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違和感

 

 グラベルさんから依頼の報告を受けた日の翌日、俺達は再びギルドへ訪れていた。

 昨夜、深痕の迷宮を目標にしてみてはどうかと提案した所、皆――特にレイラが大賛成した為、早速今日から潜る事になる。

 食料品などはこの都市に来た時点で大量に買い込んであり、迷宮内の情報に関しても、過去に潜った事のあるレイラとアランがいる為必要ない。


 そういうわけで、時刻は昼前。

 最長で一ヶ月は潜り続ける予定の俺たちは、太陽との別れを惜しんでからギルドの地下に降りた――所で、上から誰かが降って来て目の前を塞ぐ。


「ちょーっと待ったぁ!」


 昨日とは違い、動きやすそうな袴に身を包んだ槍使い、ミーゼがドヤ顔で目の前に着地する。


「おいおい、他の冒険者もいるんだぞ、階段を飛び降りたら危ないじゃないか」


「あれぇ!? 予想に反して冷めてて常識的な反応やなぁ!?」


 コイツがいるという事は、太古の黄金樹も来てるのだろうか。

 そう思って振り向くと案の定、呆れた様子の面々が階段を降りて来た。


「ミーゼ、彼の言う通りだ。慎みを持て」


 見た目だけは最年長の巨体の男、盾使いのグリオンは全身に黒と灰色の鎧を纏った重装備だ。今は外しているが、左手に持ったフルフェイスの兜は中々格好良い。


 グリオンの後ろにいるギムルは昨日と似た様な格好で、装備に拘りがある様子ではない。彼は俺を見ると露骨に目を逸らした。



「昨日ぶりだな、泡沫の夢。君達が深痕の迷宮に潜るのは予想通りだ、共にここを踏破しようじゃないか」


 そう言ったのは太古の黄金樹のリーダー、エルフ族のレガリス。

 彼は白を基調とした隊服みたいな服に身を包んでおり、背中には円形の刃の武器――チャクラムを二つ装備している。


「あらぁ、また一方的な物言いになってるわよぉ? ちゃんとお話ししないと、よくないわぁ」


 そう言ったリジーはレガリスと似た様な服で、背中には弓矢を装備している。


「昨日言っただろう。また会う事になるだろうと。今日がその日だ」


「昨日の今日かよ……しかも勝手過ぎるだろ」


 遊びに行くわけではないのだ、よく知りもしない相手と危険な場所に赴くのは気が進まない。

 だが、周囲で見ていた冒険者達は興奮した様子で盛り上がる。


「マジかよ! 歴史的瞬間だぜこれは!」

「ついに深痕の迷宮が踏破されんのか? このメンツならいけそうだな!」


 彼らに悪気は無いのだろうが、そんなに騒がれると断りづらくなる。

 ……まぁ断るんだけど。


「普通に考えて無理――」

「――君は双剣を使うそうだな?」


 俺の言葉に被せて質問をしてくるレガリス。

 コイツ強引に押し切ろうとしてるな?


「僕も両手に刃を持って戦うスタイルなんだ。この戦い方はもう百五十年以上続けている。少なからず君に教えられる事はある筈だ。あとついでに、ギムルも格闘術を教えられる」

「オレはついでかよ……!」


 ……確かに俺にも技術があれば、と思った事は何度もある。

 アランみたいに流れる様な剣技を使えるわけでもなく、レイラみたいに身体の一部として剣を扱えるわけでもない。

 俺が氷の双剣で行ってるのは、ただ斬りつけたり、敵の攻撃を防ぐだけ。これではその場凌ぎの道具に過ぎない。


「マナちゃんは、精霊魔法を使うのよねぇ? なら、私が教えられるわぁ」

「アラン。君はガイストさんから教えを受けているらしいが、俺にもアドバイスくらいは出来るだろう」


 レガリスやギムルだけでなく、リジーやグリオンもウチのパーティメンバーに指導をしてくれるらしい。


「うーん、ウチらはあぶれたな?」

「ミーシャ、私たちは二人で鍛錬しましょう」

「そうだね」

「あれぇ!? あぶれたんはウチだけなんか!?」


 ……仲間外れにされてる奴もいるみたいだが、太古の黄金樹は経験豊富なS級パーティだ。学ぶ事は多いし、同行する流れが出来てしまったな。


「仕方ない。それじゃあ行くか」


 騒がしくなりそうだが、それもまた悪くないだろう。




 ⭐︎




 ドロップ品や宝箱の分配に関しては、俺たちが決めていいとレガリスは言ってくれた。

 じゃあ全て俺らが貰っていいのかと冗談半分で聞いてみた所、「僕らが欲しいのは金ではなく名声だから構わない」と言われた。

 尚、同パーティのミーゼだけはその言葉に文句を言っていたが、彼女の声は無視されていた。哀れなり。

 とは言え、流石にそれは悪いので、迷宮を出た後にちゃんと分けようと思う。



「結構人が多いんだな……」


 深痕の迷宮に潜った初日の感想はそれだった。

 都市の中心にある大きなギルド、その地下にある大型迷宮。

 当然人の出入りは多く、特に一階層は街中とそう変わらない。

 ただ、通路が広い上に頻繁に大広間など開けた場所に出られる為、他の冒険者を避けて通るのは容易い。


「行こうか。僕らの様な至高にして最強な冒険者はさっさと深層へ潜るのが暗黙のルールだ」


「あんた、ナチュラルナルシストだよな……」


 少し引くが、レガリスの言いたい事はわかる。

 低階層は魔素が薄く、それほど強い魔物は出て来ない。安全……ではないが、比較的低難度の狩場はランクの低い冒険者に譲るべきだ。


「そう考えると、あれやな。自分ら初心者用迷宮潜っとったけど、あれマナー違反やろ」


 げっ、そうなのか?

 苦い表情をするが、アランが助け舟を出してくれた。


「そうは言いますが、ウチのパーティは半数以上が迷宮未経験者だったんです」

「いや、とは言え実力的に余裕やろ」


 尚もジト目を向けてくるミーゼに、今度はグリオンが反論する。


「考えが甘いぞミーゼ。いくらフィールドで強かろうが、迷宮内では様々な変則的事態に陥る可能性がある。狭い通路での会敵、複数方向からの襲撃、張り巡らされた罠。これらの対応は初見では難しい事もあり、どんな実力者であっても入門を疎かにしてはならない」


「ほげー、俺はそこまで考えてなかったぜ」


 そもそも俺とミーシャは本当は迷宮経験者だしな。低難度迷宮から始めたのは基本を知る為と、初心者のマナの為だ。


「それ言わなければ感心したんになぁ……」

「うふふ、レガりんと同じ間抜けさがあるわねぇ」

「僕と一緒にするな。失礼だと思わないのか?」

「いやお前が失礼だろナルシ野郎……!」


 軽口を叩き合いながらどんどん進む。十階層辺りまでは人が多いらしく、真っ直ぐ階段へ向かう。


 個性的な奴が多い為、太古の黄金樹の面々とは割と気軽に会話出来る。

 ただ、昨日の件を引き摺っているのか、獣人のギムルだけは一歩離れた所で黙ってついて来ていた。

 無口と言えばウチのパーティのレイラとミーシャもそうなのだが、今日はマナもそうだった。

 普段はミーシャにダル絡みをしているマナだが、今は……なんだ? どこか戸惑う様な目でリジーとレガリスを交互に見ている。

 どうかしたのか、と聞いてみようと思った所で――


「リュート」


 その声の主に驚いて顔を上げると、隊の最後尾にいたギムルが無表情でこちらを見て――僅かに首を振って見せた。

 唐突に名前を呼ばれた事も驚いたが……どういう意味だ? 何も聞くなって事か?

 ギムルには俺が聞きたいことや、マナが考えている事がわかるっていうのか?

 一体どうして?


 全く意味がわからない。


 困惑を疑問にして問い詰めようと思った所で――


「昨日の件は悪かった。テメェの事は嫌いだが、背後から殺しにかかる事はしねェから、安心して前を歩け」


 ――明らかに何かを隠そうとしている。


 今の言葉にはなんの感情もこもっておらず、質問しようとした俺を止める為だけに発せられたものだと感じた。

 ギムルが何を、誰から隠そうとしてるのかはわからないけど――


「おい、お前が保証してくれるのは背後からの攻撃だけかよ?」


 今は乗せられておく。

 だけど後で絶対聞き出すからな。


「安心していい。ギムルに手出しはさせないと、昨日約束したからな。俺が守ろう」

「ほーん。なんかよくわからんけど、仲直り出来てよかったやん!」

「果たして今のは仲直りと言えるのか……?」


 さっきまでと同じ様に流れていく、なんて事ない会話。

 だけど違和感を感じてしまったら、もう無視は出来ない。

 水面下で何かが動いている。そんな予感を抱かずにはいられなかった。



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