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第十一話 「バーカ! バーッ!?」

 アイベがスカーと対峙し始めた頃、ステラとツキヒもまた魔族と対峙していた。


「ヒヒッ。てめえが聖女かぁ、聖女は最優先抹殺対象だぁ。このボクに殺されることを幸運に思うんだなぁ」


 本来ステラとツキヒの傍には聖騎士と彼女たちと同じグループだった生徒がいるはずだが、突如盛り上がった土などにより見事に分断されている。

 それはこの日のために魔族たちが準備してきたことを意味していた。


「はぁ、最近の私はどうも男運に恵まれていないようです」

「同情するが、サイトウと目の前の魔族の二人だけだろう? そう気を落とすな」

「ツキヒさん……。それもそうですね。それより、集中しましょうか。魔族相手に油断は出来ないでしょうから」

「ああ、そうだな」


 突然現れた魔族にも臆することなく、ステラは杖を、ツキヒはカタナをそれぞれ構える。

 聖女のステラも魔物がより凶暴と言われているイースタン地方で育ったツキヒも魔族と出会うのはこれが初めてではない。

 その経験が、今の冷静さに繋がっていた。


「ヒヒッ。いいねぇ、君たち将来有望でこのまま育ったらいずれは魔王様にも届くかもしれない……。だからこそ、ここで死んでもらうんだけどねえええ!!」


 魔族がステラとツキヒに飛び掛かる。

 だが、その魔族の身体を横から炎の渦が包み込んだ。


「うぎゃああああ!!」


 ステラとツキヒが炎の出所に視線を向けると、双剣を握るアカネとその後ろを追いかけてきたシルクの姿があった。


「楽しそうなこといしてるじゃない。アタシも混ぜなさいよ」

「アカネ、素直に手助けするって言いなよ」

「うっさいわね! そんな恥ずかしいこと言えるわけないでしょ!」

「手助けは恥ずかしいことじゃないよ……」


 素直になれないアカネにシルクがため息をつく。

 アカネと幼馴染のシルクは、昔からツンデレ気質なアカネの世話役のような立ち位置であり、それ故に苦労することも少なくなかった。


「ヒ、ヒヒッ……痛い、痛いなぁ。やっぱり人間は酷いなぁ。こんな幼い子供たちですら、ボクらを殺しに来るんだ……。だから、ちゃーんと駆除しないとダメだよねええええ!」


 まだ学生とはいえ同年代の中でもトップクラスの一撃を浴びて尚、魔族はピンピンしていた。

 その姿には、ステラもツキヒも眉をひそめる。


 どうも、一筋縄ではいかない相手だ。


 それがステラたちの共通認識だった。


「アカネさん、シルクさん、この場ではお二人のお言葉に甘えさせていただきます」

「そうだな。今の私たちでは四人がかりで勝てるかどうかというところだろう」

「ふん、アンタたちがどーしてもって言うなら協力してあげるわよ! 足引っ張んじゃないわよ」

「やれやれ……」


 一年生の中でも上位の実力者たちによるドリームチームが今ここに結成された。

 それでも勝率は五分といったところだろう。


「ああ、ズルい、ズルいなぁ。四人がかりで一人を苛めるなんて最低だぁ。やっぱり、人間は酷いなぁああああ!!」


「最低、ね。残念だったわね、その言葉は間違いよ。下には下がいるの。あんたが最低と言ったアタシらよりもクズが人間の中にはいるわ」

「同感ですね。敵とはいえ殺生を行う私たちを許して欲しいとは思いませんが、私たち程度で最低と言われるのは納得がいきません」

「……確かに、少なくともあの男に比べればマシだな」

「それ、もしかしなくてもサイトウ君のことだよね?」


「「「当然よ(です)(だ)」」」


 三人の美少女からここまでぼろくそに言われるのだから逆に凄いな、とシルクはサイトウを称えた。

 何はともあれ、目の前には魔族。

 こちらは四人とはいえ、全員が学生。


 シルクたちの未来を賭けた戦いの火蓋が切って落とされた。



***



 各地で激しい戦闘が繰り広げられる中、サイトウもまたクレナイという女の魔族と激闘を繰り広げていた。


「……ッッ! いい加減にしなッ!!」


 戦闘は殆どと言っていいほど一方的になっていた。

 そう、一方的にサイトウがクレナイの攻撃を浴びていた。


 その事実に我慢ならないと言った様子でクレナイが攻撃を中断し、怒鳴り声をあげる。


「あんたの実力はそんなもんじゃないだろう! さっきから隙だらけの大振りばかり、バカにしてんのかい!?」


 ――失礼な。俺は本気を出している。


 平然とした様子でそう告げるサイトウに、クレナイのこめかみに青筋が浮かび上がる。


 クレナイがサイトウに食らわせた攻撃の数は数えきれないほどだ。

 大技こそ防がれているものの蓄積したダメージはその辺の聖騎士ですら倒れるほどと言っていい。


 それらの攻撃を耐えきれる男が、大振りしか出来ない単細胞のはずがないのだ。


 だからこそ、クレナイはサイトウに舐められていると思っていた。

 そして、その事実はクレナイのプライドに大きな傷をつけていた。


 実際のところ、サイトウは本気を出している。

 辺境で単調な魔物と戦ってきたサイトウは本気で殴ること以外を知らない。戦闘における高度な駆け引きなど学んでいないのだ。


「あんたがその気なら、アタシにだって考えがあるよ!」


 そう言うとクレナイは宙を高速で飛び回る。

 サイトウの周りを攻撃するわけでもなくブンブンと飛び回る様にサイトウは虫だ、と思った。


 ――鬱陶しい。


 拳を振るうも、大振りの攻撃が当たるはずもなく何度も空振りをする。

 その様子を見てクレナイはかつてないほどの優越感を感じていた。


「舐められているのに攻撃も当てられない! さぞかし自分が惨めだろうねぇ」


 クスクスと小馬鹿にするような笑いに、サイトウのイライラが溜まっていく。

 怒りに任せ拳を振るうも、当たらない。


 苛立ちを隠そうともしないサイトウの姿にクレナイの口角が上がっていく。


(あのクソガキが何も出来ずに滑稽な姿を晒している……! 普通に殺すよりこっちの方がよほど気分がいいねぇ)


 敵を舐めるなど失礼。敵であろうと全力で叩き潰す。

 それを信条としていたクレナイだったが、人生初の舐めプにこれまで感じたことのない高揚感を感じ始めていた。


 これでは埒が明かない。

 そう考えたサイトウは一度、拳を下ろした。


「ん? 降参かい? 跪いて許しをこい願うなら、許してやらなくも無いよ。まあ、あんたを殺すことは確定しているんだけどね」


 ――誰がするか。


「なら、ここで永遠にあんたを煽ってやるだけさ!」


 ブンブンとクレナイが飛び回る中、サイトウはクレナイの動きをジッと観察していた。

 よく見れば、クレナイの動きは捉えきれないことはない。触れることは恐らく出来るだろう。

 だが、サイトウの攻撃は大振りで予備動作が大きい。

 そのため、クレナイに見切られているのだ。


 ここでサイトウは閃いた。


 避けられるなら避けられないようにすればいい。

 要は捕まえてしまえばいいのだ。幸い、サイトウには腕が二本もついている。

 片手で捕まえ、片手で拳を振り抜く。雑魚は倒れる。


 完璧な計算だと自画自賛を終えたサイトウは早速行動に移すことにした。

 既にクレナイの動きは目で終えている。

 後はクレナイが定期的に自分の正面で「バーカ、バーカ」と言ってくるときを狙って捕獲するだけである。


 そして、その時は来た。


「バーカ、バ――ッ!」


 クレナイの身体に予備動作の無い状態からサイトウの左腕が伸びる。

 

 やはり大振り以外出来るんじゃないか! と内心で叫びつつ、クレナイは瞬時に躱そうと動く。


 サイトウはクレナイの首を掴むつもりだった。しかし、その狙いはクレナイの身体が横にブレたことでずれる。

 それでも、サイトウはクレナイを捉えるべく腕を伸ばし、そして――


「な――ッ!?」


 ――見事なまでにクレナイの胸にそびえたつ山を掴んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] くっそ面白い。 ただ、題名はもうちょい何とかなりませんか…? ”クソガキ”というキーワードでは、主人公のドクズっぷりを表現出来ていない気がします。
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