第37章
夜の冷たい風に逆らい、リオンは全力で荒野の砂を踏みしめながら走っていた。
(助けられる。 まだ、間に合う!)
自分の胸に強く言い聞かせ、絡まりそうになる足に力を込めるリオン。
ドクターMは、魔力を使い過ぎたためこれ以上の人数を処方することができない。ドクターMの体内には、これ以上使用できる魔力は残っていないということだ。
しかし、魔術師の限界を超える石がある。ノーションが月花に取りつけた魔石だ。メタルフレームのエネルギー供給源として使用できる魔力の塊は、百にも満たない村人の毒気を押し流してもお釣りがくる魔力が込められている。
ドクターMが、どのようにして村人を助けるのかなどリオンに知る由も無いが、血液の流れが停滞し顔が真っ青になっていた女性が数秒の間に、顔色が良くなった様を目のあたりにしたのだ。老人の言う通りにすれば村人全員が助かる。ただそれだけで十分だった。
「クソッ! もっと早く。 もっと早く!」
疲れ果ててジョギングするような速度しか出せない自分の足を呪い殺したいと思いながら、リオンは月花を駐留させている岩場へ向かう。
目に入ってくる汗など、気にしている場合ではない。ドクターMは、村人を助けたければ全力で走れとリオンに言ったのだ。歩くわけにはいかない。
一歩歩けば、一人死ぬ。そう考えることでリオンは、走り続けることができた。
何より『走る』だけならば、リオンにもできる。村の女の子を魔術師から守れと言うわけでもない。
「間に合え……間に合え、かっは、間に合え!!」
何か口にすれば走力が落ちるように思われるが、少年の限界を超えた体を動かすためにはそうする他なかった。
魔力が無ければ努力で補う。体力が無ければ気力で補う。優れた力を持たないリオン・オルマークスのやり方。
「限界、なんてないんだ……限界なんて!」
拳を握り直し、腕を振る。腕を振れば足が動く、そう言い聞かせて腕を振る。腕を大げさに振る少年の様子は、ドクターMが言った『助けられる数の限界』を振り払っているようにも見える。
岩陰に待機させておいた蒼い機体が目に映り始め、少年の目は一瞬輝きを取り戻した。折り返し地点はすぐそこだ。
満身創痍で長い、長い、折り返し地点に辿り着いたリオン。今では飲み込む唾ですら喉に痛みを走らせる。
巨大な杭打ち機を手足に装備した蒼きメタルフレーム、長い砲身を背負ったノーション達の白きメタルフレームがそこに健在していた。
「……お前ら、誰だ。 その機体から……離れろ」
メタルフレームに向けて擦れた声を出したのはリオンだった。蒼い機体に取りつく黒いシルエットが警戒心をより刺激する。
何より、メタルフレーム両機のコックピットが開かれているのだ。この情報は、リオンがこの者達のことをタダものでないと判断するには十分過ぎた。
「俺たちは軍に乗っ取られたそこの村の人間さ。 俺たちを知らねぇってことは村の人間じゃねぇのか。 それとも軍に魂を売ったてめぇらは、俺たちのことなんて忘れてちまったか?」
コックピットから面倒そうに体を乗り出す太った体型の男。
「忘れられたら困りますねぇ。 もっとも、私たちは今の村の方々にとって忘れたい過去なのかもしれませんがぁ。 それはそうと、この機体はロックもされずにここに落ちていた物です。 放置されているMFは、サウザンド以内ならば自分の物にできる。 法律でもそう定められています」
腕の杭打ち機に片手を置き、メガネを掛け直す痩せ型の男。
「そうそう、これはオレたちが拾った物っちゃ。 よそ者は帰っちゃ、帰っちゃ」
足の杭打ち機にもたれ掛かり、短い顎髭を撫でる背の小さい男。月花に取り付いている三人組の男たちが口々に言った。
「ちょっと待て! それは俺達の……お前らのじゃない。 勝手に触るな!」
俺達の機体だ、そう言いかけて口籠る。
機体に近づこうとしたリオンだったが、一本の赤い線がリオンの頭に付き付けられていることに気が付き、動きを止める。
眉を潜め、赤い線の先――機体の足元にいるチビを睨むリオン。静止したリオンを眺めながらチビがはっきりとよく聞こえるように言い直した。
「いいや、オレ達の機体っちゃ。 ここに落ちてたんちゃよ、ロックもされずに」
ロックもされず、ここまで整備されているメタルフレームが二機も落ちているわけがない。月花の整備状況を見れば、誰かの所有物だとわかるはずだ。
もし、セレネかノーションがここへ来てロックを解除したままどこかへ行ってしまったとしても、両機のロックが解除されているわけがない。何故なら、リオンとセレネそして、ノーションも自分達の機体のロックナンバーを一切教え合っていない。両機のコックピットが開いている状態などあり得ないのだ。
ノーションとセレネが村で合流し、二人でここへやってきたとしても二人揃ってメタルフレームを放置するとは考えにくい。
つまり、月花に乗り込んでいる三人組は、機体のロックをなんらかの方法で破り、盗み出そうとしている盗人である可能性が高い。
(こんな時に、盗賊……。 基地を奇襲したのは、こいつらか! いや……でも人数が少な過ぎるし、わざわざ基地を襲わなくても月花は盗める。 デブのおっさんが自分達のことを村人って言ってたことも気になるな)
両手を上げながら、推理を始めるリオン。
三人組みの言葉のなまりが、村で出会った何人かと似ていることと、まだ自分が生かされているということから、男達を村人と仮定することにした。
盗賊ならば、見るからに金目の物を持っていないリオンの容姿を見て、生かしておくだろうか。女だったらその可能性もあったかもしれないが、男ならば騒がれる前に殺すだろう。男で遊ぶ盗賊などいない。リオンが男達に話しかけた瞬間、弾丸がその黒い瞳を撃ち抜いているはずだ。
それにもかかわらず、月花の足元にいるチビが持つ銃は、依然とリオンの額に向けられたままであるし、男達も意外な客が来たことで少し焦っているようにも見える。
「俺は、ただの旅人だ。 村の人……なんだな? なら、話を聞いてくれ。 今、村の人達が大変なことになってる。 人の命が掛っているんだ。 今も死んでる人がたくさんいるかもしれない……俺は、その赤いペンダントを取ってくるように言われただけなんだ。 それがあればみんな助けられるんだよ! だから、今すぐそれを返してくれ!」
コックピットから顔を出しているデブの手には二つの赤い石があった。喉から手が出そうになるリオン。鎖で繋がれた二つのペンダントが村人の命を繋ぐ。静止を強いられる一方で、リオンは居ても立ってもいられない気持ちになっていた。
肩で息をしながら物欲しそうな眼差しを浴びせる少年をゆっくり眺め、男達はアイコンタクトを取り合い、満足げに三人が唇を歪ませた。
「……やれねぇな」
デブが声を絞り出す。少年は呆気にとられたまま声を漏らした。
「信じてくれよ! 俺は本当に――」
「坊主を信じるとか信じないとかの問題じゃない。 俺の個人的な問題でな」
その発言こそ信じられないと言った顔をした少年を見て、三人組は笑い声を上げた。
「ふざっけんなよ、このデブ野郎!! うっ……」
リオンはもう我慢できなかった。怒りの炎が胸の中で燃え上がる。しかし、チラつくレーザーポインターを口に当てられ怒りの炎は蓋をされた。
「ふざけてなんていねぇよ。 坊主の話が本当だとしても、俺たちを見捨てた野郎を助ける義理はねぇって言ってんだ。 これがアイツらの命握ってんなら、誰が渡すかってんだ。 裏切り者はさっさと死ねばいいんだよ」
「……何、言ってやがる」
ペンダントを宙に投げて遊んでいるデブに聞き返すリオン。
この現状で見捨てているのは三人組の方である。意味のわからない発言、ゆっくり話すデブ、目の前を挑発するように行き来する赤いレーザーポインター、この場にある全てが憎たらしく感じ、静かに拳を握った。
「どうやら、坊主は本当に旅人らしいな、しかも相当の馬鹿だ。 馬鹿なら仕方が無い、教えてやるよ、この村に住む奴らの罪を」
デブから馬鹿と言われて反論できず、歯を食いしばるリオン。決して自分でも賢いと思ったことはないだろうが、他人から馬鹿と言われることには腹が立つようだ。
そんなリオンの心境などお構いなしに続けるデブ。
「今、残っている村の連中はな……俺達がハンスタと戦っている時、一切加勢してこなかった腰抜け共だ。 それどころか、俺達を捕まえてハンスタに売りやがった裏切り者なんだよ!」
「腰抜けが死のうが私たちには関係ない。 村のために戦った私たちに厄介事を押し付け、自分達は悪くないとハンスタに村だけでなく、魂まで売った彼らを救う義理がありますか? 彼らに返す義理は、裏ギリが相応しいでしょう?」
「裏切られたオレ達は、朝から晩まで血反吐を吐きながらMFの掃除から雑用をさせられてきたっちゃ。 労働に耐えられず死んだ奴も……家族を目の前で殺されて自殺した奴もいたっちゃ。 ハンスタの受け売りっちゃが、目には目を歯には歯を……裏切りには裏切りをっちゃ」
デブが唾を吐く、メガネが口元を歪める、チビが声を上げてちゃっちゃっと唸った。
そして、押し黙るリオンを確認し、デブが続けてのっそりと声を出す。
「それに……だ。 どうして坊主はペンダントに固執する? ハンスタにそう言われたからか? 村の連中が人質に取られているならMFで殴り込みに行けばいいだろう? そんな度胸もねぇやつの言うことを聞けるかってんだ。 殴り込みに行くから機体を返せと言う『男』なら、話を聞いてやらんでもなかったが、坊主は鼻っからペンダントの話ばかり、言われた通りにしかできない毛も生えてねぇガキに協力なんてするか。 まさかこれがMFを凌駕する魔法のペンダントなんて言わねぇだろうな?」
茶化すようにデブが魔石をコックピットから垂らす。
黙って男達の言葉を受け続けるリオン。何も言い返さないのではなく、言い返せないのだ。螺旋状になった感情の渦が脳裏を貫き、摩擦で思考を焼き焦がす。煮詰まった思いと疲労が少年の判断を鈍らせる。少年からは余裕と言うものが微塵も感じられない。
「治せる……爺ちゃんなら絶対やってくれる。 みんな助けられるんだよ! だから、ペンダントを……魔石をさっさと寄越しやがれ!!」
少年は言ってはならないことを口にしてしまった。怒りで我を忘れてしまったのか、焦りで考えが追い付かなかったのか、いずれにせよリオンは、ペンダントのことを“魔石”と口走ってしまった。
最初から男達とリオンは話が噛み合っていなかったのだ。
一言もリオンがハンスタという人物の名前を出していないと言うのに、ハンスタという名前を何度も出していた男達は、まさか村人達が植物の毒で死にかけているなど想像もできなかったのだろう。ハンスタに抵抗していたという彼らが、ハンスタによって栽培を強要させられている植物のことなど詳しく知っていたとも育てていたとも考えにくい。
そんな男達は今や顔色を変えて、ペンダントを眺めている。メガネが満足げに鼻を鳴らし、声を上げた。しかし、リオンは未だに何が何だかわからないといった様子だ。
「なるほど~。 すみません、私たちは勘違いをしていました。 君は今“治せる”と言いましたねぇ? つまり、村の方々は揃いも揃って怪我をしていることになる。 私たちはてっきり、人質にされているのかと思っていました。 いや~、ハンスタの手口はいつもそうでしたからねぇ。 基地であった騒動の責任を誰かが取らされているのかとばかり……私としたことが、先入観はいけませんねぇ」
リオンはメガネのインテリぶった話しを黙って聞く。
「そしてあれは“魔石”だったのですか。 君は悪い子だ。 この状況で大人を騙そうなんて……君の口ぶりからするにあの魔石には、人を癒す力があるということになる」
全てに納得がいったと言いたげな声を出しながらメガネは首をゆっくり縦に動かし、デブが喜びの声を上げる。
「魔石はただでさえ計りしれない価値がある。 それに人の傷を癒す魔石など聞いたことがねぇ。 例え、魔石が偽物だったとしても、この機体達を売れば、多少の金にはなるだろう。 基地から逃げだせただけじゃなく、MFと魔石も手に入るとはツイてるとしか言いようがねぇ」
会話が続く中、デブがいやらしく擦れる声で確信をついたように笑った。
それを聞いたリオンは髪を逆立たせて叫ぶ。
「こんな時に金なんて関係ねぇだろう!! 早くそれを渡しやがれ! 人の命、掛ってんだぞ!! それにさっきから、ハンスタ、ハンスタってムカつく野郎の名前ばっかり呼びやがっていい加減にしろよ! 村のために戦ったことがあるんだったら、少しは村のためになることしやがれ! 困った人がいたら助けるって習わなかったのか? 腰抜けで子どもは、お前らの方だ! いや、子どもでも人助けはする、あんたらは子ども以下だ! それに、人のメタルフレームに土足で上がりやがって、さっさと降りやがれ!」
溜まりに溜まった怒りが言葉になり、口から次々と発射されていく。言っているリオン本人でさえどこまで言葉が出るのか、どこで区切ればいいのかわかっていない。ただ、感情のままに腹から声を出す。
銃口が向けられていることすら忘れているようだった。怒鳴られている相手が盗賊ならば、すぐに引き金を引かれていただろう。しかし、怒鳴られている相手は幸いなことにすぐ引き金を引く類の人間ではなかったようだ。口から発射された弾には口から発射する弾で答える。
「黙れ、ガキがぁ! これが金になる石と知って渡せるか! どんな状況であろうと金が全てだ。 金さえあれば力も地位も正義すら買える。 軍人が何十人も村の人間を殺しても罪にならないのは何故だ!? 反攻した見せしめに仲間を八つ裂きにされたのに、文句が言えねぇのは何故だぁ!! 俺たちがハンスタにコキ使われるようになった一番の原因は金が無かったからだ!! 俺たちはこの魔石とMFを売り払って力を手に入れるんだよ! こんなクズと腰抜けしかいねぇ村なんてどうなろうが知ったこっちゃない。 ……こんな村、さっさと無くなるべきなんだ! 何も知らねぇよそ者が知ったような口を聞くな!」
言い終わるや否や、肩で息をする両者。メガネとチビは二人の剣幕を目のあたりにして呆気に取られている様子だ。
汗を吸い過ぎた衣服は、色が濃くなった場所が長過ぎる前掛けのように下半身まで広がっており、少年がどれだけの想いでここまで来たのかが見て取れる。
一方、デブは、過度の労働で皮が何重にも破けて硬くなった十本の指に力を込め、手を震わせている。その短く固そうな手はワニを思わせる。
『金』は『全』だと。ゼロの数と力はイコールで結ばれているのだと悲痛を叫ぶデブ。
そよ風の音が聞こえる程にまで静まり返る一同。夜空に一つの流れ星が流れた。まるで、誰かが零した涙のように線を引いて地平線へと消え去って行く。
「いいから石を返してくれ。 時間が無いんだ。 金はどこにだってあるだろ……命は、今ここにしかないんだぞ」
俯いた少年が懇願するように声を漏らす。こうしている間に何人の村人が手遅れになっているのかなど少年はわからない。ただ、見殺しにしている気分と極度の緊張で、吐き気が込み上げてくる。
事態は一刻を争うのだ。
「坊主。 人間、死ぬ時は死ぬんだ。 MFと魔石は渡せねぇが、俺達も鬼じゃない。 機体と石をプレゼントしてくれた坊主には選択肢をやろう。 脳天をブチ抜かれて荒野に死体を捨てられるか、今すぐ目の前から消えて、命だけ助かるか。 できることなら俺達だって人は殺したくねぇんだ。 命は、今ここにしかないなら坊主の選択は決まってるだろ?」
「そんなに、金が大切なのかよ……」
デブの寛大な提案を無視してリオンは月花を見上げた。デブは、少々呆れたと言った仕草をして答える。
「ふん、大切さ。 他人の命よりは……な。 坊主も大人になりゃわかる。 この世界を動かしているのは、人情や友情じゃない。 金だ。 人は裏切る……でも、金は裏切らない。 感情が無いからな。 それに、困った時はお互い様、見殺す時もお互い様だぜ」
感傷に浸るデブとの会話はそれ以上続かなかった。少年は逃げるような素振りを見せない。数秒が数分に感じられる緊張感の中、リオンは岩のように佇み、拳をゆっくり握りしめては開いてという単純な動作を繰り返している。
(おっさんらの気持ちはわかる……でも、でも、やられたからやり返して――)
頭にレーザーポインターの赤い点を付けられたまま拳を力強く握るリオン。そして、ハンスタにやられた時と同じく、素人丸出しのファイティングポーズを取った。
「そんなこと繰り返してたら誰も信用できねぇぞ! 人は裏切る? 当たり前だ! だから、信用してもらえた時、嬉しいんじゃねぇかよ!」
周囲から冷たい眼で見られていた時、ウインド村で初めて、カースト達にメタルフレーム・ディスカバリーに乗せてもらった日のことを思い出してリオンは更に続ける。
「加勢してこなかったんじゃなくて、加勢したくてもできない力の無いやつの気持ちをあんたらは考えたことがあるのか? 戦いたくない人がいたのに、あんたらは無視して戦っていただけじゃねぇのか? もしそうなら、あんたらはハンスタと同じことを村の人にしてたことになる。 だから、見捨てられた。 それを裏切ったなんて決めつけて……裏切られた、裏切られたって被害者は自分だけだと思いやがって! 父親が軍から殺人者扱いされた上、服を脱がされそうになっていた女の子もいたんだぞ。 あんたらだって辛かったのかもしれないけど、村に残っている人も十分に辛かったんだよ!」
月花の腕に乗っているメガネが眼鏡を掛け直してリオンを睨む。
「何も知らないよそ者がよくも吠えましたね。 君が言っているのはただの推論と理想論です。 村人でない君が何故、村の人の気持ちがわかるのですか? 村人の気持ちは村人だった私たちがよく知っている。 私たちは君が言った少女のような被害者を二度と作りたくなかったから立ち上がったのですよ。 それが、その有様ですか! やはり村の存亡をかけてでもあの時、戦わなくてはならなかった。 今やハンスタは軍のMFだけでなく遺跡からもMFを発掘し、力を固めている。 彼を倒すなどもはや不可能です。 アイツさえ来なければ、アイツさえ! いえ、私たちにもっと……力があれば!」
メガネが杭打ち機に拳をぶつける。鈍い音がはっきりと聞こえる程、力がこもっていた。
その様子をリオンは瞬きもせずに見守る。そう、力があれば力に対抗できる。それは力無き者の言い訳だと聞こえるかもしれない。しかし、力に勝るものは、また別の力でしかないのだ。
弱肉強食。この四文字こそ、世界のありかたなのである。いくら気高き志を持っていようとも、いくら平和を祈ろうとも力がなければそれは『肉』でしかない。
この事実をこの場の四人は、経緯は違えど同じ人物から身を持って思い知らされた。
誰も動こうとしない中、一番高い位置にいるデブが何かに気が付いた素振りを見せる。
しかし、少年の背後から弾丸と変わりない速さで、月花の足元へ飛んで行く『石粒』を目視できた者などいるはずがない。
「っぐぁぁ!! ひぅ、ぃう、ひぃぅ」
チビが突然声を上げ、右手を押さえながらうずくまる。その様は勝手に暴れている右手を全身で押さえ付けようとしているようだ。
チビの周辺にはグリップと銃口、照準器など粉々になった『銃だったもの』が散らばっている。当然、リオンの頭からもレーザーポインターは消えた。
「全く、男が情けない声で鳴かないでくれる? あんまり情けないと……もっと、鳴かせてみたくなるじゃない?」
肩までの金髪を揺らし不敵に笑う女が堂々と姿を現した。この場に、彼女の敵などいない、まさに不敵。
「ノーションさん!」
「ずいぶん汗臭くなったわね、リオン。 臭いで集中力が乱れるからあんまり近づかないで。 さて、盗人さん達、私の可愛いMF……アルテミスを――」
返してもらおうかしら、と続けてリオンの足元に転がっている次の弾を拾う。次の弾を補充し、前髪を掻きあげこう言った。
「さぁ、股の銃をブチ抜かれるか、ケツの穴を増やされるかどっちか選びなさい」
白衣の悪魔が鬼畜な笑みを浮かべ、その血のような赤色の唇で男達を誘惑する。




