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第十三話 一番強い男だ

 各地で激戦が繰り広げられる中、スカーとアイベの戦いも終わりを迎えていた。


「……ぅ。はな……せ……」

「ねえ、君弱すぎない? 毒を盛られたさっきの聖騎士の方が何倍も強かったよ? 僕さ、弱い者いじめは大好きなんだけど君は雑魚過ぎてつまんなーい」


 結果はアイベの敗北。

 ただの一撃を食らわせることも出来ず、アイベは木の蔓に囚われ何度も何度も地面に叩きつけられていた。


 既にその手から神器は離れている。

 万が一も起きない、そんな状況でスカーは何を思ったのかアイベの身体を解放し、その前に神器を転がした。


「君ほど弱いとさ、神器を解放されても問題ない気がしてきたよ。ねえねえ、君さ、神器解放して見せてよ。僕さ、見たこと無いんだよね。これまでは神器を解放される前に皆殺しちゃったからさぁ」


 舐められている。

 その事実に唇を噛み締めながらも、アイベは神器を握る。


(舐めやがって……! やってやる。神器解放のやり方なんて分からねえけど、このまま終われるか! 俺はサイトウさんに、あの人の背中に追いつくんだ!)


「うおおおお! 神器解放!!」


 アイベが叫ぶ。

 しかし、なにも起こらない。


「神器解放!!」


 しかし、なにも起こらない。


「解放! 解放! 解放しろよ……ッ! 解放してくれよおおお!!」


 しかし、なにも起こらなかった。


「あははは! 君さぁ、神器解放も出来ないの? 雑魚どころじゃないじゃん、君ってカスだね。カ・ス。悔しかったら神器解放してみなよ」


 神器の解放も出来ないくせに、意気揚々と自分の前に姿を現し、そしてあっさりと倒される。

 挙句の果てに使えもしない神器解放に縋り出す。


 その姿は酷く滑稽で見せ物にしては最高のものだとスカーは嘲笑う。


「くそっ! くそっ! 頼む、頼むから……俺に力をくれよ……!」


 涙を流し懇願するアイベだが、神器はその思いに応えない。

 

「はぁ、笑いつかれた。笑わせてくれたお礼に君は生かしてあげるよ。先にあいつらを殺そうかな」

「い、いや……来ないで!!」


 アイベに向けられていた視線が囚われていた生徒たちに向けられる。

 一度はアイベに希望を見出した生徒たちだが、それは淡く儚いものだった。


 舌なめずりするスカーに涙を流しながら、懇願するがスカーがそれを聞き入れるはずがない。


「ダーメ、君はここで死ぬんだ」

「やめろって言ってんだろ!!」


 生徒に近寄るスカーにアイベが神器を振るう。神器の解放ができなくとも、その目は未だ死んでいなかった。


 だが、その一撃は容易く受け止められ、アイベの身体は地面に叩きつけられる。


「しつこいなぁ。あんまりしつこいと君から殺すよ? 折角、貰った命なんだから大事にしなきゃね。特に、君みたいなカスはねぇ」


 地面に伏したアイベを一瞥してから、再びスカーは目の前の少女に視線を向ける。

 既に涙で表情はくしゃくしゃになっていた。


「あは、君そんな顔だったっけ? 随分ブスになったねぇ。まあ、そっちの方がお似合いかも。じゃあ、殺すね」


 笑顔で少女の首に手を伸ばすスカーだが、足に感じた感触に顔をしかめる。

 視線を下げると、スカーの足をごつごつとした手が握っていた。


「やめ……ろ……」


 息も絶え絶えな声に、スカーは顔をしかめる。


「僕さあ、しつこいと殺すって言ったよ――ねッ!!」


 スカーがアイベの顔面に足を振り抜く。

 それにより、アイベの身体は後ろに転がる。


「はあ、うっざ。まあ、いいや。気を取り直して、直ぐに殺してあげるからね」


 今度こそ大人しくなったとアイベから視線を外し、少女を見つめる。

 だが、少女はスカーを見ていない。

 寧ろ、その後ろに視線を向けている。


 まさかと思いスカーが振り返ると、そこには必死に立ち上がろうとするアイベの姿があった。


「なんなんだよお前」


 余りにもしつこいアイベの姿に、スカーは標的を変えアイベに近寄る。


「弱いくせに、雑魚のくせに、でしゃっばってんじゃねえよ!!」


 立ち上がろうとするアイベの背中を踏み付ける。

 そして、グリグリと足でアイベの頭を踏み躙る。


「あのさあ、僕が見逃してやるって言ってんの! 今からあの女を殺すって言ってんの! だから、お前はみっともなく涙流して逃げてたらいいんだよ! カスが粋がってんじゃねえよ!!」


 鼻息荒くして、スカーが何度も何度もアイベの頭を踏み付ける。

 その姿に生徒たちの誰もがアイベが死んだと思っていた。


「……サイ……トウさん」

「あ? 誰だよそれ」

「……まも……るん……だ」

「誰だって聞いてんだろ!!」


 自分の言う通りにならない。何度やっても屈しない。

 そんなアイベの姿に苛立ちが最高潮に達したスカーは深く息を吐き、アイベから足をどかす。


「もういいよ。そのサイトウが誰か知らないけどさぁ、どうせお前と同じカスなんでしょ? そいつも後から殺してやるよ。でも、今はお前だよ、お前。僕の機嫌を損ねた。カスの癖にだ。原型もとどめないくらいぐちゃぐちゃに殺してやるよ」


 パチンとスカーが指を鳴らすと、木の蔓が大きな槍と化しスカーの手元に収まる。


「先ずは足、それから腕、頭、最後に心臓だ。じゃあね、カス」

「サイ……トウ……さん」

「お前を殺すのは僕なんだよ! 僕を見ろ!! 誰なんだよ、そいつは!!」


 怒りのままにスカーが槍でアイベの身体を貫こうと振りかぶる。

 アイベに死が近付く中、アイベは耳に届いたその声にフッと安堵の笑みを浮かべた。


 ――一番強い男だ。


 一声。

 背後から聞こえた声にスカーは動きを止め、ゆっくりと振り返る。


 スカーを見下ろすその姿は正に傲慢そのもの。

 ボロボロながら一つも臆する気配のないそのクズは、自称一番強い男・サイトウだった。

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