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第五話 文句でもあるのか? 殴るぞ

 その場に残ったサイトウは一先ず、床に刺していた足を引き抜く。

 それから拳に巻いていた神器のボロ布を外してポケットに乱暴に突っ込んだ。


「あれ、サイトウ君?」


 時計塔から階段を降りていく途中に、サイトウはクリスと出会った。

 クリスの後ろにも何人かの生徒教師が控えており、その全員が神器を手にしていた。


 ――これから大乱闘でもするのか?


「いや、そうじゃないよ。時計塔の上の方で大きな魔力反応があったんだ。学園長から魔族の侵入者がいるという話もされていたし、大急ぎで学園内にいる精鋭を集めて時計塔に向かうところなんだ。ところで、サイトウ君は何か知ってる?」


 ――知らない。変態はいたけどな。


 辺境で暮らしていたサイトウは魔族のことを知らなかった。

 結果的に、サイトウはクレナイのことを宙に浮く変態と判断していた。


「変態? とにかく、私たちは先を急ぐよ。何も見ていないならいいんだ」


 ――じゃあな。


「うん。あ、ちょっと待って。この時間って授業中じゃ――」


 サイトウは逃げた。

 お説教など面倒なことは勘弁して欲しかった。ただでさえ、クリスは平気で監禁して暴力をふるってくる危険な女という認識をサイトウはしていたのだから、当然の行動だろう。


 教室に帰るのも面倒だったサイトウはそのまま食堂に行き、早めの夕飯を食べることにした。


「あら、あんた今日は随分と早いね」


 ――肉をくれ。


「はいはい」


 食堂のおばちゃんは不愛想なサイトウの反応に苦笑いを浮かべながら、皿いっぱいにブータの肉とそれを超える量の野菜をのせてサイトウに手渡す。


 大量の野菜を前にサイトウは顔をしかめる。

 クソガキのサイトウは野菜が嫌いだった。


 ――俺は肉を寄越せと言ったはずだ。


「でも野菜はいらないとは言ってないだろう? 肉を食べるのはいいけど、野菜も食べな。育ち盛りなんだからしっかりバランスよく食べなきゃダメだよ!」


 食堂のおばちゃんの謎の迫力を前にしてはサイトウも大人しく、皿を受け取るしかなかった。

 サイトウも最初は突き返していたが、その度に野菜を食べる重要性を説き伏せられれば考えも変わる。


 突き返すより野菜を食った方が楽。

 サイトウはそれを学んだのだ。


 ――美味かった。また来る。


 大量の肉と野菜をあっという間に平らげると、サイトウは皿をおばちゃんに返した。

 サイトウは嫌いだからといって食べ物を残すようなことをしない。

 幼い頃から村長に嫌いなものを食べない人間は弱者だと教わって来たからである。


 サイトウは強い。だから、野菜もちゃんと食べるのだ。


 食堂を出たサイトウはそのまま学園寮へと向かう。

 そして、ベッドに寝転んだ。

 

 夜、サイトウが目を覚ますとサイトウの横でアイベが腕立て伏せをしていた。


「あ、サイトウさん! 今日の演習どうして来てくれなかったんですか? クラスメイトの調子乗ってる奴らに現実を教えるチャンスだったんじゃないっすか?」


 サイトウに従順なアイベだが、今日は少し不満気だった。

 それは今日の演習をサイトウがサボったことで、クラスメイトの一部が「サイトウは逃げた」とか「サイトウは実は雑魚」と言っていたからだ。

 尊敬するサイトウが舐められることは自分が舐められることと同じかそれ以上にアイベには屈辱だった。


 ――俺が強いことは明らかだ。戦うまでもなく分かり切っている。


 そんなアイベの気持ちを汲み取ることがサイトウに出来るはずもなく、いつも通り傲慢な態度をサイトウは見せつけた。


「それはそうかもしれないっすけど……」


 ――なんだ? 文句でもあるのか? 殴るぞ。


「い、いえ、無いっす! 俺はサイトウさんを信じてます!!」


 ――ならいいだろ。お前もさっさと寝ろ。雑魚はいくら努力したところで雑魚なんだから。


 サイトウはそう言うとアイベに背を向け、また眠り始めた。


 そんなサイトウの姿にアイベは苦笑いを浮かべてから、そっと部屋を抜け出す。

 そして学園寮の外で自らの神器であるハンマーをひたすらに振るう。


 憧れの男にいつまでも雑魚と言われるわけにはいかない。

 いずれその背中に触れるために。


 アイベは今日も歩みを止めない。



***



 翌朝、いつもの様にアイベに起こされサイトウが学園に向かうと待ち構えていたクリスに捕まった。


「やあ、サイトウ君。昨日ぶりだね」


 嫌そうな表情を隠しもしないサイトウに、流石のクリスも苦笑いだった。

 しかし、今日クリスはある命を受けてサイトウに会いに来ている。


「昨日のことについて、学園長が聞きたいことがあるみたいなんだ。ついてきてくれるよね?」


 一応、問いかけてはいるがそれは実質強制的な命令だった。

 普通の人間なら「はい」と大人しく付いてくる。しかし、サイトウは普通ではない。

 クソガキである。


 ――めんどい。


「それじゃ行こう――今なんて?」


 ――めんどい。


 めんどいからという理由だけで、学園一の権力者の命令を無視しようとするサイトウ。

 信じられないほどに傲慢である。


 ――大体、用事があるなら向こうからくればいいだろ。俺が何故会いに行く必要がある? 権力者はこれだから嫌だ。奢り高ぶり謙虚の”け”の字も忘れてやがる。


 特大ブーメランをぶん投げるサイトウに、クリスはため息をこぼす。

 しかし、クリスとしてもサイトウのこの反応は一応想像の範疇だった。


「エア」

「はーい」


 パチンとクリスが指を鳴らすと、いつかと同じように序列第八位の少女エアが神器の布を広げる。

 その布を前にして、サイトウは逃げ出すかと思われたが意外にもサイトウは大人しくしていた。


 その理由は二つある。


 一つ目、あの心地いい芝生で寝転がれる。

 二つ目、自分の足で学園長に会いに行かなくて済む。


 めんどう、めんどうと言っていたサイトウだが、そのめんどうの内八割が移動のめんどくささだったのだ。

 

 何はともあれ、サイトウを捕獲出来たことにクリスはホッと安堵の表情を浮かべる。

 そして、クリスとエアはサイトウが包まれた布を持って学園長室に向かった。

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