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第三話 ハーレムに加えてやらんでもない

 サイトウの朝は遅い。


「サイトウさん! おはようございます!! 今日も太陽が明るく俺たちを照らしてくれていますよ!!」


 ――うるせえ、雑魚が。


「ぶべらっ!?」


 目覚まし代わりに相部屋の男子をぶん殴り、二度寝をすることからサイトウの朝は始まる。

 普段なら、サイトウにぶん殴られ『今日も気合入れてくれてありがとうございます!!』と元気に部屋を出て行く相部屋の男子だったが、今日は違った。


「サイトウさん! 昨日、『学園トップのクリス先輩と約束したから学園に行く。朝、起こせ』って俺に言ってましたよね! 起きてください! ほら、空があんなにも明るく果てまで広がっています! まるで俺たちの未来の様ですね!!」


 ――くそが。


 寝起きの悪いサイトウを無理矢理起こし、相部屋の男子――アイベはサイトウを担ぐ。


 サイトウの寝起きが悪いことを知っているアイベは、昨夜の内にサイトウを制服に着替えさせていた。

 全ては、起きようとしないサイトウを担いで学園まで連れて行くためである。


「サイトウさん! 朝ごはんのバナーニの果実です! 食べれば朝から元気百倍っすよ!!」


 ――皮むくのダリぃ。


「そう言うと思って既にむいておきました!!」


 眠たげなサイトウの口に強引に太く大きなバナーニの果実を突っ込むアイベ。

 突っ込まれたサイトウは苦し気な表情でバナーニを食べていた。


 さて、ここまで読んだ読者の中には気付いた人もいるかもしれない。

 そう、アイベとは何を隠そうサイトウが学園に来た初日にサイトウにぶん殴られ、意識を失った大男である。


 力こそパワー。

 そう教わり育てられてきた彼は、同年代で己を遥かに上回る暴力に初めて出会い、そして憧憬の念を抱いた。


 だからこそ、礼儀を学べというサイトウの言葉に従い口調を変え、そしてサイトウの傍をうろちょろするようになったのである。


 その健気な姿にはクズのサイトウも「こいつは俺が育てた」と後方師匠面する――わけが無かった。


 なんか便利な手下が出来た。

 サイトウはそんな風にしか思っていない。


 憐れ、アイベ。付いて行く男を間違えているぞ。



***



「おはようございます!!」


 クラスに着くなり、アイベの元気な声が教室に響く。

 挨拶は礼儀の第一歩だとアイベは本で読んで学んでいた。


「ほら、サイトウさんも挨拶してくださいよ。皆、サイトウさんが来るのを待ち望んでたんすから!」


 勿論、アイベ以外サイトウを待っていた生徒などいない。

 多くの生徒たちにとって憧れの学園で、堂々とサボるサイトウに対する評価はよくて興味無いである。


 ――へぇ、そうなのか。


 しかし、サイトウはバカだった。

 同年代と遊ばずに魔物とばかり戯れていた彼は、明確な敵意や殺意には敏感でも、「ちょっと関りたくないなぁ」程度の感情には鈍感だった。


 結果、アイベの言葉を鵜呑みにしてしまった。


 ――俺が一番強い、よろしく雑魚ども。


 クラスの空気が学園創設以来トップレベルで悪くなった瞬間である。

 この男、コミュニケーション能力は皆無であった。


「流石っすサイトウさん!」


 アイベの脳死な称賛に「だろう?」とでも言いたげな表情でドヤ顔を浮かべると、サイトウは自分の席に向かう。

 だが、そんなサイトウに声をかける勇者がこのクラスにはいた。


「ちょっと待ちなさいよ」


 ――あ?


 明確な敵意にサイトウが不機嫌になりながら、顔を向ける。

 そこにいたのは紅く燃えるような長髪をツインテールにした、勝気な美少女だった。


「今まで碌に授業にも顔出さずに、挙句の果てにはアタシたちが雑魚? 言ってくれるわね。どっちが雑魚か今ここで教えてあげましょうか?」


 安い挑発だ。

 サイトウは珍しく、カッとなることは無かった。


 これには理由がある。

 実は昨晩、サイトウはアイベから自分のクラスについて教えてもらっていたのだ。

 サイトウの通うクラスにはサイトウの実力も知らず、自分が強いと勘違いしている憐れな四人の男女がいる、と。


 愚かなり。

 上には上がいることを知らず奢り高ぶるなど、憐れな道化師でしかない。


 自分のことを棚に上げてサイトウはそう思った。

 突っかかって来る相手が愚かな道化師と知っていて怒るほどサイトウは子供ではない――とサイトウ自身は思っている。


 その一人こそが今、サイトウに突っかかっている赤髪の少女だった。

 名前は――。


 ――アカネだったか?


「へえ、アタシのことを知っているのね。そうよ、アタシは入学試験第三位なの。入学試験の順位を見たけど、サイトウなんて名前どこにもなかったわ。つまり、現時点でアタシの方があんたより上なのよ!」


 ――自分、他人より弱いですと自慢するのか。アホなのか、お前?


 ピキピキ。

 アカネのこめかみに青筋が浮かび上がる。


 三位ということは上に二人いるということだ。

 それを誇示する理由がサイトウには分からなかった。


 しかし、ここでサイトウは目の前のアカネが道化師ということを思い出した。

 

 ――なるほど。己の弱さを誇示するというギャグか。悪いな、気付くのが遅くなって。別に面白くないが、俺を楽しませようとしてくれる心意気は評価するぞ。


 ピキピキピキ。

 アカネのツンテールがゆらりと意思を持っているかのように宙に浮かぶ。


「へぇ……どうやら、殺されたいようね。いいわ、今すぐやってあげる!!」


 赤髪のツインテールを逆立たせ、サイトウに詰め寄るアカネ。

 雑魚は直ぐムキになるから困る、とサイトウが迎撃態勢に入ろうとしたその時、アカネの身体を誰かが抑えた。


「ア、アカネ落ち着いて! 喧嘩はダメだ!」

「シルク放して! あいつ殺せない!!」

「殺しちゃダメだって!!」


 シルク――そう呼ばれた黒髪の少年がアカネを羽交い絞めにしたのだ。

 そして、この少年もまたアイベの語っていた四人の内の一人だった。


「やれやれ、ムキになるアカネさんもアカネさんですが、サイトウ君もですよ? これから仲良くする学友なのですからもう少し愛想をよくしてはいかがでしょうか?」


 悪印象を振りまくことしか出来ないサイトウに微笑みかけながら話しかけたのは、ブロンドヘアーの美少女だった。


 その少女は、自然界の中央に位置する聖都が排出する四十五代目の聖女であり、名はステラと言った。

 そして、この少女もまたアイベがサイトウに事前に教えていた四人のうちの一人である。


 ――雑魚に雑魚と言って何が悪い。お前は出会った虫に一々『この世界に生きる尊く、そして偉大なる生命の一つですね。御機嫌よう』とでも言うのか?


「あはは、流石にそこまでは……」


 ――分かったなら大人しくしていろ、清楚ビッチ。


 清楚ビッチ。

 村にいた頃に悪ガキから奪った本にそういえば清楚な聖女の股は緩いといったことが書いてあったなと思いだしながら、サイトウはついそれを口にした。


「ビ――ッ!? へえ、そうですか。そういうことですか……。ええ、分かりました。あなたは私を、そして聖教会を敵に回すのですね」


 ピキピキ。

 温厚で有名なステラのこめかみに青筋が浮かび上がる。


 この瞬間、クラスの三割敵だったのが八割に膨れ上がった。

 一言で人々の心を変える。流石はサイトウ、大衆を変えさせてみせるその器は見事なものである。


「……いい加減にしろ。言い争いに何の価値がある。貴様らも力に自信があるならば言葉ではなく武器で語れ」


 打倒サイトウ。

 それ一色になりそうなクラスの空気を変えたのは、藍色の髪をしたポニーテールの少女だった。

 腰には自然界の東方、イースタン地方で使われているカタナという武器が提げてある。


 そう、この少女こそがアイベの語っていた四人の最後の一人。

 イースタン地方で恐ろしく強いと言われているサムライの一族の子――ツキヒである。


「ツキヒさん……。ええ、そうですね。幸い今日はじっくりと語り合える日ですもんね。ここは私も抑えましょう」

「そうね。サイトウとか言ったわね! 勘違いしないでよね! あんたを許したわけじゃないんだからね!!」

「……ふん」


 ツンデレ赤髪女子に金髪清楚ビッチ、そしてクールな青髪女子。

 まるでガキの頃に読んだラブコメ小説だな。

 仕方ない。お前らが俺を好きだというならハーレムに加えてやらんでもない。


 教室の三人娘を見て、サイトウは一人で勝手にそう思っていた。

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