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第十二話 なにいってんだ、お前?

いつも読んで下さる方々、並びにブックマーク、評価、感想などして下さった方々ありがとうございます!

 突然の出来事に、サイトウもクレナイですらも一瞬動きが止まる。

 そんな中、先に動いたのはサイトウだった。


「ひゃんっ!?」


 この男、とりあえず揉んだのである。

 男として手の中に山があるならとりあえず揉みこむだろ? そんな思考での行動だった。

 クズを通り越して犯罪者である。


 ――これは中々、結構なお手前で。


 ようやくクレナイは思考が身体に追いついたのか、聞きたくもない感想を告げるサイトウの腕を振り払う。

 そして、自らの胸を隠すようにしてサイトウから距離を置いた。


「あ、あああああんた! どういうつもりだい!?」


 ――お前を捕まえるつもりだ。


「や、やっぱりアタシとつがいになるつもりなんだね!?」


 クレナイのこの言葉にはサイトウも頭に疑問符を浮かべる。


 ――なにいってんだ、お前?


「しらばっくれるんじゃないよ! お、乙女の肌に触っていい異性は子を成す相手だけだろう!」


 クレナイは悲しくなるぐらいにピュアだった。

 当然ながら魔族も繫殖行動を行う。人間たちほど恋愛感情というものを魔族は持っていないが、人間より好き嫌いははっきりしている。

 それ故に、魔族の乙女にとって自らの肌を触れさせる相手は相当に気に入った相手――性行為をする相手という認識だった。


「くっ! アタシはあんたを殺したいのに、つがいになるなら子はなさなきゃいけない……! 子育てには少なからず男手の力もいるから、あんたを殺せないじゃないか! ま、まさかそれを狙ってたのかい!? 卑怯者!!」


 ――なにいってんだ、お前?


 顔を真っ赤にしてキャンキャン叫ぶクレナイにサイトウは再度そう告げた。


 人間と魔族は価値観が違う。

 娼婦という存在や村の中のあちこちで不倫があったことを知っているサイトウからすれば、クレナイの言い分は理解出来なかった。


「くっ……あんたはクズだけど強い。アタシとしても強い男は嫌いじゃないけど……いや、でもあんたはクズだ! クズなあんたが父親なんて生まれてくる子供が可哀そうだ!」


 ――なにいってんだ、お前?


「そ、それに魔族と人間の恋なんて問題も山ずみじゃないか。あんた、本気でアタシとつがいになりたいのかい!?」


 ――なにいってんだ、お前?


「アタシと性行したいのかって聞いてんだよ!」


 ――そりゃ、お前。したいだろ。


 それは余りに真っすぐで、純粋な瞳だった。


 性格には難があるが、容姿は同年代のガキと比べても大人の妖艶さがある美女だ。スタイルも抜群。


 サイトウは心の底から下心一色だった。


「ほ、本気なんだね……。くっ、そんな急に言われたってアタシだって心の準備が……。き、今日は帰る!!」


 ――お、帰るのか。


「あんたの気持ちは分かった。でも、アタシはあんたを殺すことはまだ諦めていないからね!!」


 ――ああ、さっさと帰れ。


 つがいになりたいと言ってきた(とクレナイは思っている)癖にやけに素気ないサイトウにクレナイも少しムッとする。


 次はいつ会えるかも分からないのだから、少しくらい寂しがってくれてもいいではないか。


 そんな気持ちからか、帰ると言ったのに何度もサイトウの方をチラチラと見てしまう。

 そんな姿を見かねたサイトウが遂に口を開く。


 ――早く帰れよ。


 これにはクレナイも顔を真っ赤にして激怒した。


「あんたみたいなクズとつがいになる奴なんていないよ! バカ!!」


 そして、森の奥へとクレナイは姿を消していった。


 クズとつがいになる奴はいないと言っているくせに、サイトウを殺すことを保留にしている辺り、クレナイはちゃんとサイトウとつがいになるかを冷静に考える気満々だった。


 ――なんだあいつ? 俺も疲れたし、帰るか。


 一人の乙女の純情を弄んでおきながら、知らんぷりなクズは「めんどかったあ」と言いながら森の外へと歩き始めた。

 最低である。



*****



 サイトウが持ち前のクズっぷりを遺憾なく発揮し、クレナイを撃退したのと丁度同時刻、シルクたちの方でも動きがあった。


「ふひっ、ふひひっ。惜しかったねぇ。でも、所詮は子供。このボクに敵うはずがないんだよねぇ」


「ッ! 放しなさい!」

「これは、予想以上ですね……」

「不味いな……」


 泥を操る魔族の目の前には、泥で出来た十字架に磔にされたアカネ、ステラ、ツキヒの三人がいた。

 三人にシルクを加えた四人の連携は決して悪くはなかった。

 前衛のツキヒに後衛のステラ、後衛、前衛どちらも出来るアカネとシルク。

 バランスとその実力は学園でも上位に食い込むほどだろう。


 ただ、四人の中に神器解放が出来るものはいなかった。


 神器解放出来るか、否か、たったそれだけだが、その余りに大きな差がこの結果であった。


「さてさて、誰か殺そうかなぁ。ふひひ」

「まだだ……っ! まだ、終わってない……!」


 このまま四人とも殺される。

 そう思われたその時、先ほどまで地面に這いつくばっていたシルクが剣を支えに立ち上がる。

 

「なんだ生きてたんだぁ。君が一番弱かったからもう死んだかと思ってたよぉ」


 シルクが立ち上がったところで自分の勝ちは揺らがない、そんな風に魔族が笑う。

 その笑みを見てもシルクは何も言い返せなかった。


 この戦いでシルクが足を引っ張っていたことを他でもないシルク自身が痛感しているからだ。

 最初に捕まったのはアカネだが、それはシルクを庇ったからだった。

 アカネがいなくなったことで戦線が崩れ、ステラもツキヒも囚われた。


 残ったシルクは必死に魔族に立ち向かったが、大質量の泥に飲まれて先ほどまで気を失っていた。


「なんどやっても同じことだよぉ」


 魔族の言う通りだ。

 シルクの神器は聖剣と言われている。だが、その輝きは未だくすんだまま。

 それは神器の力にシルクが追い付いていないからだ。


 情けない。誰かを守れる強さが欲しいとひたすらに駆けてきたが、それでも魔族には勝てない。

 それどころか幼馴染に庇われ、戦犯に成る始末だ。


 それでも、いや、そうだからこそ、シルクは立ち上がる。


「誓ったんだ……! 幼い頃、僕らを助けてくれたあの人のように誰にも大切なものを奪われないくらい強い人になるって……」

「ふひっ。感動だねぇ、でも、現実は非情だよぉ。神器も使いこなせない君は、ここで死ぬのさああああ!!」


 魔族が両手を上げると、泥の巨人がシルクの前に立ちはだかる。

 そして、泥の巨人はシルクめがけてその拳を振り下ろした。


 走馬灯だろうか。

 巨人の拳が迫る中、シルクは幼い頃のことを思い出していた。

 村に大量の魔物が襲ってきた、恐ろしい夜のことを。


 村の人が必死に抗うも、次々と人が倒れ、叫び声と共に村に火が上がる地獄絵図の中、シルクとその家族も一匹の魔物を前にしていた。

 一つ目の巨人とも言えるその魔物は、シルクたちを肉片に変えるべく、手に持った棍棒を振り上げる。


 死ぬんだ。誰か、助けて。


 シルクが願った次の瞬間、肉片になって飛び散っていたのは巨人の方だった。


『あー、だりぃ』


 巨人を一撃で倒したその少年は心底めんどくさそうに呟くと、村を蹂躙する魔物たちを次々と倒していった。


 その日の景色をシルクは忘れない。

 魔物という理不尽を一撃で倒すその姿に、シルクは憧れた。


(そうだ……! 目の前の理不尽をぶち破り、誰かを救う。そんな強さに僕は憧れたんだ……! こんなところで、死ぬわけにはいかない!!)


 シルクの思いに呼応するかのように、聖剣が眩い光を放つ。


「この手に力を、この剣が輝く先に勝利をもたらせ!! 神器解放! ヴィクトリア!!」


 まばゆい光と轟音が蒼穹を駆け抜ける。

 光が収まった先にいたのは一人の少年。


 その目は黄金色に輝き、その手の剣は白く気高い光を放つ。


 それは使用者に勝利をもたらす絶対の剣だった。


「ひっ!? バ、バカな……その神器は先々代の魔王様が命をかけて封印したはずじゃ……!」


 初めて、魔族のスカーが動揺を露わにする。

 それほどまでにシルクの神器は強力すぎる力を有していた。


「はあああ!!」

「や、やめろぉ! く、来るな来るんじゃない!!」


 シルクが魔族目掛けて駆ける。その背中には穢れなき純白の翼が生えていた。


 必死に泥の壁や人形を生み出しシルクを止めようとする魔族だが、解放されたシルクの神器の前には近寄ることすら許されない。


「ヒィイイ!!」

「ヴィクトリアス・スラアアアアッシュ!!」


 一閃の光が森の中を駆ける。


 そして魔族は泥と化し、溶けるように地面へと崩れ落ちた。


「や、やった……。あれ……?」


 神器を解放した弊害か、魔族を倒した直後にシルクの身体も力なく地面に崩れ落ちる。

 既に神器・ヴィクトリアから光は失われていた。


「シルク!!」


 幼馴染の心配そうな声を聞きながら、シルクは気を失った。

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