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第十話 「一番強いサイトウさんの一番弟子だ!!」

「くそっ! くそっ! くそおおおおお!!」

「アイベさん、うるさいっス」

「うるせえ! ちくしょう……俺は、弱い!!」


 サイトウに逃がされ、気を失ったキッシを背負いアイベは森の中を駆けていた。

 その横には仮面で表情が分からないながら、声色がどこか暗いツバキの姿もある。


 サイトウに出会い、己の未熟さを知り鍛えたつもりだった。

 あの背中に近づいているはずだった。


 だが、結果はこれだ。

 今だサイトウの背は遠く、自分はサイトウの足手まといの雑魚でしかない。


 その事実がただただアイベは悔しかった。


 アイベの気持ちはツバキも多少理解出来るのか、それ以上アイベに何かを言おうとはしない。

 二人でサイトウに背を向け、森の出口へ真っすぐ向かっていると不意にそう遠くない場所から悲鳴が聞こえた。


「……まさか、他にも魔族っスか? とにかく、今は出口で待っている先生方への連絡を急ぐべきっス。アイベさん、行くっスよ。……アイベさん?」

「ツバキ、キッシさんを頼む」


 アイベはキッシの身体をツバキに投げ、そう言った。


「は……? まさか、助けに行く気っスか?」

「そうだ」

「バカっスか!? さっきの魔族見たっスよね? 聖騎士のキッシさんですら一撃だった。敵わないっスよ! 少なくとも、今の自分たちには!!」


 ツバキが叫ぶ。

 そんなことはアイベも理解している。

 自分が言ったところで足手まといにしかならないかもしれない。それでも――。


「サイトウさんが雑魚は生きろって言ったんだ!!」

「だから、自分たちは逃げないと……」

「ちげえ。サイトウさんにとって、学園生なんて皆雑魚だ。つまり、あの人は俺たち学園生全員に生きろって言ってんだ。あの人は雑魚の俺たちの未来を守ろうとしてくれてんだよ!!」


 違う。

 いや、間違っていないのかもしれないが、『雑魚は雑魚らしく生にしがみついてろ』に対するサイトウの認識とアイベの認識は大きく違う。

 サイトウは早くどっか行けという意味でしか使っていない。


「俺は、サイトウさんの背中に触れることも出来ねえ雑魚だ。でも、せめてあの人が見てる先を一緒に追いかけてえんだよ!」

「アイベさん……」


 アイベの姿に、ツバキは過去の自分を見ているようだと感じた。

 かつてツバキも一人の人物に憧れた。憧れ、追いかけ、その縮まることのない差に絶望した。


 だからだろうか。

 ツバキはこの愚かなバカの背中を押したくなった。


「死なないと約束するっス」

「ツバキ……いいのか?」

「止めたって行くんすスね? なら、行けばいいっス。ただ、忘れちゃダメっスよ。サイトウさんが生きろって直接言ったのはアイベさんっス。そのアイベさんが死んだら、サイトウさんも悲しむっスよ」

「へへ、サイトウさんが悲しむか?」

「悲しむっスよ。きっと」

「ああ! 必ず生きて戻る!!」


 勢いよく返事を返すと、アイベは悲鳴がした方に向けて走り出す。

 その姿を仮面の下からツバキは眩しそうに見つめていた。





 一年生を襲った魔族は全員で五人いた。

 その内の一人――クレナイはサイトウというクソガキを殺すという明確な目的があり、結果その目が他の生徒に向くことは無かった。

 他の四人の内三人は一年生たちの中でも将来的な脅威になり得る人物を積極的に狩りに行っている。


 だが、最後の一人であるスカーという魔族は――


「あは、あはははは! よっわぁ。ねえ、君聖騎士だよね? 生徒たちを守るって息巻いてたよねぇ? ほら、早く立ち上がって守ってみせてよ! 早く、ほら!!」


 ――自分より弱い人間を的確に選び、一方的な虐殺をしていた。


「セイキさん……!」

「く、来るな……大丈夫だ、俺は、まだ戦える……!」


 木の蔓に囚われた生徒たちが今にも泣きそうな表情で聖騎士の名前を呼ぶ。

 聖騎士の額には脂汗が滲んでおり、誰の目からもこの場の強者は一目瞭然だった。


(油断していたところに麻痺毒を盛られるなど、一生の不覚……! このままただやられるだけでは、生徒たちにもこの場を任せてくれた団長にも合わせる顔が無い……!!)


 本来、その聖騎士の実力はスカーという魔族にも劣るようなものではなかった。

 しかし、生徒を庇ってしまったがために麻痺毒が塗られた毒針を首筋に浴びてしまった。


 身体が痺れる状態で勝てるほど魔族は甘くなく、結果的に一方的な蹂躙が行われていた。

 逃げ場も無く、おまけに生徒たちは魔族の能力により木の蔓に囚われてしまっている。


 正しく、絶体絶命の危機であった。


「正直さぁ、もう飽きてきてるんだよね。さっさとくんもこいつらも殺して次に行きたいなって感じ?」

「ヒッ」

「た、助けてください」


 生徒たちにとって恐らく初めてであろう、本気の殺意。

 それを向けられた生徒たちは蔓に縛られていることもあるのだろうが、ただ怯え、敵が温情を向けてくれることを期待することしか出来ない。


「待て……!」


 その状況下において、聖騎士は立ち上がる。

 守るべき未来のために、己の矜持のために。


「俺はまだ負けていない……!」

「あはは、そんな泥まみれの格好で言われても説得力無いなぁ」

「セイキさん……頑張ってください!!」

「お願い、負けないで!」


 生徒たちの声援がセイキの背中を押す。

 その期待を一身に受け、セイキは己の神器である槍を天に掲げる。


「ああ、勝ってみせるさ。この槍は、暗闇を駆ける一閃の光と成らん! 神器解――!?」


 突如として、セイキの足元から木の根が伸びセイキの口を塞ぎ、その全身を縛り付ける。


 聖騎士たちにとって奥義とも呼べる神器解放。

 それが成功していたら、セイキにも勝ち目はあっただろう。だが、そんな分かり切った切り札を安易に切らせるほどスカーはバカではない。


 スカーが好むのは自分よりも弱い雑魚を狩ることなのだから。

 敵に強くなってもらわれたら困るのだ。


「させるわけないじゃん。戦闘中にそんな隙見せるなんてバカじゃないの? かっこつけ?」


 ケラケラ笑いながら、スカーはセイキにゆっくりと近づく。

 そして、囚われとなったセイキの頬を殴る。


「あはっ。折角の美形が台無しだねぇ」


 そこからは到底見れたものではなかった。

 高笑いしながら動けぬ敵を一方的に殴り続けるスカー。

 セイキの意識が無くなっても暫くそれは続き、その場には生徒たちのすすり泣く声とスカーの高笑い、拳と骨がぶつかる音が響いた。


 最早唯一の頼りともいえる聖騎士は倒れた。

 このまま自分たちもあいつに殺される。迫りくる死を生徒たちがひしひしと感じ始めたその時、その男は現れた。


「やめろおおお!!」

「おっと、危ないなぁ」


 自らの背丈を超えるハンマーを振り回し、魔族の前に立つ大男。


「君は、誰かな? 格好からして聖騎士には見えないけど」


 その男は生徒たちもよく知る人物だった。

 クラスのほぼ全員から嫌われている傲慢無礼なサイトウにつき従うコバンザメ。


「俺はアイベ。一番強いサイトウさんの一番弟子だ!!」


 ただ、この場においてその男の堂々とした姿は何よりも生徒たちにとって希望の光であった。

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