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巻き込まれただけの高校生、冒険者になる  作者: 木下美月
第五章 ダンジョンと探索者
99/144

幕間 夢見の王女と時繰の女神1

 

「フィオナ、どうしたの?」


 わたしとフィオナ、それからガイストの三人で荒野を歩いてる最中、フィオナは突然立ち止まって振り向いた。

 返事もせずに暫く後ろを見つめていたけど、そこには何もない。


「フィオナ?」


 もう一度呼ぶと、やっと返事をしてくれた。


「……待たせたな。そろそろ転移で飛ぼうか」




 わたし達の旅は、歩きと転移を交互に行なっていた。

 目的地は暗黒大陸だけど、そこに一息で行くことはしなかった。


「なぁ、なんで一気に暗黒大陸に行かねんだ?」

「転移魔法の移動先は、一度行った場所という制限がある。こうして幾つかのスポットを記憶しておく事で、ミーシャの転移魔法の利便性が増す」


 という事らしい。

 とは言え、今のわたしに転移魔法は使えない。フィオナの転移魔術でここまで来た。


 現在地は最果ての荒野、ここを越えれば暗黒大陸の入口がある海に出る。



「そういや、この荒野でデカい黒狼に襲われたんだけどよ、あの狼、喋るし獣人の赤ん坊背負ってたし、なんだったんだ?」


 ガイストは過去の旅の話をよくしてくれる。そして、なんでも知ってるフィオナはその疑問に答えてくれる。


「原初の生命だ。彼は暗黒大陸で生まれ、こちらで暮らしている数少ない者だ……子育てを始めたのは知らなかったがな」


「は? 知り合いなのか? てか原初の生命ってなんだよ?」


「君もあの地へ行ったのならわかるだろう。原初の生命は君達の上位存在。世界の始まりに最も近い生命。君達は人から生まれるが、原初の生命は自然から生まれる。気が付いたらこの世界に存在している、そういうものだ」


 フィオナは色々答えてくれるけど、話が難しくてよくわからない。


「えっと、じゃあ、原初の生命には親がいないって事、だよね? もしかしてフィオナもそうなの?」


「いや、私は人の子だ――だが、父が原初の生命だった」


 最近、フィオナの感情がわかるようになって来た。

 無表情で淡々と話すばかりの彼女だけど、今は少し……寂しそう。


「さて、転位しようか。集まってくれ」


 指輪を付け替えて準備するフィオナの近くに寄る。あの指輪が魔術を発動する媒体らしい。


「おいおい、折角お前のダチが近くにいるのに会いに行かねぇのか? また会うと思って大量の菓子を買い込んだのに……」


 ガルレア王国に寄った時、沢山買い物してると思ったら……配るためだったんだね。


「友人ではないし、その菓子はまだ残しておけ」


 そう言ってからフィオナは魔術を発動させて――次の瞬間には、三人とも真っ暗闇の中にいた。


「な、なんなの、ここ……」


 何もない暗闇。恐ろしく不気味で、早く出たい。


「ミーシャ、覚えておけ。これが大いなる意思が齎す虚無だ。かつてこの地で禁忌に触れた者を飲み込もうと、大いなる意思は介入して来た」


「その人達は、どうなったの?」


「虚無に飲まれた者はいなかった。一人の王が……大いなる意思を欺いたからな」


 また、寂しそうにしてる。


「……フィオナ、辛いなら無理しなくても」


「気にする必要はない。話すべき事を話しているのだ」


 そう言ってから歩き出すフィオナ。

 わたしとガイストは顔を見合わせてから、ついて行った。




 ⭐︎




 それから何度か転移魔術を使用して、辿り着いたのは大きな街。


「……変わらないな」


 小さく呟いたフィオナは、今は認識阻害のローブを着ている。


「ここからはガイストに先導してもらいたい。ここで過ごすのは一晩でいい。荷物を取りに行くだけだからな」


「あぁ、わかったぜ」


 ガイストはギルドマスターをやってる時みたいな薄着じゃなくて、ちゃんとした鎧を着て、背中には大きな剣と盾を装備している。まるで騎士みたい。


 ガイストに続いて小さな扉に向かうと、中から蜥蜴人が出て来て驚いた。事前に聞いていたけど、本当に姿形の違う種族が暮らしてるんだ。


「ん? アンタどっかで……おぉ! ガイ坊じゃねぇか!? いやぁ、懐かしいなぁ。こんなにデカくなっちまって」


 どうやらこの人とガイストは知り合いらしい。そう言えば十年くらい前に、ガイストは来た事があるんだっけ。


「坊はよしてくれよ、あの頃だってそれなりの歳だったし、ガタイもそんな変わってねぇぞ」


「はっはっは! 俺からしたら短命種は皆んな子供さ!」


 朗らかに笑いながら蜥蜴さんは街の中に案内してくれる。


「んで、そちらの二人は?」

「旅の仲間さ」


 わたしとフィオナが軽く会釈すると、蜥蜴さんはニカッと笑った。


「そーいや、ルルちゃんの宿屋はまだあんのか? あればそこに泊まろうかと――」


「ガイスト、待て――」


 普通に話してるだけなのに、フィオナは焦ったようにガイストを呼び止めた――その瞬間、空気が変わった。


 さっきまで色んな人が歩いていた街の中に、誰一人いなくなった。

 まるで、わたし達三人を残して皆んなが消えてしまったみたい――そう思ったのも束の間、気付いたらガイストの前に一人の女の子が立っていた。


「やっほーガイおじ! 久しぶりだねぇ、アタシの事呼んだ?」


 元気に片手を上げた後、手を後ろで組んでガイストの顔を覗き込む。

 リューと同じ黒髪と、血のように赤い瞳が印象的な、普通の小さな女の子……に、見える。

 けど、なんだか寒気がする。


「ん、おぉ、ルルちゃんじゃねぇか! 相変わらずちっせぇな!」


 既に会った事があるらしいガイストだけど、彼も一瞬驚いた様な表情をした。

 ルルちゃんと呼ばれた子は、手を後ろで組んだままわたしの所まで歩いて来る。


「アナタは初めましてだね! アタシはルルだよ!」


「わたしはミーシャ……」


「じゃ、ミーちゃんだね!」


 マナみたいにわたしを呼んだルルは、フィオナには声を掛けずにそのままわたし達の周りを歩き出した。


「なぁルルちゃん、街の人達は急にどこ行っちまったんだ?」


「んふふー。気になる? 教えてあげてもいいんだけどさー、アタシが教えなくても、わかってる人がいそうなんだよねー」


 そう言ってから、ルルはフィオナの前で足を止めた。

 まさか、認識阻害を看破しているの?


「それが誰かはわからないが、その人が話さないなら君が話してくれないか?」


 でもフィオナはまだ知らない人のフリを続けている。だから多分、完全にバレたわけじゃないんだ。


「……ま,いーや。ガイおじとミーちゃんの為に簡単に説明してあげるけど、アタシの固有魔法だよ。限られた範囲を幻覚で包むの! そうすると、その場所が周りと切り離されるってワケ。アナタ達からすれば、周りの人が突然消えたように感じただろーけど、周りの人からすれば、アナタ達が突然消えたように感じてるよ!」


 初めて聞いた魔法に戸惑うけど、ガイストは慣れた様子。


「へぇ、そんなスゲェ魔法使えるなら、前来た時に見せてくれりゃ良かったのに」


「ダメダメ! 力は無闇に使うものじゃないって、グラ爺に言われてるんだから!」


「そんな大事な力を、なんで今使ったんだよ?」


「んー……ちょっと気になってさ……ま、いーよ。あの人が本気で隠れようとするなら、アタシにわかるわけないしねー。それより宿屋探してるんでしょ? ウチに来なよ!」


 提案と同時に両手を叩き、それと同時に周囲の景色が――消えた人々が戻った。

 さっきまで感じていた寒気や嫌な予感も、もうなくなっている。

 見逃されたって事?

 困惑するわたしを置いて、ガイスト達は適応していく。


「おいおい、急にガイ坊達が消えたと思ったら、やっぱりルルちゃんか!」


「ちょっとしたイタズラだよぉー。あんまり怒らないでっ!」


「イタズラで無闇に力を使うんじゃねぇ!」


 人族のガイストと、見るからに人じゃない蜥蜴さん、そして多分人じゃない女の子、ルル。

 種族の違う三人が笑い合ってるのは不思議な光景。

 ルルに対する不信感はまだ残ってるけど、こうして笑っていれば皆んな良い人に見える。


「ここって、素敵な街だね」


 わたしの呟きを横で聞いてたフィオナは、どこか嬉しそうだった。




 ⭐︎




 それからルルの宿屋に案内されて、わたし達は部屋をとる。皆んな別々の部屋をとるって言ったら、ルルは「仲が悪いの?」と不思議そうにしていた。

 わたしも皆んな一緒でいいと思うけど、フィオナもガイストも一人が好きらしい。ここに来る前のガルレア王国でもそうだった。

 思い返せば、お父さんとお母さんが死んでから、わたしはいつも誰かの側で眠っていた。最初はリューで、それからはレイラとマナが同じ部屋で。

 そう考えると、一人になった今は少し寂しいかも。




「ミーシャ、入るぞ」


 時刻は夕暮れ過ぎ、荷物の整理をするわたしの部屋にフィオナが来た。


「もう夕飯?」


「いや、まだ時間がある……今の内に荷物を取りに行こうと思ってな。付き合ってくれるか?」


 ガイストは呼んでないみたいだけど、どうしてわたしを誘うんだろう?

 少し意外っていうか、なんだか、初めて会った時よりも柔らかくなったみたい。


「うん、わたしも行きたい」


 わたしが答えると、フィオナは転移魔術で飛んだ。


 突然景色が変わって驚いたけど、次に現れた景色を見て、転移を使って移動した事に納得した。


「ここは、あの綺麗なお城の中だよね?」


 綺麗な絨毯が敷かれた長い廊下は、お城みたいな豪華さ。お城に入った事がなくても想像がつく。


「あぁ、城内は無人とは言え、入口に立つ警備は未だ存在しているからな」


「え、無人なの?」


「……元からこの街に王は必要なかったのだ。皆に慕われ、頼られ、尊敬された者が、皆から王と呼ばれたのが始まりだ。それがいなくなれば、城は不要だ」


 王様がいなくなって、ここで働く人もいなくなったの? なんだかそれって悲しい。まるで、王様がいなくなった事を皆んな受け入れたくないみたい。


「……とは言え、掃除だけは行き届いている様だな。あの頃と変わりない」


 綺麗な窓から外を見たフィオナは、やっぱり寂しそうな様子。もしかしてこの人は――


「この部屋だ」


 そう言いながら閉ざされた扉の前に立ち、ポケットから鍵を取り出したフィオナ。


「ねぇ、荷物を取りに来るだけなら、転移で来れた。この街に寄る必要はなかったよね? 貴女がこの街に寄ったのは、皆んなが無事に暮らせているか見たかったんじゃない?」


 無言で扉を開き、中に入っていくフィオナにわたしは問い掛ける。


「だって貴女は――」


「――夢見の王女」


 突然背後から聞こえた声にビックリして、その場から飛び退いてフィオナの側まで移動した。


「もぉー、そんなに警戒しなくていいのにー。ミーちゃんには何もしないよー?」


 それってつまり、狙いはフィオナって事?

 フィオナは後ろを向いたまま話さない。だからわたしが代わりに相手をする。


「……さっきまで宿屋で夕飯作ってたのに、どうしてここにいるの?」


 わたしの問いには答えず、ルルは話し始めた。


「この部屋はねー、夢見の王女か時繰の女神しか入れない部屋なんだよー?」


「……わたしは入ってるけど?」


「んもぉー、ヘリクツだなぁー。アタシが言いたいのは、なんでこの部屋の鍵を持ってるかって事だよ」


 ……つまり、二つしかない鍵の一つをフィオナが持っていたから、ルルはフィオナの事に気付いたって事?

 これは……言い逃れは出来ないんじゃないかな。

 フィオナがこんなミスをするなんて珍しい。わたしには気付けなくても、フィオナならルルの気配に気付けたんじゃないの?


 ――それとも、気付いていながらも扉を開けたの?



「……わたしにはよくわからない。そもそも、夢見の王女と時繰の女神って誰の事?」


「あーらら。ミーちゃんは何も知らないのに付き合わされてるんだー。カワイソー。じゃ、アタシが教えてあげるねっ!」


 今はまだ、あの寒気がするような気配を放っていない。だから話し合いの余地がある。大人しく聞こう。


「この国、ローズヴェルト王国の王様には、一人の娘がいました! この子はいわゆる天才ってやつで、幼い頃からなんでも出来る凄い人だったんだー」


 それがきっと、フィオナの事なんだろう。


「そんな王女様はいつも研究に明け暮れていて、いつも一人ぼっち。カワイソー、って思ったのかは知らないけど、一人の白猫ちゃんが王女様の元を訪ねました。一緒にあそぼって」


 白猫? もしかしてわたしの同族……ううん、暗黒大陸に住んでるって事は、わたしなんかよりもっと優れた存在なんだろう。


「でも王女様は遊ぶより研究が好きだったから邪険に扱ったんだ。それでも白猫ちゃんはめげずに王女様に付き纏って……いつの間にか、二人はいつも一緒にいる仲になっていました」


 誰かに付き纏われて、それを邪険に扱うフィオナ。なんだか想像出来る。


「でも王女様は相変わらず研究好きだからねー、二人が遊ぶと言っても研究の事ばかりなんだー。でも、それで良かったんだ。何故なら、白猫ちゃんにも意外な才能が眠っていたから! それこそが――」


「――時空魔法」


 ルルの言葉を引き継ぐ様に、フィオナは言った。


「あの頃の私達は知らなかった。この世には干渉してはいけない禁忌があるという事を。ただ好奇心に突き動かされて、探究心に導かれて。そうして作ってしまったのが、これだ」


 フィオナが見せてくれたのは、細工が施された精巧な砂時計。けど、それよりも重要な事は――振り向いたフィオナがフードを外していたという事。綺麗な顔が露わになって、それを見たルルは怒りに顔を歪めた。


「やっぱりフィー姉さんだったんだね……」


 幼い少女の声が震える。握りしめた拳が震える。瞳に涙が溜まる。


「――どうしてっ! どうして今更になって帰って来たのっ! もう、何もかも遅いんだよ……っ!」


 まるでただの子どもの様に癇癪を起こすルルを、フィオナは黙って見ている。


「ねぇ、アナタはグラ爺が死んじゃう事知ってたんでしょ……? 知ってたのにどうして来てくれなかったの……? アナタなら、アタシの知ってるフィー姉さんなら、グラ爺の事だって助けられた筈だよ……」


 ルルの悲痛な声を聞いて、フィオナは何を思ってるんだろう?

 少しの間両目を閉じて、フィオナは語りかけの話を続けた。


「これは時繰の砂時計。夢幻魔法を扱う私と、時空魔法を扱うミリアーナが作り出した魔道具だ。私達は己の力だけでは発動出来なかった禁忌の魔法を、魔道具を介する事で発動可能にしたのだ」


 ルルはその場で立ち尽くしたまま、フィオナの話を聞いている。フィオナの話にはいつも意味がある。だから無視されてるわけじゃないってわかってるんだ。


「魔道具の効果については今は省くが、結論として……禁忌を犯した私達を、大いなる意思は飲み込もうとした」


 その言葉に、暗黒大陸に来た時の暗闇を思い出す。

 空も大地も全部黒に染めてしまえる大いなる意志は、きっと凄く恐ろしい。


「だが……ミリアーナが守ってくれた。この魔道具と自身の力を覚醒させ、私を……守ってくれた」


 フィオナの様子を見るに、ミリアーナさんはその時に死んじゃったんだと思う。きっと凄く大事な人だったんだろうな。じゃなきゃフィオナがこんな辛そうにする筈ない。


「……夢見の王女と時繰の女神。これは人の分際で世界を作り変える程の力を行使した、愚か者を語る話。……私は、もう間違えるわけにはいかないんだ」


 そう言って真っ直ぐルルを見るフィオナに、冷たい声が向けられる。


「……じゃあ、グラ爺を見捨てたのは、間違いじゃなかったってゆーの?」


「君の言いたい事はわかる。私だって、立場が違えばこんな未来は選ばなかった――しかし、調和の意思を持つ私達にとっては、あれが最善の選択だった」


「なんなの、わかんない、わかんないよ! グラ爺もフィー姉さんもリューちゃんも! 調和調和調和って! ワケわかんない! ねぇ、それってアナタのお父さんよりも大切な事なの!? アタシにはお父さんもお母さんもいないからわかんないけど、でもずっと一緒にいたおばさんが死んじゃった時は凄く悲しかったんだよ!? お父さんが死んじゃったら、きっともっと悲しいはずでしょ!?」


「――ルル。残された者の悲しみは、私にもわかる」


「だったら――」


「――常に陽気であれとは言わない。だが、君が君のままでいる事を、私は願っている」


「――っ! どうして、その言葉を……」


「私の父ならそう言うだろうな。あの人が残した言葉をどう受け止めるかは君の自由だ。ただ――私は、私の為に父が言ってくれた言葉があるからこそ、今ここにいる」


 わたしには二人の間に何があったのか、詳しい事はわからない。

 でも、恨まれ続けていたフィオナも、恨み続けていたルルも、お互いに王様の事を大切に思っているって事はわかる。

 ルルもそれがわかったんだろう。


「フィー姉さんは……あの頃のフィー姉さんのままなんだね……?」


「どうだろうな。最近はよく、変わったなどと言われる事が多いが」


「もぅ、イジワル」


 口を尖らせながらフィオナに抱きつくルル。

 数百年越しの和解を見て、それだけでもここに来た意味はあるだろうと思った。








 それから暫くフィオナにくっ付いていたルルだけど、夕飯の支度をすると言って帰って行った。


「貴女はここの人達に恨まれてるって言ってたけど、それはちゃんと話せば解消出来そうだね」


「……どうだろうな。そもそも、ここに来た目的はそこじゃない」


 フィオナが誤解されたままなのは悲しいけど、やるべき事があるのも事実だ。

 わたしは渡された砂時計を改めて見る。


「これを使えば時空魔法を発動出来るの?」


「私の説明に欠落があったようだな。それは力を引き出す物ではなく、私達が力を込めた物。効果は、世界の時間を停止させると同時に、対象を夢境の世界に転移させる事」


「えっと、つまり……皆んなが止まってる間、これを使った人は夢の世界で遊べるって事?」


「……遊ぶ目的で作ったわけではないが、その理解で間違ってはいない。とは言え、これを君が理解した所で、使うのは君じゃないがな」


「フィオナが使うの? それなら返すよ」


 砂時計を返そうと手を伸ばすけど、フィオナは首を振った。


「暫くは君に貸しておく。白猫族の君が時繰の砂時計を持っていれば、自然と彼女の事を思い出す」


 それってミリアーナさんの事だよね?

 ミリアーナさんを思い出すと、何か良い事でもあるの?


「ミリアーナが女神と呼ばれる理由を話していなかったな。彼女は白猫族の巫女であり、神に仕える立場として一族から敬われていた。そんな彼女が時空魔法を扱って私を守った時、ミリアーナは神に至ったのだと一族は信じた。以降、ミリアーナは望んだ未来を手繰り寄せる、時繰の女神と呼ばれる事となった」


「……そういえば、リュドミラは神って呼ばれたから時空魔法を扱えたんだよね? でもミリアーナさんは神って呼ばれる前に時空魔法を扱った……それって、本物の神様って事?」


「神など存在しない。ミリアーナの才能と努力、それから一族の寵愛が彼女に力を授けたのだ」


「…そっか、凄い人だったんだね。でも、そうなると……わたしに時空魔法が扱えるとは思えないよ。わたしには才能が無いし努力する時間も無い。寵愛なんてよくわからないし」


 少し弱音が混じっちゃったけど、わたしが言いたいのは「どうすれば時空魔法が使えるの」って事。

 フィオナはそれがわかってる様で、真剣な目でわたしを見つめた。


「君の言う通りだ。君はミリアーナとは全く違う。彼女になれる筈もない」


 自分の無力さはわかっているつもりだったけど、いざ面と向かって言われると悔しい。


「だから――」


 でも、この劣等感を抱えたままわたしは前に進む。

 その決意を胸に秘め、フィオナの言葉を聞く――



「――君には時繰の女神になってもらう」


「え――?」


 さっきの言葉との矛盾に混乱して、わたしの頭は暫く働けなくなった。





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