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第十一話 「ごめんね」

 神器を構えるエースに対応するべく、アイベは槌を、ツバキは短剣と構える。

 だが、二人が神器を構えるころには既にエースはツバキの間合いに飛び込んできていた。


「――ッ!!」

「ツバキ!!」


 間一髪、大鎌の刃を短剣で防いだツバキだったが、衝撃を殺しきることは出来ず身体が後方に飛ぶ。


「大丈夫っス」


 駆け寄って来るアイベに手を上げて平気なことを示しつつ、ツバキはエースを見据える。

 エースの表情に食事をしていた時の穏やかな表情はなく、戦う覚悟を持った戦士がそこにはいた。


「アイベくん、エースさんは一年生トップの実力者っス。迂闊に攻めてもこっちが返り討ちにされるだけっスよ」

「それでも、向かっていくしかないだろ。後手に回っても有利にはならねえ」


 エースには聞こえない程度の小声で会話しながら、ツバキは打開策を練る。


 エースは神器解放と言っていた。

 それはつまり神器の能力を使えるということに他ならない。

 その能力が分からない以上、迂闊に攻めることは難しいがアイベの言う通り後手に回っても勝ち目は薄い。

 情報がないということがツバキの判断を鈍らせる。


「ツバキ、俺が神器の能力を解放できていない以上、頼りになるのはお前の神器の力だ。それはエースも知らないはず。タイミングは何時でもいい。俺をエースの近くに飛ばしてくれ」

「……分かったっス」


 ツバキが悩んでいることをアイベも察したのだろう。

 アイベの方から作戦を提案する。

 余りにシンプルな戦法ではあったが、確実に不意は突ける有効な戦法でもあった。


 どこか胸騒ぎを感じつつも、それ以上の策が思い浮かばなかったツバキはアイベの言葉に頷きを返した。


「頼むぜ」


 一言ツバキに告げるとアイベが神器を構える。

 それに対して、エースも大鎌を構えた。


「うおおおおお!!」


 アイベが雄たけびを上げながら走り出す。

 それを静かにエースは待ち構えていた。


(やるなら、ここ!)


 アイベの背後にピタリとつきながら、ツバキは静止しているエース目掛けて短剣を放つ。

 短剣はエースの胸元目掛けて一直線に飛んでいくが、エースは冷静にそれを鎌で弾き、再びアイベを待ち構える。


 だが、弾かれた短剣がエースの斜め後ろの地面に突き刺さったところを見てツバキは小さくガッツポーズした。


「アイベくん!!」

「おう!!」


 アイベの背中に触れ、ツバキは自らの神器の能力を発動させる。

 ツバキは神器を解放していないが、それでも使える能力が一つだけある。


 触れたものを自らの神器の場所まで飛ばす能力。


 ツバキが能力を発動した瞬間、アイベはエースの死角にある短剣に飛び、そのまま神器をエースにぶつけることが出来る――はずだった。


「な、なんでっスか……」


 ポツリとツバキが呟く。

 その理由は単純で、瞬間移動しているはずのアイベが全く移動していないからだ。


「ッ! うおおおお!!」


 動揺するツバキを背に、アイベは瞬時に状況を理解する。

 だが、攻撃を止めようにも既にエースの間合いの中、やられると分かっていてもアイベには突っ込むという選択肢しかなかった。


「ごめんね」


 そして、エースの振るう大鎌がアイベを切り裂いた。


「ぁ……」


 エースの鎌がアイベを切り裂いた瞬間、アイベの身体が力なく地に沈む。

 そして、カランとアイベの手に持っていた神器が音を立てて地面に転がった。


「アイベくん……?」


 急速に喉が渇いて行く中、なんとかツバキが言葉を絞り出す。

 だが、さっきまであれほど騒がしかったアイベが、どれだけ授業の模擬戦でボロボロになっても直ぐに立ちあがるアイベがピクリとも動かない。


「アイベくん……う、嘘っスよね……」

「大丈夫だよ、ツバキちゃん。命は刈り取ってないから」


 顔を青ざめるツバキを安心させるようにエースがコツコツと足音を反響させながらツバキに歩み寄る。

 そして、ツバキの首筋に大鎌の刃が当てられた。


「私の神器の能力はこの鎌で触れたものからナニカを『刈り取る』ことが出来るの」

「刈り取る……?」

「そう。例えば、ツバキちゃんが放った神器から私は能力を刈り取った」

「だから、自分の神器の能力が発動しなかったんスね」

「ううん。発動はしてるよ。発動はしているけど、何も起こらなかったって感じかな」


 強すぎる。

 

 内心でツバキは歯噛みした。

 学年一位、更には聖騎士と共同ながらも魔族を撃退したエースの実力はレベルが違った。

 少なくとも、神器を解放出来ないツバキとエースでは太刀打ちできないものだった。


「アイベくんは、どうなってるんスか?」

「意識を刈り取らせてもらったよ」

「元に戻るんスよね?」

「勿論、刈り取れるのは神器を解放している間だけだからね」


 アイベが無事ということを知り安堵するツバキ。

 だが、直ぐに気を引き締める。


 今ここで、エースが自分の意識をいつでも刈り取れるにも関わらず、まだ決着をつけていないことには理由があると考えてからだ。


「要求はなんスか?」

「うーん、勘違いさせちゃってるかな? 要求は無いよ」


 緊張するツバキとは対照的にエースは既に自身の勝利を確信しているのか、穏やかな表情を浮かべていた。


「さっきも言ったけど、私は傷つく人を少しでも減らしたいの。一人でも笑顔になれる人が増えたらいいなって思ってる。アイベくんにもツバキちゃんにも、基本的には手を出すつもりはないんだ」


 基本的には、その部分をやけに強調するエースに、ツバキはなんとなく彼女の言いたいことが分かった。


「サイトウくんスか」

「うん。出来たら、関わりを持って欲しくないけど、それは無理だよね」

「アイベくんの目標っスからね。自分としても、彼には止まって欲しくないっス」

「そうだよね」


 ツバキの言葉にため息を漏らすエース。

 エースとしてはせめてアイベの言っていた通り、サイトウが世界征服を目論んでいないことを願うばかりだが、現実がそう上手くいくものではないということを彼女は経験上知っていた。


「だから、これは警告かな。全ての人が幸せに、それが理想だろうけど、私は一人を切り捨てることで多数が救われるならその一人をこの手で殺す覚悟はしているつもり。だから、もしその時が来たらアイベくんとツバキちゃんと敵対しないことを祈っているね」


 その言葉を最後にエースは大鎌を振り、ツバキは意識を失った。

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