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巻き込まれただけの高校生、冒険者になる  作者: 木下美月
第五章 ダンジョンと探索者
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雪辱戦

 

「貴方は、何をしてくれるんですか?」


 戦う決意をしたミドリは、怒りの炎を瞳に宿したまま俺に問い掛けた。


「前で敵の攻撃を受ける。だから攻撃はお前がやれ。俺が力尽きる前に仕留めろ」


「……本当に受け切れるんですか? 直ぐに力尽きたりしませんよね?」


「どうだろうな。俺が死んだり、逃げ出したりしたらお前は諦めるのか?」


「まさか――もう諦めませんよ」


「なら話す事は無い」


 敢えて助言はしない。彼女自身の手で倒したという実感が薄れるから。


 階段の手前まで来て、もう一度ミドリの表情を確認する。

 視線は真っ直ぐ敵のいる方向を見ており、怯えている様子はない。


「行くぞ」


 右手に氷の籠手を作りながら階段を上る。

 上り切ると、さっきと同じ場所にコラプトゴートは待ち構えており。


「……っ」


 一瞬息を呑む様な声が聞こえたが、彼女はそれを自ら吹き飛ばす。


「ウィンドカッター!」


 この世界での魔法は全て固有魔法だ。故に詠唱は必要ない……とも言い切れない。

 魔力操作能力が拙い魔法使いは、詠唱を行う事によって「何をするのか」を明確にして魔法の発動をスムーズにする。

 現にミドリが放った魔法は、魔法と共存している異世界人と比べても遜色無い力を発揮している。

 しかしコラプトゴートの身体能力は高く、風の刃をサイドステップで避けると、そのまま一直線にこちらへ突進して来る。


「――っ!」


 大きな足音と共に迫る死の恐怖に、ミドリはやはり狼狽える。


「しっかりしろ! 俺がいる限りお前が死ぬ事はない!」


 俺は前に出て、自分の三倍ほど大きな巨体と正面から対峙する。

 振り下ろされた拳を義手で弾き、無防備になった胸に飛び蹴りを喰らわす。

 筋肉で覆われた肉体の強度は高く、ダメージはあまり無い様子。

 しかし小さな人間に拳を弾かれ、更にその場から僅かに後退させられた事によってコラプトゴートの注意は俺に向く。

 そして、気付いたのだろう。

 ついさっき威圧によって自らを退けた存在が、そこにいる事に。

 一歩、二歩。

 少しずつ後退して逃げようとするが――


「ウィンドランス!」


 意識外からの攻撃。

 先程よりも早い風の槍は、正確にコラプトゴートの胸に突き刺さる。

 彼女の魔法ではこの分厚い筋肉を貫く事は出来ない。

 しかし抉れた肉が、噴き出た血が、凶暴な魔物の理性を吹き飛ばした。


「――――!」


 それは安全圏から遠距離攻撃を放つ、矮小な人間に対する憤怒の雄叫び。

 怒りが判断を誤らせ、逃亡の選択を捨てたコラプトゴートは怒涛の攻撃を開始する。

 まずは目の前にいる俺を消そうと考えたのだろう。

 見下ろす程小さな俺に、右、左と拳を振り下ろす。

 それを同じ様に拳で弾きながら、後方に意識を向ける。

 魔力を練っていたミドリは、準備が出来たのか俺達の打ち合いを凝視して隙を探している。

 俺は早々に打ち合いを切り上げ、その場で大きく跳んだ後、敵の側頭部に蹴りを入れる。

 頭部に強い衝撃を受けたコラプトゴートは一瞬よろめき、ミドリはその隙を逃さず再び風の槍を放った。

 その槍は、寸分違わず同じ場所を穿つ。


「――――!」


 今度の雄叫びは怒りよりも、痛みの絶叫と言った方が相応しかった。

 先程よりも高い威力で、傷口を更に深く抉られたのだ。強靭な肉体でも怯まずにはいられない。


 この後、敵の攻撃は苛烈さを増すだろう。

 手負の獣は恐ろしいものだ、より一層コラプトゴートの意識を引き付ける必要がある――


 ――そう考えた時だった。



「あぁぁぁあぁあっ!」


 背後から絶叫を上げながら走り出す音。

 言うまでもない、ミドリだ。

 まさか恐怖で正気を失ったのか?


 慌てて後ろを振り向いた所には――確かに恐怖に怯えた目をしながらも、しっかりと前を見据えたミドリが短剣を構えて走る姿。

 恐怖で我を忘れた絶叫じゃない。恐怖を紛らわす為の咆哮だ。

 つまり彼女は、戦う為に前に出たんだ。


 一応フォロー出来るように立ち位置を調整しながら様子を見る。コラプトゴートは痛みに怯んだとは言え、まだまだ動ける。

 突然前に出てきた後衛を叩き潰そうと、右手を振りかぶった。


 俺が受け止めるべきか?


 逡巡するが、ミドリが踏み込んだ足のつま先が、前ではなく左を向いた事に気付いた。

 彼女は敵の攻撃パターンを読んでいる。

 どうやら俺が動く必要はないらしい。

 静観を決め込むと同時に、大きな拳が地面に叩き付けられる。

 紙一重の所で外側に回避したミドリは、コラプトゴートの右腕の下を通り、懐へ潜り込む。


 そして構えた短剣を、今まで抉り続けた胸の傷に差し込む。


「――――――!」


 今までで一番の絶叫を聞き、この戦いの終わりが近い事を感じる。

 だからと言って油断は出来ない――というのは彼女もわかっている様だ。

 短剣を刺すためにゼロ距離となった為、後衛のミドリにとって不利な状況となっている。

 この状況を逃すはずもなく、コラプトゴートの大きな手が彼女の頭を握り潰そうと迫り――


「はぁぁっ!」


 短剣を手放したミドリの手の中で、暴発した様な強い風が爆ぜる。

 身体が軽いお陰もあり、風はミドリを後方へ大きく飛ばした。


 しかし矮小な人間が逃げる事など予想済みとでも言う様に、コラプトゴートは即座に走り出す。

 折角空けた距離をどんどん詰められて行くミドリは――まるで予想通りと言わんばかりに笑っていた。


「これで――終わって!」


 構えた右手からは強力な風弾。

 しかしその風には風刃の様な殺傷力がなく、言ってしまえばただの風だ。

 身体の小さい者なら吹っ飛ぶかもしれないが、コラプトゴート程の巨体ならせいぜいよろめく程度。

 その程度の魔法だからこそ、コラプトゴートは頭部を腕で守りながら前傾姿勢で突き進んだ。

 しかし彼女の狙いは魔物本体ではなく、その胸に突き刺さった短剣だ。

 ミドリの腕力では深くまで刺さらなかった剣は、圧縮した風の力とコラプトゴート自身の走る速度によって深く刺さり――心臓へ到達した。


 急所を突かれたコラプトゴートは瞳孔を開き、その場で膝をつき、崩れ落ちて――光の粒子となって消えた。



「………………」


 後に残ったのは、ドロップアイテムである魔石と角、それから彼女の短剣。

 暫く立ち尽くしていたミドリだが、勝ったという実感が少しずつ湧いてきたらしく、その場に座り込み――


「やっ……た……。勝てた、勝てたんだ……」


 そう言いながら涙を流し、雪辱戦をやり遂げた。






 恐怖に打ち勝ったミドリが一人喜んでいる間に、俺は周囲を警戒しながら端末を取り出した。


 《あ、やっと見た》

 《お疲れ様! 感動しました!》

 《ちょっと見直したぞ》

 《ミドリちゃんにボロクソ言ってる時はぶっ殺してやりたいと思ったけど、ミドリちゃん嬉しそうだから許すよ》



 なんか過激な人がいるけど、見なかった事にしよう。

 それより――


「協会の人いますか? 上の状況が――魔素の異常がなんだったのか、知りたいんですが」


 《伊織協会:五階層から七階層までの魔素濃度は確かに普段よりも高かったのですが、現在は平常通りに戻っています。また、この件に関してお話ししたい事もありますので、どうか無事に戻って来て下さい》


 魔素濃度の異常は五階層だけじゃなかったのか?

 言われてみれば、降りてる最中にあまり魔素濃度に変化がなかった気がするな。



「あの、リュートさん……」


 思考の最中に声を掛けられて、視線だけでそちらを見る。


「さっきは色々言ってしまいましたが、私に勇気をくれる為にキツく言ってくれてたんですよね……? ありがとうございました。お陰で変われた様な気がします」


 ……まぁ、今は考えても仕方ない。身体ごとミドリに向き直る。


「いや、俺はただ無神経な事言っただけだ。それで立ち上がれたのは紛れもなくミドリの強さだ。それより、動けるならさっさと帰ろう」


「は、はい!」


 お互い怪我無く戦いを終える事が出来たが、長話してたら別の魔物と遭遇するかもしれない。


 俺達は破壊された床の場所に行き、そこから上の階までショートカットする。

 俺は身体強化で上の階まで跳べるが、ミドリは身体強化が上手くないらしく、風魔法を使いながらジャンプしていた。しかし操作能力が高くないせいで、着地の時に転ぶ事が何度かあったが、敢えて手は貸さずに見守った。



「問題は、ここからどうするかですよね……」


 壊された床を四度上がった所で、辿り着けるのは奈落の底まで。

 ここから上の岩道まで上れて漸く六階層なのだ。


「風魔法を使って一気に飛ぶ事は出来ないのか?」


「で、出来るわけないですよ! 精々その辺の壁にぶつかって終わりです!」


 つまり、飛ぶ事は出来ても操作が効かないって所か。そういえば俺も最初はそうだったな。


 《マジでどーすんのこれ? 普通に上ったら何十階層あるんや?》

 《伊織協会:ミドリ様の落下時間から計算した所、少なくとも三十階は上る必要があるかもしれません》

 《ヒェッ……》


 一人ならまだしも、ミドリを連れてそんなに歩き回るのは骨が折れる。


「少し離れててくれ」


 言いながら地面に手を付けて、魔力を練る。

 多分、今からやる事はこの世界の人が見たらビックリする。

 だから出来るだけ時間を掛けて、かなり苦労してるフリをする。

 作り出すのは氷の階段。

 無駄な装飾は要らない。幅も狭くていい。強度だけを重視する。

 周囲に冷気が漂い、一段、二段と一つずつ作り――それが上の岩道まで続いた所で、ゆっくりと立ち上がった。


「ふぅ……これで上ろう――」


 《スゲー》

 《マジでどっからこんな強者湧いてきたの?》


「え、こんな事まで出来るんですか……」


 感嘆してるミドリを置いて先に上り始めると、慌ててついて来た。


「リュートさん、私、これからはソロでやって行こうと思います。もちろん配信も続けて、今後は初心者に役立つ様な情報を提供していけたらと思ってます」


「立派じゃないか。頑張れ」


「はい! それで、その、よかったら私のチャンネルに、偶にでいいので教師役として出て頂けませんか?」


「それは嫌だ」


「嫌ですか……」


 ガックリと肩を落とすミドリ。

 彼女を振り向き、「でも」と続ける。


「帰るまで暇だし、教えて欲しい事があれば聞いてくれ。答えられる範囲で力になろう」


「あ、ありがとうございます! じゃあ早速……私、身体強化が出来ないんですけど、なんでですかね?」


「出来ないんじゃなくて、やろうとすると身体が爆発四散しそうって感じじゃないか?」


「あ、それです! 皆んなどうして爆発しないのか不思議で……」


「俺も最初そうだったよ。魔力量が多いのに、それを上手く扱えてないから肉体が負荷に耐えられなくなってるんだ。まずは魔力操作の練習をして、低強度の身体強化が行える様にしたらいい」


「魔力操作ってよくわからないんですよね……どうやって極めたらいいんですか?」


「風魔法で練習するなら、風で浮かせた物を真っ直ぐ飛ばすとか? 自分が飛べたら一番良いけど」


「いやいや、自分は飛べないですけど……でも、やってみます!」


 そうこう話しながら進み、六階層まで戻って来る。見渡しても天井に穴がない為、ここの崩壊はもう修復されたのだろう。大人しく自分達の足で外を目指す。


 道中、何度か魔物と遭遇した。

 その度にミドリが前に出て戦い、戦闘後は俺に助言を求めた。

 やはり彼女の課題は近接戦であり、武器の扱いも上手くない。遠距離で魔法だけ撃っていれば問題無いのだが、彼女自身がソロでやると決めたのだ、頑張って練習するしかないだろう。






 そして、探索者協会のロビーに戻ると大勢の探索者に迎えられた。

 ミドリの無事を喜ぶ者に、彼女を救った俺を讃える声もあった。


 今回の件はこれにて解決。ミドリは無事な上に、探索者として一層励む決意をした。これ以上の結果はないだろう。



 だけど、これは問題の始まりに過ぎなかった。




「リュート様、お時間頂戴してもよろしいですか?」


 協会の職員に呼ばれて別室に案内され、そこで伊織協会支部の支部長と対面する。制服を着こなした五十代程度の女性で、鋭い瞳からは理知的な印象を受ける。

 彼女は井田と名乗り、今回の魔素異常の件について話し出した。


「具体的にいつから異常があったのかは定かではありません。ですがダンジョンの二十五階層以降に生息するコラプトゴートが、五階層まで上って来る程度の時間は魔素濃度に異常が起きていたのでしょう。魔物が魔素が低い場所に向かう事はありませんから」


「魔素濃度は現在正常な値に戻っているそうですが、これは何かしらの対処をしたからですか? それとも時間経過で?」


「時間経過です。五人の職員が計測器を持って七階層まで潜ったのですが、その時までは確かに魔素濃度は異常に高かった。しかし七階層探索中に魔素濃度が下がり始めた為、そこから引き返し、五階層を確認した時には完全に元の値に戻っていました」


「その時、周辺に怪しい人影や痕跡はなかったのですか?」


「私達が確認した限りありませんでしたが……まさか人為的に魔素濃度が操作されたとお考えで?」


「あくまで可能性の話です……ですが、ダンジョンは基本的に元の形に戻る性質があります。破壊された床や壁が時間経過で修復される様に、何者かに操作された魔素濃度が時間経過で元に戻った……。そう考える事も出来るんじゃないかと」


「確かに、あり得ない話ではありません……が、心情的には嫌ですね。探索者を疑うのは」


 ダンジョンの入口は協会が管理しており、中に入るには探索者証が必要。必然的に探索者を疑う事になる。


「取り敢えず、調査が必要です。現時点では魔素濃度を操作する方法すらわかりませんからね。そこで、リュート様に依頼なのですが……魔素濃度異常についての調査に協力して頂けますか?」


 ここで俺を呼び出した理由が話される。


「貴方は魔素計測器を使わずとも肌で魔素濃度を感じられる。そして万が一強敵と遭遇したとしても、お一人で生き残る術を持っている。故に安心して任せられます」


 ネットで調べた事がある。持ち運べる小型の魔素計測器は、十分以上同じ場所に留まる必要があるらしい。それは短い様で長い。計測回数が増えれば増える程、探索に割ける時間は減ってしまう。故に魔素濃度を肌で感じられる人材は有用なのだとか。


「調査というのは具体的に何をすれば良いのですか?」


「リュート様の主な活動場所は神蔵ダンジョンだそうですが、定期的に伊織ダンジョンにも足を運んで頂きたい。魔素濃度に異常があれば直ぐに報告して頂ければ、それで構いません」


 それくらいなら問題は無い。

 問題は無いが、逆にそれが引っ掛かる。


「それくらいなら、態々別の場所で活動している俺に依頼する必要はありませんよね? 伊織ダンジョンで活動している探索者に、魔素計測器を持たせて潜らせれば良いだけですから。今回のコラプトゴートの様な上がって来る強敵を警戒するなら、魔素濃度を計測する頻度を高めればいい。そうすれば異常に早く気付き、強い魔物が上がって来る前に対処出来ますから」


 要するに、俺である必要がないのだ。

 これは面倒だから受けたくないとか、そういう話ではない。

 この人が俺に依頼した本当の目的が知りたい。


「……高校生とは思えないくらいしっかりした方ですね」


「実際、高校は中退しましたので」


「ふっ、そういう屁理屈は子供っぽくて安心しました」


 コホンと咳払いをし、井田さんは話を戻した。


「端的に言ってしまえば、貴方をこの件に巻き込みたいと考えた故に、簡単な依頼という形で繋がりを持とうとしました。姑息な手を使って申し訳ありません」


 確かに簡単な依頼なら受けてもいいかな、と思ってしまう。そして、一度始めた依頼が段々と難しくなって行ったとしても……やはり最後までやり遂げてしまうだろう。

 この一貫性の心理を使って井田さんは俺を巻き込もうとしたらしい。


「それは構いませんが、何故俺を?」


「貴方が自身の頭で考え、最善の選択を行える人だからです。本日のミドリ様救出依頼において、リュート様は我々が期待した以上の結果を出してくれました。言いたい事はわかりますよね?」


 ミドリの命を救うだけでなく、恐怖を打ち払い探索者として復帰させた事を言ってるのだろう。


「この件がダンジョン内で起きた問題である以上、我々の声が届かない窮地に陥る可能性もあるでしょう。そういった時、我々の指示が無くても最善の選択を行える様な方に協力して頂きたいのです」


 それは、信用して貰えたって事だろうか。俺なら間違った行動は取らないと。


「詳しい調査内容についてはまだ何も決まっていません。ですがこの件が片付くまで、貴方には協力者として相談に乗って頂いたり、他の探索者に探りを入れて貰ったりするかもしれません」


 協力者、というのは色んなことをやらされるらしい。そのせいで折角再会した家族との時間が減るのは嫌だ。

 けど、魔素濃度の異常が再び起これば、浅い階層に強い魔物が出没する可能性がある。それで新人探索者が犠牲になるのは、もっと許せない事だ。


「わかりました。調査に協力します」


 俺に何が出来るかはわからない。

 だけど、微力を尽くそう。






 井田さんと連絡先を交換してから退出し、ロビーで待ってたミドリにも連絡先を聞かれる。

 お礼は要らないからなと念を押してから別れ、駐輪場に向かった。

 ついこの前までは一桁だった電話帳の人数が、あっという間に二桁だなと考えていたら、電話が鳴った。



『なんかゴチャゴチャ言ってたから調べてみたけど、アンタかなり目立つ事やってたわね』


 相手はリカだ。どうやら配信を観てたらしい。


「工房戦で優勝すると決めた以上、それは諦めました。それより、メッセージ見ましたよ。工房戦の推薦登録が完了したそうですね。ありがとうございます」


『そう! それについて話よ! 聞いて驚きなさい! 今度の工房戦の優勝商品は――』


 どうせ大した話じゃないんだろうと思いながらも、一応リアクションくらいしてやろうと考え、待ち構える。


『なんと! アンタが欲しがってた戦闘用アンドロイドのベータ版なのよっ!』




「――――」



 戦闘用アンドロイド。

 それは、以前リカに聞いた……ダンジョンで戦う為に作られるロボットだ。


 まさか、こんなに早く目的達成のチャンスが訪れるとは思わなかった。

 これを僥倖と喜びたいが、リュドミラとの別れが近い事を寂しくも思う。


 でも、これでいいんだ。


 お互い、正しい場所に帰るだけ。


 だから、そう。


 これは良い事なんだ


『あれ? 聞こえてる? おーい』


「……聞こえてますよ。嬉しくって言葉を失ってただけです」



 リュドミラがあちらの世界に帰れば、俺と異世界を繋ぐものはなくなる。

 そうなればきっと、仲間達と過ごしたあの日々の記憶も、泡沫の夢の様に消えて行く。


 そしたらこの寂寥感もなくなってくれるだろうか。


 それだけを期待して、一人帰路に着いた。




五章終

幕間を二話挟んだ後、六章に入ります

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