リオン……私は時間を稼ぐ。村のみんなと逃げて。逃げ道はチョベリーが用意しているはず。この辺りもすぐに戦闘が始まる……ジェノスとアルダインを助けている時間は……ない」

「リリィ!? おい!」


 狂おしそうな声を抑え、懐の刀を握り締めて駆け出す銀髪の少女。メタルフレームに対抗できるのはメタルフレームのみ。数こそいるが義賊のメタルフレームは大半が発掘してオーバーホールしたハンドレットばかり。魔力を扱えない者ならばかなり上等な装備であるが、魔力が扱える人間にとってみれば大した脅威になりえない。

 サウザンドが扱えるジェノスが瓦礫の下にいる以上、敵にサウザンドがいれば――壊滅の恐れすらある。


「また跳ねた音だ。近づいてる。リオン、いったん月花に乗り込んでおいた方がよさそうだぞ」

「ダメだ……ジェノスとアルダインさんがこの下にいるかもしれねぇ。俺はもう少しだけ残る」


 やれやれと天を仰ぎ、腰に手を当て叱り付けるように下から顔を覗き込むセレネ。

 全てを見透かすような蒼い瞳や柔らかそうな頬、谷間まで間近まで迫り、息を飲む。


「アホという人種か、お前は? ジェノスとアルダインがそこの下にいるなら、なおさら月花の力が必要だ。……ウインド村でも私はやってのけただろう」

「月花でこの瓦礫をどけるってのか? 無理にこじ開ければ……倒壊しちまうかもしれねぇだろ。忘れたのか」


 リオンとてセレネの言うとおり、MFを使った救出を考えついたが、ウインド村で村人の救助を思い返し踏みとどまっていた。

 ウインド村ではどこに人が埋まっているのか、また初めてのできごとで要領がわからずメタルフレームを用いて安直に瓦礫撤去してしまったのだが、乱雑な撤去は絶妙なバランスで生まれた隙間を埋めることを意味していた。

 もし、そこに生き残っている人間がいたのなら――間接的に殺してしまうことになる。

 人がいるとわかっている今、殺してしまうかもしれない恐怖と戦いながらMFで作業することもさせることもリオンにとって重い問題だった。

 不幸中の幸いだったのが、抉られた部分がピンポイントだったためか、家は全壊ではなく半壊で済んでいたことだ。手作業で撤去できないことはない。


「セレネは月花を取ってきてくれ。その間に俺はできるとこまでやる」

「仕方のないやつだ、お前は。無理はするな……ッ? リオン! メタルフレームが跳ねた、かなり近い! 逃げろ!!」


 セレネが警告する中、リオンも本能的に身の危険を察知していた。これは明らかにヤバい音であると脳だけでは飽き足らず全身の毛穴まで鳥肌となり警告を発している。

 跳躍のために地面を踏みしめた何よりの証拠が爆音となって樹海を満たす。ブースターも噴かしたのか

、木々が波打つように揺られバーバ・ヤーガ村にまで風を運んだ。

 退避させようとセレネの手を掴むが、逆に懐に寄せられ守られる形へ。


(バッカ野郎! こんな態勢じゃ、お前が……)


 瞬間、視界と音が消し飛ぶ。鼓膜が破れんばかりの衝撃音と衝撃波が体に押し寄せ、ついに二人は宙を舞った。

 樹海内を矢のごとく貫き、幾重にも枝へし折りながら大木に体を強打した。咽喉の奥から乾いた血の味が広がり、息することさえ数秒間不能になる。

 吹き飛び様にセレネを抱え込んだためか、自身の背中を犠牲にすることで彼女を守ることはできたようだ。


(頭がズキズキする……くっそ、まぶたが勝手に)


 朦朧とする意識の中、リオンは敵の姿を確認する。

 白い鉄の巨人が総重量を掛けてアルダイン宅に着地しているのを。

 そして、手で感じる。


(嘘だろ……おい、セレネ)


 魔女の背中に無数の木片が突き刺さり大量出血していることを。

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