悪役令嬢は拭かせない
【主人公】24歳・女性・OL→悪役令嬢
私の人生、こんなはずじゃなかった……
この日、私は会社の屋上から飛び降りた。
※※※※※※※
大学を卒業して、そこそこ大手の会社に就職したのは良かったが人間関係に苦しんだ。女子社員の中には暗黙のルール、そして派閥というものがあったからだ。
私はそのような人間関係のいざこざに巻き込まれるのはご免だったので、他の女子社員とは距離を置き仕事に集中していた。
――それがいけなかった。
私は女子社員の中で孤立した状態になり……社内イジメの対象となった。
先輩や同期、挙句の果てには後から入社してきた後輩からも陰湿なイジメを受けた。連中は男性社員にまで手を回し、毎日がセクハラパワハラの連続……辞めようとすると難癖をつけて辞表を破棄。
ノイローゼになった私はせめてもの抵抗……と、会社が入っているビルの屋上から飛び降りた。落ちていく途中で、私のいないオフィスの普段と変わらぬ光景を見て思った。
『いつか……彼女たちに復讐してやる!!』
この強い怨念とともに私はこの世を去った。
※※※※※※※
気がつくと私は見覚えのある場所にいた。
――ここは……城?
私は生前、いわゆる「乙女ゲーム」が趣味だった。この風景は私が大好きだった乙女ゲーに出てくる城に似ている。
もしかして私、乙女ゲーの世界に転生した? ってことは私、これからずっと乙女ゲーの世界で生きていくの!?
良かった……現実世界ではロクなことがなかったけど、異世界では主人公になってイケメンキャラに囲まれた幸せな人生を歩んでいける……と思ったら、
――甘かった!!
私が転生したのはこのゲームで最も嫌われている『悪役令嬢』だ! しかも主人公の聖女はイケメン王子ルートでエンディングを迎えゲームは終了していた。
さらに……主人公と結ばれなかった他のイケメンキャラたちは目的を失い、このときすでにゲームの舞台から立ち去った後だったのだ。
――何じゃコレ!?
これじゃハズレくじしかないくじ引きに手を突っこんでいるようなものだ! 主人公がいなくなったところで私には関係ねーけど、おこぼれを狙おうと思ったらそのイケメンたちまでいなくなるとは……
――クソゲーじゃねぇかぁああああっ!!
異世界に行ってもこんな仕打ち……やはり神なんていないんだわ。
ところが……
神はいた。しかも私にある「特典」を与えてくれたのだ!!
※※※※※※※
「何やってんの! ったく、あなたはこんな仕事もできないの!?」
「もももっ申し訳ございません! アスアナ姫さま!!」
私はこの城に住む貴族の娘で、悪役令嬢の「アスアナ姫」として生まれ変わっていたのだ。極悪非道の令嬢で、主人公の邪魔ばかりする本気でイヤな存在だ。
――しかも「アスアナ」って……微妙に悪意を感じる名前よね。
だが私はこの悪役令嬢ライフをとても楽しんでいる。その理由はここにいる「女奴隷」たちの存在だ。
実はこの女奴隷たち……転生前の現実世界で、私をイジメてきた女子社員どもにそっくりなのだ!!
奴隷なのでコイツらは私に従順、何をやっても許される……私は転生前の恨みを晴らすべく、毎日この女奴隷たちに嫌味を言い、怒鳴りつけ、ムチで叩き、蹴り飛ばし……そして、飽きてきたところでクビ……つまり追放するのだ。
かつて自分をイジメていた女子社員たち……にそっくりな女奴隷どもが私の前で跪き、涙を流して懇願するのを足蹴にして追放する……こんなスカッとする楽しみは他にない。
しかも……彼女たちには更なる『屈辱』が与えられるのだ。
この世界の貴族は、奴隷たちに身の回りのことを全てやらせている。食事の用意や後片付け、洗濯はもちろん、着替えや入浴、歯磨きまで奴隷にやらせるのだ。
その中でも、究極の汚れ仕事がある。
それが……「拭き取り係」だ!
簡単に言えば貴族がトイレで用を足した後、便で汚れたお尻を奴隷に拭かせるというものだ。こんな常軌を逸した行為、現実世界では考えもつかなかった。
私は、女奴隷たちの中でも出来が悪かったり、かつて私をイジメていた女子社員の中でも特に恨みのあるヤツ……にそっくりな奴隷を、この「拭き取り係」としてこき使っていた。
正直なところ、最初は他人に尻を見せる行為には抵抗があった。だが便で汚れた人の尻を拭く方が屈辱だと考え、今では平然と女奴隷に尻を拭かせている。
「痛いわねキクモンヌ! あなたは何でちゃんと拭くことができないの!?」
「申し訳ございませんアスアナ姫さま!!」
現在の「拭き取り係」はこのキクモンヌという女だ。この女は現実世界で最も激しく私をイジメてきた門菊というブス女に瓜二つだ。なのでコイツには最も長い期間「拭き取り係」をやらせている……思いっきり名前に悪意を感じるけど。
だがコイツは如何せん仕事ができない。そういや門菊という女も仕事ができないくせにコミュ力のみで女子社員たちの中心にいたヤツだったよなぁ。
散々いたぶってきたがコイツの拭き取り方は下手くそで、このままでは私のお尻が悲鳴をあげそうだ。そろそろコイツは「追放」しなければなるまい。
「もういい! こんな仕事もできないあなたは出ていきなさい、追放よ!」
「そっそんな……お願いします! 私にはお腹を空かせた弟や妹が……」
「知らないわよそんなこと! だったらちゃんと仕事を覚えることね!」
私は便を拭きとった紙をキクモンヌの顔に押し付けて……城から追放した。
――ざまぁ!!
※※※※※※※
この日の夜、私は父上に呼び出された。
「アスアナ……ここに座りなさい」
ここに座りなさいってセリフ、転生前の高校生だったとき以来よね。
「何でございましょう、お父様」
この世界での私の父親はフンダスト侯爵……確実に悪意あるネーミングだわ。
「お前……今日また奴隷を追放したそうだな」
「えぇ、全く役に立ちませんでしたからね、あのキクモンヌという女は。これでもまだ長く使っていた方でございますわよお父様」
すると父上は困惑した顔で
「いや、城の女奴隷どもがお前に対してすっかり怯えてしまってな、誰もお前の元へ就こうとしないのだ。特に……その、拭き取り係にな。このままでは明日、お前専属の拭き取り係がいなくなってしまうぞ」
げっ、マジかよぉー! うわぁー、さすがにイジメすぎたか……でも私は悪役令嬢、こんなことくらいで下手に出てはいけない。
「お父様! 今いる奴隷どもが使えないのなら、新しく奴隷を雇えばよろしいではないですか」
「いやいや、簡単に言うけどな……奴隷を増やすとなると人件費とか……」
「あらお父様、フンダスト家はそんなに財力がございませんこと?」
「んぐうっ……!」
私の一言に父上はぐうの音も出なかった……実際には出ていたが。
「わっわかった! じゃあ明日、外から奴隷を連れてこよう……ちゃんと拭き取り係として使えるヤツをな」
「ありがたく存じますわ、お父様」
※※※※※※※
翌日……
――遅いっ!!
私はトイレで用を足していた……大の方だ。この世界では、トイレといっても便器ではなく「おまる」のような物に用を足している。拭き取り係は主人の尻を拭くとともに、この汚物の処理まで担当しているのだ。
どうしよう、我慢できなかったから先に排便しちゃったけど……まだ新しい拭き取り係が来ていない。
しばらくして部屋の向こうから
「失礼します」
落ち着いた感じの「イケボ」が聞こえてきた。
――えっ!? 男? 何で? 私、まだトイレ中なんだけど……
するとこちらの返事も待たず、男がずけずけと入って来た。
――えっ!? えぇっちょっと! 何で入ってくるの!? へっ……変態!?
私は慌ててドレスで尻を隠した。勝手に入ってきた男は私の前で跪くと
「アスアナ姫さま、私が本日より姫さまの拭き取り係を担当させていただきます」
――えっ!?
――ええっ!?
――えええええっ!?
お……男!? しかも……
――めっちゃ『イケメン』じゃねぇかぁああああああああっ!!
えっ……冗談でしょ?
「ではお済みのようでしたら早速……」
「えっちょっと待って! なっ、何なのあなたは!?」
「あ、申し遅れました。私は拭き取り専門の奴隷・シリアヌスと申します」
何よそれ!! 拭き取り専門奴隷なんているの!? しかもシリアヌスって一瞬カッコいい名前だと思ったけどよく考えたら悪意の固まりじゃないの!!
「何その『専門』って……しかもあなた男よね!?」
「はい……私めの家系は曾祖父・シリアナルより代々、『拭き取り係』を家業にしております。この度はフンダスト侯爵様より、姫さま専属の拭き取り係としてご依頼を承りまして……」
お父さまぁああああプライバシーを考えてぇええええっ! ていうか何でそんなイカれた職業が代々受け継がれているのぉおおおおっ!? それと曾祖父の名前も悪意に満ちているわよぉおおおおっ!!
「では姫さま、こちらに尻をお向け下さい」
「いやいやちょっと待って! そっそんなのムリムリムリ!」
こっこれはダメなヤツだ! イケメンにお尻の穴を見られるなんて絶対ムリ!
同性に見られるのも最初は抵抗あったが、汚れた尻を拭かせるという屈辱を与えているんだ……と思考を変えたら意外と恥ずかしくなかった。
まぁこれが男でもブサイクだったら問題ないはず! だって私は、ブサイクなんて人間じゃないと思っているから(※個人の見解です)。
でもイケメンは違う!! イケメンは乙女ゲー好きにとって特別な存在だ! しかもこのシリアヌスという男……奴隷のくせにムダにイケメンだ! ぶっちゃけ今までプレイしたどの乙女ゲーのキャラよりもイケメンだ!! この男を攻略できるのならば全財産課金してもいいくらいだ。
だから……だから……
こんなイケメンにお尻の穴見られるなんて……恥ずかしいよぉおおおおっ!!
「姫さま……私めでは何かご不満でもございますのでしょうか?」
アンタがイケメンだから恥ずかしいんだよぉおおおおっ! ていうか拒否られてそんな悲しそうな顔をするなよぉおおおおっ! その悲しそうな顔も……尊すぎるよぉおおおお!!
「いっ、いや……不満というか」
イケメンに不満なんかあるわけねーだろぉがよぉおおおおっ!
するとシリアヌスは何か思い出したように
「あっ姫さま! もし紙で拭き取るのがお嫌いのようでしたら、当方ではオプションをご用意しております」
いや、紙がどうとかいう問題じゃなくて……
「なっ、何よ? そのオプションって……?」
「はい、紙を使わず【私めの舌】で直接拭き取らせていただきます」
何それーっ!? メッチャ変態的だけどメッチャ興味あるぅううううっ!!
つーかそれって拭き取りとかじゃなくてちょっとした「プレイ」だわ! 十八禁の乙女ゲーでもそんな変態プレイがあるかどうか……。
「い……いえ、オプションは……いらないわ」
それやられたら軽く死ねる。
「では標準コースでよろしいですか?」
いやいや、だからといって受け入れたわけじゃないけど……だがいつまでも断り続ける訳にもいかなくなってきた。
排便してからずっと放置しているのでお尻の穴が痒くなってきたのだ。これはマズい! 元々キクモンヌのバカがちゃんと拭いていなかったせいでお尻の衛生状態は良くない。このままでは……痔になってしまう!
うわぁああああっ! もしシリアヌスを断ったとしても、これが原因で痔になったら……今の私は「前門の虎後門の狼」だわ。そして今、私の後門は……オオカミに狙われているのよ!
「わっ、わわわわかったわよ! じ……じゃあやってちょうだい」
私は痔になったときの苦しみより、イケメンに肛門を見られる恥を選んだ。
「それでは早速、作業を始めさせていただきます……失礼します」
シリアヌスはそう言い、私をトイレから立ち上がらせると躊躇なくドレスをまくり上げた。当然私の下半身はシリアヌスに丸見えだ。
「ヒィッ!」
こっ、こういう大胆なプレイは悪くない(ただしイケメンに限る)けど……できればベッドの上でやって欲しかったなぁ……。
だがシリアヌスはいやらしい行動を一切とらずに淡々と作業を続ける。紙を取り出すとその手を、私のお尻の穴にそっと添えるように置いた。
「ヒィィッ!」
この世界では紙は貴重品だ。紙を使って尻が拭けるのは貴族など上流階級に限られている。しかしこの世界の紙はとても質が悪く、普通に拭けばお尻の穴を痛めてしまう。ところが……
「ヒィィィ……あっ」
――メッチャ気持ちいいぃぃぃ!!
何この感覚!? こんな質の悪い紙なのに現実世界にあったどのトイレットペーパーよりも柔らかい……? 違う! これは拭き方の力加減が絶妙なのよ!
あまりの気持ちよさに恍惚とした気持ちになっていると、突然シリアヌスが話しかけてきた。
「あのっ……姫さま……」
「えっ? 何?」
「大変申し上げにくいのですが……」
「えっ、何よ!? そこまで言いかけたのなら言いなさい!」
シリアヌスは申し訳なさそうに
「姫さまの肛門、大変荒れております。細かい傷も付いておりまして……」
あっ……てことは~確実に~お尻の穴~見られているわよね~!
――うわぁああああっ! 死にたいぃいいいいっ!!
おいっ、もうヨメに行けねーぞ! 責任取れよイケメン!!
「これは……前任の方、ひどい拭き方をしておられましたね」
あー、キクモンヌね……追放して正解だったわ!
「私、この傷を治すポーションを持っております。よろしければお塗してもよろしいでしょうか?」
「えっ? じ、じゃあ……おっお願いするわ」
「では姫さま、こちらのマットに四つん這いになられてください」
――えっ、下半身すっぽんぽんのまま四つん這い?
「いいぃいやいやいや! そっそれは絶対ダメ!!」
それって完全に「アレ」の格好じゃん! そっそんなの……ムリ!!
「えぇっ! そっそれでは薬が塗れません」
だーかーらー! そんな捨て猫みたいに寂しそうな顔するなよイケメン……尊すぎて思わず課金したくなるじゃねーか!?
「わっわかったわよ! やるわよ! やればいいんでしょ!?」
もう尻の穴まで見られたんだから諦めついたわ……どうにでもなれ!
私は恥ずかしさで死にそうだったが四つん這いになった。そしてシリアヌスは指にポーションをつけると直接私のお尻の穴に……
――ひぃいいいいいいいいっ!!
塗った瞬間に痒みが取れた。私は二つの意味で気持ち良くなっていた。
「ちょっと待って! これ……何かヌルっとしない?」
「はい、患部に残るよう粘り気を入れております」
おい、これってポーションじゃなくてローションじゃね?
「それでは次の作業に移らせていただきます」
「えっ、ま……まだ何かあるの?」
「お小水の方もされていますよね、そちらの方もお拭きさせていただきます」
――えっ!?
――えぇええええええええっ!?
「いっいや、それは結構! そのくらい自分でやるから!」
「いけませぬ! 高貴なお方がそのような不浄ことを……」
コイツ……下心がなく「作業」としてやってんだよなぁ。
「わ……わかったわよ……やって……ちょうだ……い」
やべぇよこれ! しかもポ……ローション大量に塗られたばかりだし……
「それでは失礼します」
と言うとシリアヌスは私のアソコを紙で拭き出した……
……神の手で。
――ひぃいいいいいいいいっ!!
「もっももももうやめてぇええええ!! もういいわ!!」
これ以上やられたら……確実にイ●ク!
拒否されて驚いたシリアヌスは作業を止め、私の前に跪くと
「もっ申し訳ございません! 何かご無礼なことをしてしまったようで……」
いやいや、無礼どころか本当なら最後までヤッて欲しかったけど……今はダメ!
だが無礼を働いたと思ったシリアヌスは自分を責め続けた。
「本当に申し訳ございません! この失態! 私めはどのような罰でもお受けいたします!!」
「えっ、罰ってそんな! そっ、そういうんじゃないから……」
「いえ! 何なりとお申し付けくださいませ!」
そっそんな! イケメンからそんなこと言われたら……言われたら……
「わっ、わかったわよ! だったら私と……結婚しなさぁああああぃ!!」
「……えっ?」
こうして、私はシリアヌスに求婚し……
「それでは、こちらの汚物は処理させていただきます」
「やめてぇええええっ! みっ、見ないでぇええええっ!!」
数日後、私たちは結婚した。
※※※※※※※
とは言ってもこれは「貴賤結婚(身分差婚)」だ。父上に無理をお願いし、彼を強引に「男爵」へと格上げさせた。
奴隷が貴族になったことで、奴隷制度も廃止された。今まで私が追放した女奴隷も次々と復帰し、現在では召使いとして正式な契約を結んだ労働者となった。
異世界で結婚して幸せになった私には、もう過去のことはどうでもよくなっていた。元・女奴隷たちとも和解し、今は召使いとして良好な関係を保っている。
――えっ? あの「オプション」はどうなったかって?
「ヒイィィィィィィィィ♥」
そりゃもちろん……毎晩やってもらっているわよ。
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