伝説の始まり
クソガキでクズな主人公ですが、よろしければお付き合いください!
かつて、世界の創造主たる神はこの世界を二つに分けた。片方――魔界には魔力という特殊な力を、もう片方――自然界には神器と呼ばれる特殊な武器が与えられた。
そして、太古から魔界と自然界の間では絶えず争いが繰り広げられていた。
戦いは憎しみを産み、そして、憎しみは新たな戦いを産んだ。
決して終わることのない悲しみの連鎖が続く中、戦いの不条理を訴える者は何人もいた。
それでも、戦いが終わることは無かった。
『もう終わりにしよう』
いつしか、そんな言葉を軽々しく口には出来ないほどに、魔界と自然界の確執は大きくなり、互いに背負うものが増え過ぎてしまっていた――。
***
サイトウは魔界のすぐ傍にある辺境の村で生まれたクソガキである。
そのクソガキっぷりに、サイトウが12になる頃にはサイトウと仲良くしようという人間はいなくなった。
そんな状況でもサイトウが生きていけたのはひとえにその強さ故にだった。
12にして村の中で最強の座まで上り詰めたサイトウは衣食住の保障と引き換えに、魔界から時折やって来る魔物の討伐をすることとなった。
いくら力があるといっても、まだ12の子供。
反対の意見も出るかと思われたが、サイトウの実力とクソガキっぷりを知る村人は誰も止めなかった。
そして、昼寝をし、用意された食事を満喫しつつ魔物をぶん殴る生活を続けること三年。
サイトウは15になった。
***
「サイトウ、大事な話がある」
サイトウが芝生で寝転がっていると、村長のムラノがサイトウの下にやって来た。
サイトウにとっては村人の中で数少ない会話を交わす人物である。
「お前、学園に通う気はないか?」
――ない。
「そうか」
会話は終わった。
ムラノとしても、村を守ってくれるサイトウが残ってくれることはありがたいことである。
また、サイトウは学園で勉強やらなんやらと面倒なことがしたくなかった。サイトウの最近のマイブームは丸い虫のような魔物でジャグリングすることだった。
少なくとも学園でそれは出来ないだろうとサイトウは考えていた。
「……お前が残ってくれれば、私としてもありがたい。だが、お前はそれでいいのか?」
そのまま村長は立ち去るかと思われたが、もう一度だけサイトウに問いかける。
ピクリとも動かないサイトウに村長は更に言葉をかぶせる。
「お前はひいき目なしにこの村で最強だろう。いや、同年代でもお前ほどの実力を持つ者はいない」
サイトウは何も答えない。
その沈黙を村長は肯定だと受け取った。
「だが、お前の才能は粗削りだ。力任せ、暴力とも言える。今は強くとも、いずれお前は追い抜かれる。サイトウ、本気で最強になりたいなら学園に行け」
それだけ言い残すと村長はサイトウに背を向け、その場を後にした。
村長として村の利益より、サイトウの将来を思った厳しくも優しい言葉だった。
そんな言葉を聞いたサイトウはというと――
――zzz。
――寝ていた。
サイトウにとっては最初の問答で会話は終了していたのである。
それ以降の言葉は欠片も耳に入っていない。
やはりクソガキ。自分本位にしか物事を考えられないクズである。
そして、一年後、サイトウは学園に入学していた。
これには流石のサイトウも驚いた。
村長に「お前も今年で16になるし、そろそろ女の一人や二人欲しい頃だろう」と誘われほいほい付いて行ったのが運のつきだった。
睡眠薬を盛られたサイトウは村長の罠に嵌められ、そのまま学園に連行されたのである。
これにはサイトウも激怒するかと思われたが、意外とサイトウは怒っていなかった。
――来てしまったものは仕方ない。
寧ろ折角自然界の中心である聖都まで来たのだから、面倒な勉強はサボって適当に楽しもう。
どうせいつか退学食らって、辺境に帰れるだろう。
この男に村長の厚意をありがたく思う心など無かった。
寧ろ、遊んで退学される気満々である。
しかし、悲しいことにこの場に学園に通うことは旅行ではないとサイトウに突っ込める村長はいなかった。
かくして、サイトウの学園生活は幕を開けた。