第49章
太陽が南中した午後。雲一つない青空の下。
自然で形成された要塞である岩山で、MFを風避けにしながら堂々と昼食を作っている一味がいた。
「ってことは、レオン。てめぇら、意味もわからず軍に追われていたのかぁ?」
「レオンじゃねぇ! リオンだ! あんた何回、人の名前を間違えんだよ!」
「細けぇこと気にすんなって、“レ”だろうが“リ”だろうが大して変わんねぇだろ?」
野営しているジェノス一味、こと“戦争のハイエナ”。
リオンは和やかにジェノスと会話をしていた。いや、和やかに尋問されていると言った方が正しいかもしれない。大方の事情を説明し終えたにも関わらず、必ずリオンの名前だけ間違える。
何度も名前を間違えた挙げ句、笑いながらバンバンと勢いよく背中を叩いてくる眼帯の男。むせ返っている黒髪黒瞳の少年にとって、違う名前を擦りこまれる誘導尋問になりつつあった。
「ジェノス、それは違うぞ。さっきから何度も言っているが、レオンの方が明らかにできる男だ。それに比べ、リオンは……うぅっ、可哀そうに」
「だから、レオンって誰だよ!? そんなことより、どうして俺達を……助けてくれたんだ」
架空の存在“レオン”と目の前にいる少年との格差を想像したのか涙ぐむセレネ。彼女をよそにリオンはおずおずとジェノスに疑問をぶつけてみた。
いきなり発砲し、尚且つ、軍に追われていた身である。普通の人間ならばあの時、軍に加勢するはずなのだ。今もこうして野放しにするのではなく、縛り上げて厳重に監視することぐらいされても仕方ないであろう。
が、ジェノス一味はそれをしなかった。むしろ、歓迎的で一緒に昼食を取る仲にまで発展している。 当然、この状態に疑問を抱くリオンだった。
少年の心境をより不安にさせる要因は他にもある。
緑のハンドレットを点検している髭もじゃの中年男だ。コックピットから顔を出し、ジェノス達との会話中、ずっとリオンを睨みつけている。
泣く子も失神する強面。盗賊団の頭と言っても誰もが頷くであろう中年男と視線が合ってしまい肩を震わせるリオン。
すると中年の男は顔を更に強張らせて馬鹿でかい声を上げた。
「軍に襲われるやつは、だいたい俺達の仲間だぁ。なぁ、頭!」
笑っているのだろうが相変わらずの強面。目に力があるというよりも、眼球に筋肉があるかのようだ。
歓迎されているのか、怒っているのか判断に迷うリオンだったが、ジェノスからの陽気な声で前者であったと理解する。
「そう言うこった。俺達は軍の横暴で苦しめられているやつらの代表ってとこだからな。あぁ、あの髭野郎はウィッツ。お前らの機体に銃口突き付けてたMF乗りだ。キレるといきなり発砲し始めるからあんま刺激すんな」
長髪をなびかせ、親指で自分の背後を指さしながら簡単な紹介を済ませるジェノス。
その弾けんばかりの褐色肌の笑顔からは、つい先ほどまでお互いが殺し合っていた仲という実感は無さそうに見える。
リオンが一番衝撃だったことは、いかにも悪党という面構えのウィッツが十歳は年下であろうジェノスに対して敬語を使っている点だ。
ウィッツが敬語を使う相手であるジェノスは、ただ者ではないのであろう。
砂を踏む音が聞こえ、そちらに目をやると、
「僕は賛成しかねます。軍用のマシンガンとブレード、それに加えあの見たことも無い機体……あなた達は本当に軍関係者ではないのですか」
「よぉ、天才。ハンドレットの点検、終わったか。まぁ、そこ座れや、飯にしようぜぇ」
ジェノスの魔力によって燃えたぎる魔力コンロを挟んで、栗毛の少年がきちりとした口調で疑いの言葉を述べて歩み寄って来た。
ジェノスに言われるがままコンロの横に腰を下ろす少年サイ。背丈はリオンより小さいが、気迫というか、オーラのようなものが気高さと自信の色に染まっている少年だ。
勘ぐるような視線を浴びせるサイにセレネの蒼い瞳がはっきりと答える。
「私達が軍関係者? それは誓って無い。私達は村に残っていたら、いきなり軍のMFに襲われたんだ。……私は、何も悪いことはしていないぞ」
「何で今、意味深に俺の方を見た? 俺もしてねぇよ……軍の方が悪いことをしていたんだよ! だから、ハンスタに殴りかかろうとして……返り討ちにあって……それから」
そこまで言ってリオンの声は消えていく。胸に刺さった棘がまた深く食い込んだ。
思い出したく無い夜のできごと。だが、忘れてはならない小さな英雄の存在を。
「はは! あの王様気どりのクソ軍人を殴ろうとしたのか? 肝っ玉は一人前ってとこだな! いや……タダの馬鹿か」
「失礼なやつだな、リオンは馬鹿なんかじゃない! ……アホなんだ」
「うっせぇ!」
「かっははは! お前らおもしれぇな」
腕を組んでうんうんと頷く長髪ジェノスと蒼髪セレネ。
気に入ったと声を上げているジェノスを無視して、栗毛の少年サイがリオンに話を切り込む。
「率直に尋ねます。あなたはどうして軍用のMFとブレードを?」
「誰かが基地を荒らし回った後があったから、生きてる武器を拾ったんだ。自衛のためだよ」
「では、あの機体は軍が発掘した機体ではないのですか?」
「違う! あれは、俺達が洞窟で見つけた機体だ。機体の詳細は俺達もまだわかってない」
「では」
「サイ……もう止めとけ。こいつらも軍に因縁つけられた仲間だろうがよ? 新型を逃したのは惜しいが、お前がバラした軍用MFのパーツがある。それで今日の収穫は十分だ」
ジェノスがコンロの上にある鍋を開けながら、中身を分け始める。
ほいっ、とリオンとセレネの手に羊の肉、黄身、野菜の端切れなど余りもの掻き混ぜてブチ込んだ雑な粥を渡す。
栄養が取れることに間違いないが、雑な性格をしているジェノスが調理しただけあって、雑な料理である。
そして、器もかなり汚い。元は綺麗な木製食器だったのだろうが、目の前にあるのは染みや、へこみ、欠けた跡などが離れて見てもわかるものだ。
黄緑色のペースト状になった米の中に浮かぶ、茎と思われる緑色の物体をセレネは恐る恐る突っついてる。
食事を分けて貰っている手前、こんなことを思うのは不謹慎なのだろうが、リオンは食欲が湧かない。
火が通っているため、腹を壊すことはないだろうが。
「……これ、食えるのか。リオン、“あーん”してやろう」
「お前がしようとしてるのは“あーん”じゃねぇ。毒見だ」
ひそひそと耳元で会話するリオンとセレネ。
そんな中、ジェノスから欠けた木製の食器を受け取るサイはさっさとスプーンで粥を食べ始める。
「わかりました。ジェノスさんが、そう言うなら僕はもう何も言いません」
「そうそう、頭の俺がオッケーって言ってんだからいいんだよ。新人」
「だから……ジェノスさん。僕はこの団体に入った覚えはありません。勝手に新人メンバーにしないで下さい」
「え? あんた、こいつらの仲間じゃないのか?」
呆れたような声を出す栗毛の少年に思わず質問するリオン。隣に座っているセレネは、ふーふーと必死に粥を冷ましている。どうやら、サイが美味しそうに食べている様子を盗み見て、食べる決心ができたらしい。
「えぇ、正確には仲間ではないですね。僕は人捜しをしているだけです。ジェノスさんが、一緒に来ればMFと人捜しの人員を貸して下さるというので、今は一緒に行動させてもらってるだけです」
「じゃ……青いハンドレットってあんたの機体じゃなくて借り物なのか!?」
「え? あ、はい。MFなんて高額過ぎて買えませんし、メンテナンスのことを考えると僕にはちょっと」
リオンは改めてこのサイという少年の凄さを思い知らされた。借り物の機体であれだけの動きをしてみせる。そして、話しぶりから毎日MFに乗っているわけでもなさそうだ。
ハンドレットや発掘用MFだったとはいえ、幼少の頃からMFに乗って来たリオンだからこそわかる。
サイとリオンでは天と地程の才能による差があるということに。
呆気に取られているリオンを見て、ジェノスが褐色の顔を寄せながら自慢げに言う。
「なぁ? なぁ? こいつは天才なんだよ。是非ともウチに欲しい人材だかんよ、どうにか懐柔させようとしてるんだけど、興味は無いって言いやがんだ」
「僕には忠誠を誓った方がいます。生憎、この身は一つ。ジェノスさんの期待に応えることはできません」
「忠誠だぁ? おめぇは、帝国の騎士様かっつーの。頭ぁ! 姐さんから連絡ありやしたぜ。“村は壊滅状態、ロイ・ゲハルト部隊、その他三小隊が在中”だそうですわ」
緑色のハンドレットからサイを馬鹿にして叫ぶ中年のウィッツ。どうやら仲間からの連絡らしい。ジェノスは食事を中断し、ウィッツのMFまで出向いて指示する。
「そうか、小隊はともかくだ……“荒野のチーター”がうろついてやがったかぁ。引き下がって正解だったな。アイツがいるとは聞いてなかったぜ。危なく全員お縄に付くとこだ。お姫さんには“バーバ・ヤーガ村”に行けって言っとけ……それと“姐さん”は止めとけ、お前……三枚におろされっぞ?」
通信機をさり気無く指さし忠告する若頭。恐怖の形相を浮かべながら髭もじゃウィッツは上擦った声で通信を再会する。
ウィッツに指示した後、伏目をしてジェノスは物想いに呟いた。
「今やあの虎オタクは……少佐か。いつまで馬鹿してやがる」
サイとリオンがそれとなく会話をしている様子を眺め、若頭が何か思い出したように声を上げる。
「おぉ、そうだ。サイの探している女、こいつらに聞かなくて良いのか?」
思い出したように義賊の若頭がサイの小さな肩を抱いて話題を変えた。
「は、はい。先程も言った通り、僕は人を探しています。金髪でわんぱくな女性なのですが、心当たりはありませんか?」
きちりとしたサイにしては、ジェノスのように荒い人物説明。
リオンの中では金髪わんぱく女と言えば一人しか該当者はいない。しかし、金髪でわんばくな女性など、この世界に一体何人いるのだろうか。
「あ、あのさ。似顔絵とか無いのか? 他に特徴を教えてもらわないと答えようがないぜ? 髪が長いとか、目の色とか、体型、肌の色……なんかあるだろ」
「金髪の女と言えばノーションしか私は思い浮ばないぞ、ふもふもふも」
ジェノス特製“雑な粥”を口に詰め込みながら、ふごふごと口を動かし続けるセレネ。
「わけあって……写真などは持って来ていません。しかし、他の特徴と言えば髪は長いです。それから……目の色は青で、体型は細身で、それから、背丈はセレネさんより少し低いぐらいで……あ、肌の色は白です。恐らく、日焼けもしていないでしょうし」
「ノーションは私よりも背が高かったな。んぐ、んぐ」
「そうだな……さっき話したと思うけど、金髪の女性っていうと俺達を村から逃がしてくれたノーションっていう女の人しか心当たりは無い」
村を脱出して以来ノーションとドクターMの行方は一切不明である。
あの二人が簡単に捕まるはずもないと思うが、老人の命が帝国と共和国の命運を握っていると耳にした事が忘れられないリオン。
口周りを汚しながら底に溜まった汁を飲み干している蒼髪の少女を横目にリオンは短く息を吐く。
ノーションとドクターMのことについて、ジェノス達に相談しようにも誰がそんな突拍子の無いことを信じると言うのか。
そもそもジェノス達の目的がわかっていない以上、下手に情報を提供するわけにもいかない。
リオンは魔力コンロの青白い炎で煮え切る粥を見つめながら思考を行き詰らせた。
「そう……ですか。恐らくその方は違います。僕の探している方は、魔術師ではありませんから。貴重な情報をありがとうございます」
丁寧に頭を下げるサイ。生え際まで見事に栗色である髪をリオンとセレネに見せている。
最初の会話が戦闘中だったこともあって、リオンが抱くサイの印象はあまり良くなかった。が、本当は律儀で礼儀正しい人物だったのだと考えを改める。
どこか高貴な気品すら感じさせるサイ。ボロボロの衣服からは浮浪者にしか見えないが、着せるものを着せればかなり様になるのではないだろうか。
外見ではなく彼の内面を垣間見た初対面の人間ならば、今のリオンのように畏縮してしまうであろう。
「え、いやいや、役に立てなくてすまない。俺達の方こそ礼を言わなきゃいけねぇよ。助けてくれてありがとう、おまけに飯まで」
「まったくだぞ! 無能で不能だと自覚があるならもっとしっかりするんだリオン」
「だから何でお前が威張るんだよ! それと不能は関係ねぇ」
にこやかにサイに返答し、余った右手で蒼い髪に指をめり込ませてゴリゴリと指圧する黒髪の少年。
そんなリオンの左肩に、ジェノスの鍛え抜かれた褐色の腕が励ますように乗った。
「レオンよぉ……不能だと色々辛いことがあると思うが、男なら……立ち上がれよぉ!!」
「耳元でうるせぇわ! 勝手に不能にするな!」
「リオンはともかく、レオンは良い男だ。不能じゃないんだ!」
「もう……不能でもレオンでも何でもいいです」
反抗することを諦め肩を落とすリオン。両隣には励ます男と威張る女。
これでも片や義賊の頭、片や魔女である。
どうやら、リオンには力のある者に苛められる才能があるらしい。
「まぁ、レオンが不能かどうかなんてのはどうでもいい。そのノーションとか言う女。軍相手に銃乱射しまくって、今はトンズラこいてやがるってわけだな? しかも、軍に追われてる上に狙撃機を持っているだと?」
ジェノスがリオンとセレネの顔を交互に見やる。
黙って頷く少年少女。すると不敵に笑いだすジェノス。
「くっくく、はーははっ!! いいねぇ! その女最高だ! 聞けば聞く程、ウチに欲しい」
「ジェ、ジェノスさん? 何を言い出すんですか? いくら僕でもその女性が危険だということはわかりますよ。それにこの人達が嘘を付いている可能性だって」
「サイよぉ、コイツらと一度戦ったお前ならわかるだろう。コイツらの腕じゃ、軍人は倒せない。三分で撃墜、バーン! ってな」
ジェノスが魔力コンロをスプーンで突く。感情の無い声でただ事実を述べるかのように。
リオンは自分の力が無いと言われていることに何故だか虫唾が走った。
「コイツらが生きてあの村から荒野に出られたのは、相当運が良かったか……ロイ・ゲハルト級の腕をしたメタルフレーム乗りがその場にいたかだ」
真剣な視線をサイに向けて反応を覗っているジェノス。
「ロイ・ゲハルト級のメタルフレーム乗り……」
生唾を飲む込む栗毛の少年。あまり顔色を変えないサイが心なしか、動揺しているようにも見える。
MFで白刃取りをして見せる天才の彼でさえ、“荒野のチーター”と呼ばれる人物には敵わないとでもいうのか。
「いずれにせよ、軍相手に単機でコイツらを逃がしながら戦闘したとなると……相当の手練ってことに違いねぇ」
攻めるよりも守る方が断然に難しい。MF乗りならば誰もが周知の事実。
「それは……そうですが」
「俺の勘がそう言ってんだ間違いねぇ。それに、戦力はあるに越したことは無い。軍から追われてんなら、なおさらウチの戦力になりうる」
月花の戦い方を見ただけで、そこまで言いのけるジェノス。
そして立ち上がり、リオンとセレネの前に手を差し出した。
「っと言うわけでお前ら、その女を探しに近くの村に行ってみねぇか? そこで残りの仲間とも合流する予定だ。なぁに、悪いようにはしねぇよ。物騒な話をしちまったが、お前らを取って食おうなんて思っちゃいない」
「おぉ! それは助かる。ジェノスは良い奴だな、よろしく頼む。って、ぅぅ! な、何をするリオン!」
立ち上がって手を差し伸べるジェノス。セレネがまるで犬のように尻尾を振りながらジェノスに近づこうとするが、首根っこを掴んで阻止するリオン。
「セレネ、ちょっと待て。ジェノス、あんたの提案は本当に嬉しい。でも、何で得体の知れない俺達にそこまでしてくれる?」
リオンの眼はいつになく真剣で、敵意すら露わにしていた。
以前のリオンならば簡単にジェノスの手を取っていただろう。だが、現実には良い人間など絶滅機種の数ぐらいしかいない。それに加え、ジェノス達の組織について何も聞かされていない。
ジェノスは和やかな雰囲気で、仲良くなった、仲間だ、という素振りを見せているが、こちらの情報が開示されるばかりで相手の情報は開示されていないと言ってもいい。
このジェノスというハイエナが、眼帯の奥にどんな感情を隠し持っているか見定めるまでリオンは心を許せないだろう。
今は先日の様に、村人の命とセレネを天秤にかけるような切迫した状況ではないのだ。慎重に相手の出方を覗うべきである。
「あんたらの目的が知りたい。俺達はあんたらのことを何も聞かされていない。助けてもらってこんなこと言うのも失礼だと思うけど、いきなりそんなこと言われても……信用できねぇよ。それにノーションさんがその村にいない確率の方が遥かに高いんだ。俺達を匿ってその村に連れて行ったとしても、あんたらの得になるようなことはないだろ? 軍に追われてるやつが外から入ってくれば……村の人達だって困るはずだ」
腕を組みながらリオンの見解を黙って聞くジェノスは、
「あぁ、得になるようなことはないな」
なんだそんなことか、とでも言いたげな表情で、さっぱりと言い切った。
そして、表情を引き締めて
「だが、“徳”になることはある」
意味がわからないと表情に表れているリオンに対してジェノスは続ける。
「義賊“戦争のハイエナ”を動かすのは名前の通り“義”だ。そして、活動を支援しているのも“義”によるものだ。ガキを騙して陥れるなんて義に反することを俺達がすれば、支援もストップ、士気も乱れる。そのまま俺の一味は空中分解するってわけよ」
両手をパッと広げて何かが崩壊するジェスチャーをするジェノス。
「逆に、俺達が横暴な軍人に命を狙われていた無力な子どもを助けて、保護したとなるとどうなる?」
後はわかるだろうと、人差し指でリオンの頭を突っつく義賊の頭。
「俺達を軍から助けたのは……組織のイメージアップのためってことか」
「そういうことだ。ハイエナにも世の体裁ってもんがあるんだよ。だから、諦めろ。縛ってでも半殺しにしてでも、お前らを安全な村に“生きてる状態で”連れて行く。ついでにノーションっていう女を探すのを手伝ってくれるなら義に誓って、このジェノスが軍の怖いおじさん達からお前らを守ってやる。どうだ? お互いに悪い話じゃないだろ」
ようやく眼帯の奥に隠されていた本質を垣間見せたジェノス。
リオンは義賊と聞いて気に掛かっていることがあったのだが、明確にできないでいた。
しかし、いやらしく笑みを零す褐色の男を見てようやく思い出した。
以前、前大戦中の社会情勢について話をしている時、金髪の魔術師が義賊についてぼやいていたことを。
“まぁ……前大統領の悪政もあって共和国の中に反対勢力が出来ていたのよ。義賊なんてのも出てきて、『正義と仁義』を掲げてその辺りで暴れ回っていた時代よ、発掘が盛んだった時期でもあるからメタル・ラッシュとも言うわね。連中のやってたことは盗賊と変わらないんだけど”
そう、彼らは盗賊と変わらない。それがノーションから教えられた義賊の在り方だった。