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第四話 痴女かよ

「サイトウさん! 次の授業は神器を用いた戦闘演習ですよ!!」


 ――暑苦しい、二歩下がれ。


「はい!!」


 授業のほぼ全てを昼寝に使っておきながら「授業に真面目に出席する俺、偉すぎる」と自画自賛していたサイトウの下に意気揚々とアイベが近付いてくる。


 健気に二歩下がったアイベは、胸の前で両拳をグッと構えキラキラした目でサイトウを見つめていた。


「遂にサイトウさんの実力が皆に知られる時が来たんですね!! 俺、昨日から楽しみで楽しみで、夜も八時間しか眠れなかったっす!!」


 聖都にある聖華学園に通う生徒は皆、神器を扱うことが出来る。

 この学園ではその神器を使いこなす方法を生徒たちに叩きこみ、いずれ来るであろう魔界の民たちからの侵攻に対抗する戦力としようとしているのである。


 聖華学園のカリキュラムの中でも特に重視されるのが戦闘演習であった。

 一年の初期は一年同士で神器を用いた実戦形式を繰り返し、自分の、そして相手の神器への理解を深める。


 つまり、今日の戦闘演習ではサイトウもまたクラス内の誰かと戦う必要があった。


「さあ、闘技場に行きましょうサイトウさん!! あれ? サイトウさん?」


 誰がそんな面倒な授業受けるか。

 そう言いたげな表情でサイトウはクラスを後にした。


 一度学園トップのクリスとした約束を事も無げに無視してみせる。

 流石はサイトウ。クズである。


 後に、闘技場ではサイトウがサボったことを知ったアカネとステラが負のオーラを全身から漏らしていたのだが、サイトウはそんなことを知る由もない。


 さて、授業をサボると決めたサイトウが向かった先は学園のシンボルともいえる時計塔である。

 その理由は『なんか、高いところから見下ろすって気持ちいじゃん』ということである。

 バカと煙はなんとやらというが、サイトウもその例に漏れることは無かった。


 階段を上り、時計塔を目指すサイトウ。

 そして、時計塔についた彼は聖都を一望する。


 ――ふっ。愚かな雑魚どもめ。


 人生で一度は言ってみたかったセリフを言えてサイトウもご満悦である。


 やりたいことは出来たし、帰ろう。

 そう思い、時計塔に背を向けようとしたサイトウは自分の横に背中にコウモリのような羽を生やした褐色肌の美女がいることに気付いた。


「ふふふ、学園の生徒ね。付き添いのつもりだったけど、何もせずに帰るというのも退屈だからね。一人くらい殺してもいいかな」


 その美女を見て、サイトウは絶句した。


 コウモリのような羽と褐色肌。それは魔力の影響を浴びた証であり、つまるところ、目の前の美女が自然界にはいないはずの魔族であることを示していた。


 しかし、それ以上にサイトウの目を惹いたのはたわわに実った大きな山だった。


 この山を前にしては、クラスメイトで控えめながらもそこそこあった聖女のステラもぺったんこと言わざるを得ない。

 クリスだったらぺったんこどころではない。

 この山の前じゃ寧ろへこんでいるくらいだ。


 あらゆる方面に喧嘩を売るような最低な考察を終えると、サイトウは改めて目の前の美女を見る。


 アッシュ色の片目が隠れたショートヘアに、どこか威圧感のある琥珀色の瞳。

 そして、抜群のスタイルに多すぎる露出。

 腋、谷間、お腹、太もも、二の腕を惜しげもなく出すその格好にサイトウは少しだけがっかりした。


 ――痴女かよ。


「なっ!?」


 サイトウはガキだが、エロに関してはそれなりにこだわりがある。

 少なくとも、露出は多ければ多いほど興奮するといったタイプではない。

 サイトウからすれば、ただ露出が多いだけの女は皆からありのままの自分を見られたがっている少しこじらせた変態だった。


「だ、誰が痴女だ!」


 ――お前以外にいるのか?


「くっ、殺す!!」


 顔を真っ赤にしながら、手を前にかざす魔族の女。

 次の瞬間、その手からは風が巻き起こり、サイトウの身体を時計塔の外へ吹き飛ばそうとする。


 流石にこのままではまずいと思ったのか、サイトウは自らの足を時計塔の床に突き刺した。

 これで、吹き飛ぶことはない。安心である。


 ――怒るということは、図星なんじゃないのか? やはり痴女か。


「絶対に、あんただけはここで殺す!!」


 そう言うと、魔族の女は時計塔を飛び出し両手をかざし何かをブツブツと唱え始める。

 それに応じて、女の頭上に大気が渦巻く。

 そして、その大気に女が口からフッと炎を吹きかけると、朱く轟々と燃える火の鳥が姿を現した。


「地獄の業火に等しいこの炎であんたは燃える。後には、塵も残らないと思いな」


 ――どうして俺が出会う女は皆こう面倒なのだろうか。癒しが欲しい。


 絶対に原因はお前にある。


 そんな声がどこから聞こえてきそうな中、自分が悪いとはつゆほども思っていないサイトウはポケットに手を突っ込みボロ布の神器を両拳に巻きつける。


「あはは! なにそれ? それがあんたの神器? そんなカスみたいな神器であたしの魔法を止められると思っているのかい?」


 ――雑魚ほどよく吠える。


 ピキピキ。

 魔族の女のこめかみに青筋が浮かび上がった。


「死ね」


 甲高い叫び声とともに、火の鳥が時計塔ごとサイトウを飲み込もうとする。

 その鳥に向けて、サイトウはただ全力で拳を振るった。


「――ッ!? なっ……嘘……」


 ――あっつ。最悪だ、手の皮火傷した。


 たった一振り。

 だが、その一振りで魔族の女の放った火の鳥は跡形もなく消えていた。

 当然、サイトウは勿論時計塔も無事である。


 強いて言えば、サイトウの手が火傷したくらいだろう。


「ふ、ふざけるなああああ!! 殺す、殺す殺す殺す殺すウウウゥ!!」


 ――うわ、ヒステリック起こしやがった。変態でヒステリックって誰得だよ。


「あああああ!! 殺すウウウゥ!!」


 血管が浮かび上がるほどぶちぎれた女が怒りのままに、サイトウに飛び掛かる。


 サイトウが静かに拳を構え、痴女を一撃で落とすための準備をしたその時だった。


「そこまでにしろ、クレナイ」


 クレナイ、そう呼ばれた魔族の女の背後に紫に染まった髪色の男が姿を現した。

 その男もまた背中には黒い羽が生えており、その肌も褐色であった。


「ネイスか……。嫌だね、アタシはあいつを殺すと決めたんだ」

「ガキか。お前が暴れたせいで騎士団の連中にも嗅ぎ付けられた。じきに俺たちを狙って聖都の精鋭たちがやって来る。それを望むか?」

「……ちっ。仕方ないね」


 ネイス、そう呼ばれた魔族の男に窘められ、渋々といった様子でクレナイは引き下がる。


 その姿を見てサイトウも構えを解く。

 面倒ごとを嫌うサイトウにとって、ヒステリックな女の相手をせずに済むということは幸運であった。


「あんた、名前は?」


 ――変態に名乗る名は無い。


 ピキピキピキ。

 冷静さを取り戻しかけたクレナイだが、直ぐに怒りがその身を支配する。


「やっぱり殺す!!」

「いい加減にしろ!」


 サイトウに殴り掛かろうとするが、その身をネイスに押さえつけられる。


「離しな……! さもなきゃ、あんたから殺すよ!」

「これだから魔族は……! とにかく帰るぞ」

「サイトウ、あんただけはアタシが殺す! あんたはアタシの獲物だ! 他の誰にも譲らない! 誰にも殺されるんじゃないよッッ!!」


 美人顔が台無しになるほどの恐ろしい形相でクレナイが叫ぶ。

 その叫びを最後にクレナイとネイスの魔族の二人は姿を消した。

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