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第四話 狙いたいならお前が取れ

 サイトウの朝は遅い。

 特にここ最近はより遅くなっていた。その理由がアイベが救護室で寝泊まりしており、サイトウを起こす人がいなかったことにある。


 更に、サイトウは遂にもふもふの羽毛布団を手に入れた。

 そのもふもふ具合を前に、サイトウの睡眠時間は恐ろしく増えるのではないか。


 そんな懸念がされていたが、ヒーローとはいつも遅れてやって来るものである。


「サイトウさん! おはようございます!! 今日も太陽が俺たちに輝けと叫んでいますよ!!」


 ――うるせぇ。


 そう、我らのアイベが遂に帰って来たのである。

 眠たげなサイトウの拳を頬で受け止めると、アイベは素早くサイトウの掛け布団と寝巻きをはぎ取っていく。

 そして、制服を着せ背中におぶれば準備完了だ。


「さあ、サイトウさん! 今日も元気に学園生活を送りましょう!」


 ――ねみぃ。


 アイベの復活に伴い、いつも通りの日常がサイトウにも戻って来た。





 教室に入ると、アカネやステラ、ツキヒ、シルクの姿も既に見えていた。

 他にも実地演習で負った負傷の治療で休んでいた生徒の殆どが復帰している。

 学園に優秀な救護班がいるとはいえ驚異的な回復力と言えるだろう。


「おはようございます!!」


 アイベが元気よく挨拶しながら教室に足を踏み入れると、クラスメイトの視線がアイベに集まる。

 その視線を気にすることなく、アイベはサイトウを席に置き、自分の席に着いた。

 すると、早速アカネがアイベとサイトウの方にやって来た。


「アイベ、勝負の件だけど覚えている?」


 アカネの言葉にアイベがハッとした表情になる。

 アイベ自身すっかり忘れていたが、アイベたちはサイトウへの挑戦権をかけて勝負していたのだ。


 自分が何体の魔物を倒したかを急いで数えて、アイベは表情を暗くする。

 アイベが倒した魔物は合計四体だ。少なくはない。

 だが、例年の基準で言うと平均程度といった数だった。


「あ、ああ」

「そう。なら、話しは早いわ。今回の勝負は無かったことにしましょう」

「え?」


 アカネの言葉に思わずアイベは顔を上げた。

 間違いなく自分が負けたと思っていたからだ。


 アカネたちはアイベにそれ以上言葉をかけることなく、サイトウの方に視線を向ける。


「聞いたわよ、あんたが魔族を討伐したって。その実力は本物だったみたいね……」


 悔しさを滲ませながらアカネがサイトウに語り掛ける。

 サイトウはまだ寝ぼけているのか、眠たげな表情で黙ってそれを聞いていた。


「悔しいけど、この間の戦いで私は自分が未熟だってことを知ったわ。今は、あんたの方が上。だけど、勘違いしないで、私たちは雑魚じゃない。必ず、あなたを越えていく」


 そう言うと、アカネは自分の席に戻っていく。

 

 ――なんだあいつ?


 数日見ない内に変わったなぁ、と思いつつ、静かになったのはいいことだとサイトウは机に突っ伏す。

 

 結局、その日は普段サイトウに突っかかって来るステラも終始大人しくしていた。


 そして、その日の朝に学園の序列第十位の座をかけた争奪戦が行われることが発表された。





 序列第十位争奪戦がある。

 それが知らされた時の一年生たちの反応は多種多様だった。


 静かに闘志を燃やす者、神妙な面持ちで何かを考える者、周りの視線を集める者、自分には関係ないと素知らぬ顔をする者。


 そして、サイトウは素知らぬ顔をする者の一人であった。

 しかし、アイベは違う。


「サイトウさん! 序列第十位っすよ! サイトウさんしかいないっすよ!!」


 遂にサイトウさんの名が学園中に響くときが来た。

 その未来を想像しアイベがサイトウに詰め寄る。

 しかし、サイトウは鬱陶しそうに顔をしかめるだけだった。


「しかも、今年はバトルロワイヤル形式みたいですし、俺がサイトウさんをサポートしますよ!」


 いやぁ、楽しみだなー、と上機嫌に鼻歌まで歌いだすアイベ。

 そんなアイベを見たサイトウは静かに口を開く。


 ――俺は誰とも組まん。


「……え? ひ、一人でやるってことっすか?」


 ――そもそも参加する気も無い。


「でも、一年は強制参加っすよ!」


 ――ちっ。なら、その辺で昼寝してやり過ごす。


「いやいや、何でですか!? サイトウさんなら序列第十位狙えますよ!」


 ――興味無い。そんなに狙いたいならお前が取れ。


「え!? ちょっ、サイトウさん!?」


 言いたいことは言えたとばかりに、席を立ち教室を後にする。

 残されたのは困惑した表情のアイベだけであった。



 そして、瞬く間に日にちは流れ序列第十位争奪戦当日。


 サイトウは時計塔にいた。

 強制参加と言われながらこの男サボる気満々だったのである。


 ――いい眺めだ。


「やっぱりサボろうとしていたみたいだね」


 サイトウが風を感じていると背後から声をかけられる。

 そこにいたのはクリス、そしてエアだった。


 ――げっ。


「げっ、じゃないよ。全く、以前に君は私と約束をしたはずだよね? 授業をサボらないって」


 ――学園に行くとは約束した。


「全く……。まあ、いいよ。とりあえず今回の行事は学園の今後にも関わる重要なものだ。サボるわけにはいかない」


 ――やだ。


「残念、もう能力の範囲内だ。エア」

「はい」


 エアが返事を返すと同時にサイトウの足元に四角い布が姿を現し、次の瞬間にはサイトウを包み込んだ。


 後にはクリスとエア、そしてサイトウが包み込まれた布が転がっていた。


「これで全員かな?」

「はい」

「じゃあ、後はエアたちに任せるよ。私たちはアイラの神器で様子見させてもらうね」

「はい、それでは」


 そう言うとエアは布の中に消えていった。


 序列第八位エア。神器はケイオスという名の正方形の布である。

 ケイオスが包んだ空間には異空間が生まれる。

 既にケイオスを解放しており、ある程度その能力を制御できるエアはケイオスが生み出す異空間にある程度の干渉が可能となる。


 今回エアが生み出した異空間は孤島。

 山、森、海、川など小さな規模ではあるが様々なフィールドが展開されており、序列第十位争奪戦に参加する全ての生徒がその中で数日過ごすことになる。


 食料はエアが異空間内の参加者に配球する予定ではあるが、それ以外のルールは殺し禁止それだけである。

 ギブアップしたもの、一定以上の負傷を負ったものはエアにより空間から除外される。


 制限時間は三日間、最後まで残ったものが勝ちのシンプルなバトルロワイヤルである。

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