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巻き込まれただけの高校生、冒険者になる  作者: 木下美月
第五章 ダンジョンと探索者
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幕間 消えぬ炎1

 

 シャミスタの街よりも遥か北、エルゼア大陸最北部を目指して、私は走り続けた。

 馬よりも速く、長距離を駆け続ける。

 少しでも速度を落とせば、後ろから追って来ているシフティに捕まってしまう。


 これはそういう試練だった。


 私が逃げながら目的地へ向かい、そこに無事辿り着ければ次の試練を受けられる。


「速度が落ちてますよ!」


 背後から迫る氷柱を躱しながら走る。

 時には振り向き、剣で弾く。

 食事も睡眠もロクに取れずに三日間走り続けた。

 人って、案外やれば出来るものなのよね。

 長い夜を超えて、日が昇り始めた頃、私は雪山の頂上に――目的地に辿り着いた。


「まずまずの結果です。長時間戦い続ける体力がある事は確認出来ました」


「流石に疲れたわ……」


 追って来ていたシフティに背後から声を掛けられ、剣を置いてその場に座り込む。

 この寒さも、雪の冷たさも、熱を上げる身体には心地良い。


「次の試練に行く前に、話をしましょうか」


「休む暇も与えてくれないのね……」


「休む為に話をするんじゃないですか」


 話してる間に効率的な回復をしろって事ね。

 携帯食料を取り出して、それを齧りながら汗をかいた身体を拭く。本当ならお風呂に入りたいけど、当分それは叶わないんでしょうね。


「さて。レイラさんはリュートさんを助けるという意思を今も持っていますか?」


「当たり前じゃない。今更覚悟の確認?」


 無駄話なら付き合いたくないのだけれど。


「……いえ、最終確認です。答えが変わっていないのは、残念です」


 残念? 私じゃ彼を助けられないとでも言いたいのかしら?

 例えそうだとしても、私はやるわ。


「ところでレイラさん。人の命は平等ではない。それぞれ価値が違うと、そう考えた事はありませんか?」


 突然話題が変わって困惑するけど、一応答える。


「まぁ、言いたい事はわかるわよ。人を守れる様な力や知識、人の暮らしを便利にするような発想力とか、社会に貢献出来る様な人間は価値が高いって言いたいのよね?」


「えぇ、仰る通り。この、人への貢献度という観点でフィオナを見た時、彼女は何者にも変え難い程の価値を持つ、それこそ唯一無二の存在だと思いませんか?」


「まぁ、そうね……」


「そんなフィオナですが、次の戦いでリュドミラと共に死のうとしてます」


「……え?」


「正確に言えば死よりも恐ろしい、虚無へ向かっています。彼女はリュートさんを救うと同時に、リュドミラを虚無の中に道連れにしようとしているのです」


 彼女がそんな事を目論んでいるとは知らなかった。

 フィオナには死んで欲しくないし、死ぬべきじゃない。


「だから、リュドミラを殺す役目は私が奪おうと思っています」


「……え? 貴女が?」


「はい、その為に巫術を学んで来ましたから――」


「道連れになるしか手段がないんでしょ? それって、貴女がフィオナの代わりに死ぬって事? 言っておくけど、貴女だって価値ある人の一人よ」


「おや、心配してくれているのですか? ありがたいですが、残念ながら私は寿命が近い。これ以上価値を残せないので、私の犠牲はそれ程大きな損失ではありませんよ」


 寿命? そっか、雪人族だから見た目がわからないけど、そんな歳なのね。

 でも、だからと言って彼女の犠牲を認められるわけじゃない。


「ただ、一つ……謝罪しなくてはなりません」


 シフティは心底悲しそうに言った。


「私の巫術では、リュートさんを救う事は出来ません。彼の身体の中にある二つの魂……リュドミラとリュートさん、そして術者の私。三人で死に向かいます」


「――は?」


 それって、リュートの命を諦めたって事?

 そんなの許せない。

 シフティの本心を確認する為に彼女を見上げて――




「――――ぇ?」



「謝罪します。私の目的を妨げそうな貴女達を、殺す事を」



 シフティが一瞬にして作り上げた氷の剣が、私の腹部を貫いている。

 それを見て、流れる血が雪を赤く染めていって、少しずつ理解して行く。



「ですが、これが私の選択です。最も生きるべき人間は、フィオナですから」



 裏切られた。


 いや、最初はリュートを救うつもりもあったのかもしれない。

 だけど、フィオナが死ぬと知った彼女は、リュートよりもフィオナの命を優先したんだ。


 つまり、私達の明確な敵だ。


「ゆる、さない……! わたし……達は、絶対にアイツを救って……」


「不可能です。貴女はここで終わりですから」


 シフティが右足で地面を叩くと同時に、私が倒れた地面が盛り上がり、巨大な氷の柱が飛び出した。

 それは私の身体を押し上げながら空へと打ち上がり――私はそこから崖下まで落ちて行く。


 こんな所で終わりたくない。

 終わらせてはいけない。

 そんな想いとは裏腹に、意識はどんどん遠退いて行く。


 落ちていく私を、崖の上から見下ろすシフティの姿が見えた。


 許さない。


 絶対にアイツを倒して、邪神を倒して、リュートを助ける。可能ならばフィオナにも生きて貰いたい。


 その為には、まず生き残らないと。


 どうにか生き残って、


 そしたら、


 その後は――






次回 六章「静かな隣人」

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