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第二話 「神にはなれない」

 聖教会。


 世界の創造神とされているマイティを主神とする宗教である。

 聖教会の大聖堂は聖都の中心に位置しており、聖都の中で最も大きく荘厳な姿は聖都のシンボルでもあった。 


 その大聖堂の前に、サイトウとパールはいた。


「さ、中に入りましょうか」


 パールに従い、サイトウが大聖堂の内部に足を踏み入れる。

 サイトウの目に真っ先に飛び込んできたのは長い長い廊下であった。


 廊下の両脇には座席もあり、中には聖都の住民と思しき人たちもいた。

 そして、長い廊下の先には主神の像があり、その前で一人の少女が静かに祈りを捧げていた。


「あなたも祈りを捧げる?」


 パールの問いかけにサイトウは静かに首を横に振る。

 

 これにはパールも少しばかし驚いた。

 サイトウは神器使いだ。

 そして、神器を人間に与えたのは他でもない創造神マイティとされている。

 だからこそ、神器を使う人々は神に感謝の祈りを捧げる。

 また、神器を扱う聖騎士や冒険者に守ってもらっている民衆も神に感謝している。


 それが、この聖都における常識だった。


「神器使いとして神への感謝は必要ないと?」


 少しばかり、試すような口調でパールが問いかける。

 そのパールにサイトウは平然とした様子で言葉を返す。


 ――神が俺に神器をくれたって言うなら感謝したかもしれないな。


「へぇ」


 サイトウを横目に愉快気な笑みを浮かべたものの、パールはそれ以上追及することは無かった。

 暫くして、廊下の奥で祈りを捧げていた少女が立ち上がったことを確認すると、パールはそちらに向けて歩き始めた。

 サイトウも大人しくその後ろに付いて行く。


 近づいてくるパールとサイトウの足音に気付いたのか、少女がサイトウたちの方を振り返る。

 その目はパールを見て大きく揺れた。


「パ、パール様……」

「様なんてやめなさいよ。今は、あなたの方が偉いじゃない。久しぶりね、ステラ」


 そう。

 そこにいたのは聖女にしてサイトウのクラスメイトのステラだった。

 ステラとパールは知り合いなのか、パールを見たステラの表情はどこか嬉しそうであった。


 だが、ステラの表情はパールの横にいたサイトウを目にした瞬間、固まった。


「な、何故あなたがここに……?」


 ――小遣い稼ぎだ。


「は……?」


 サイトウの一言に益々ステラは困惑した。

 そんなステラの様子を察したのか、パールはステラの手を引く。


「ここで話すのも何だし、奥に行きましょう。大司教も奥にいるんでしょ?」

「は、はい。そうですけど……」

「なら、行くわよ。ほら、サイトウも付いてきなさい」


 

***



 大聖堂の奥の部屋に辿り着くと、パールはステラとサイトウを残して大司教がいるという隣の部屋に向かっていった。

 そして、部屋の中にはサイトウとステラの二人だけになった。


 早々に椅子に腰かけリラックスするサイトウとは対照的にステラの胸中は穏やかではなかった。


(なぜサイトウくんがパール様と一緒に……? どことなく距離も近かった気がしますし、親しい仲なのでしょうか?)


 パールは自らサイトウに言うことは無かったが、元聖女である。

 正確に言えば、ステラが聖女と成る前の聖女だった。


 つまり、ステラにとってパールとは尊敬する先輩のようなものだった。

 また、幼い頃から大聖堂で育てられてきたステラにとってパールは姉のような存在でもあった。


 尊敬する人が自分の嫌いな人間と親し気だったという事実は、ステラを動揺させるには十分すぎるものだった。


「サイトウくんはパール様と仲がいいのですか?」


 ――別に。


「なら、なぜ一緒にいるのですか?」


 ――誘われた。


 サイトウの言葉にステラは固まった。


 パールには人を見る優れた目があるというのは聖教会内部では有名な話だった。

 聖教会の直属の聖騎士たちの中にもパールが学園生時代に才能を見出したものが大勢いた。


 そのパールがサイトウを自ら誘ったのであれば、サイトウにはそれだけの才能があるということだ。


「そう、ですか……」


 少し前までの、学園に入学して一か月以内のステラならサイトウに嫉妬しながら噛みついていたかもしれない。

 だが、今のステラは魔族との戦闘、上級生との戦いで敗北したことで気持ちが沈んでいた。


(羨ましい、ですね……。私にも力があれば、パール様は私を連れて行ってくれたのでしょうか……)


 何やら思いつめた表情のステラに流石のサイトウも違和感を覚えたが、特に声をかけることは無かった。

 同級生の少女がなにかに悩んでいようが、苦しんでいようが自分には関係ない。


 薄情者とも取れるスタンスが、なんともサイトウらしかった。


「待たせたわね」


 重たい空気が部屋の中を支配する中、扉が開きパールと黒に金の刺繍が施された重々しい衣装を身にまとった眼鏡の男性が姿を現した。


 その瞬間、ステラは姿勢を正し男性に向けて深々とお辞儀する。

 聖女であるステラが敬う存在というところからサイトウも男が聖教会の大司教であることを察した。


「ふむ。君がパールが連れて来たサイトウという少年か」


 見定めるような目つきで大司教はサイトウを見つめる。

 それに対してサイトウは警戒するように大司教を睨んでいた。


「サイトウくん、大司教の御前ですよ」

「構わない」


 サイトウを窘めようとするステラを大司教自ら制する。


「人は所詮人だ。真に上に立つ者は神一人。同じ人なのだから、どう接するかは個人の自由だ」


 大司教の言葉にサイトウは話が分かる奴だと思った。

 しかし、それはそれとして依然として大司教のことを真っすぐ睨みつけていた。


「ふむ。サイトウと言ったね」


 サイトウは何も言葉を返さない。

 ただ静かに大司教の目を見つめている。


「君がなにをするつもりかは知らないが、一つだけ教えておこう。魔族も人も、この世界に生きる種族は皆神にはなれない。こんな当たり前のことも理解出来ずにつけあがる愚かな者が多くてね。君が勘違いしないことを祈っているよ」


 そう言い残すと、大司教は部屋の奥へと引っ込んでいった。

 最後までサイトウはなにも言い返すことは無かった。


 サイトウも大司教も互いに理解していた。

 決してお互いが相いれない存在であることを。

 だからこその大司教の言葉は牽制であり警告であった。ラインを間違えるなよ、という。


「大司教が一度君を見たいって聞かなかったのよ。とりあえずサイトウくんは明日の早朝にここに来て頂戴」


 ――詳細を話せ。


 パールに対するサイトウの態度にステラがムッとした表情になるが、サイトウはそれを気にも留めなかった。


「南方の方で奇病が流行っているらしいのよ。その鎮静化のためにステラが向かうのだけれど、その護衛にあなたもついてきてもらうわ」


 ――聖騎士たちはどうした?


「この間の学園生が襲撃された事件から魔族や魔物の動きが活発になってきていて、聖騎士の多くはそっちに人員を割かれているわ。聖教会直属の聖騎士も手伝わなくちゃいけないほどにね。とてもじゃないけど、道中の護衛を任せられるほどの余裕はないわ」


 ――なるほど。だが、俺は学園生だが?


「実力があれば身分は関係ないわ。少なくとも、あなたは魔族を撃退したことがあると聞いたことがあるし、十分でしょう? 下手な冒険者より信用できるわ」


 ――報酬は?


「金貨二十枚プラス出来高払いよ。ただ、命がけでステラを守ることが条件。どうかしら?」


 金貨二十枚。

 それは護衛依頼にしては破格の条件だった。それほどまでに聖女の価値が聖教会においてでかいということなのだろうが、この美味しい話を断る理由はサイトウには無かった。


 ――のった。


「決まりね。必要があれば他に誰か雇ってもいいわよ。でも、その人の報酬は自分の分から支払ってね」


 こうしてサイトウがステラの聖女のお仕事に付いて行くことが決定した。

 だが、それをよしとしない人物が当然ここにいる。


「待ってください! 私は嫌です」


 そう、ステラだった。

 ステラ自身護衛が必要なことは理解してる。

 それはそれとして、ステラはパールの実力も知っている。護衛ならパール一人で十分ではないか。

 あわよくば、久しぶりにパールと二人きりで過ごしたい。


 そんなことを考えていた。


「ステラ、私からお願い。あなたを守るためなの」

「うっ……」


 憧れの人から手を握られお願いされてしまえば、いくらステラと言えど断ることは出来なかった。


「わ、分かりました……」

「なら、決まりね。それじゃ、サイトウくん明日は遅刻しないでね」


 ――ああ。


 かくして、サイトウの聖女と元聖女と共に行く南方遠征が決まった。

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