コミカライズ1巻発売記念SS
5/1に『顔が見分けられない伯爵令嬢ですが、悪人公爵様に溺愛されています@COMIC①』が発売しました!
作画は樋木ゆいち先生です! とっても素敵に描いてくださっていますので、是非お手に乗ってくださると嬉しいです!
コミカライズには、私も一つ番外編を書かせていただきました! コミカライズ①でしか読めないものとなっていますので、何卒よろしくお願いします……!
↓新作の短編も投稿しましたので、良ければどうぞ〜♡
これはまだ、サラとカリクスの思いが通じ合う前。
とある日の朝、サラがいつものようにカリクスの仕事の補佐をしていた時のことだった。
「ゴホッ……ゴホッ……」
「大丈夫ですか、カリクス様」
「ああ、問題な──ゴホッ」
嫁いできてからというもの、カリクスの不調を見たことがなかったサラは驚いた。国一番の剣の使い手であっても、やはり体調を崩すことはあるみたいだ。
「熱はありますか? 咳以外の症状は……」
「いや、ない……ゴホッ」
他の症状がないのは良いことだが、如何せん咳が辛そうだ。声も僅かに掠れていることから、喉の痛みもあるかもしれない。
「カリクス様、今日はお仕事はお休みにして、お部屋に戻りましょう? 私や皆で、できることはやっておきますから」
「…………」
カリクスは少し悩む素振りを見せたが、コクリと頷いて自室へと戻っていった。おそらくカリクス本人も、これは早めに休んで治さないとまずいと思ったのだろう。
カリクスは国の重要人物だ。いざという時に出陣するためにも、体調は万全にして置かなければならなかった。
「皆様、カリクス様の代わりに、私たちで頑張りましょう!」
「「「ハッ!」」」
カリクスの心配や負担を減らすためにも、サラは家臣たちとともに机に向かった。
◇◇◇
夜になり、サラはカリクスの部屋を訪れていた。
「失礼します」
手にはトレーを持ち、その上にはティーカップやティーポットなどのお茶の仕度に必要なものなど。そして、黄金色のものが中に入っている透明の瓶だ。
「カリクス様、体調はいかがですか?」
「ああ……。ゴホッ、昼間よりは多少マシになったよ。サラのおかげだ」
「いえ、私は何も……! けれど、少しでも体調が良くなっているのでしたら、良かったです」
ベッドの上で上半身を起き上がらせるカリクスのそばに近付いていく。
「ゴホッ……見舞いに来てくれたのか?」
「はい。それと、是非こちらを飲んでほしくて」
サラはベッドの近くにあるサイドテーブルで、持ってきた器具を使ってお茶を入れ始める。そして、ティーカップに注いだお茶の中に、透明の瓶の中に入っていた黄金色のとろりとした液体を入れ、くるくるとスプーンで混ぜた。
「今入れたのはなんだ?」
「蜂蜜ですわ。喉の痛みには蜂蜜がとても効果的ですから、お嫌いじゃなければ」
まだ両親やミナリーと家族の形を成していたころ、サラが風邪を引いて喉を痛めると、たまに母がはちみつ入りの紅茶を持ってきてくれた。
飲んだら直ぐに効果があるわけではなかったけれど、自分のために母が用意してくれたのだと思うと、これ以上なく嬉しかった。それは、幼い頃のサラの記憶に深く刻み込まれ、今でもはっきりと覚えていた。
「いただこう……ゴホッ」
「どうぞ。ゆっくり飲んでくださいね」
カリクスはティーカップを持ち、紅茶を口に含む。
そしてゴクリと飲み込めば、優しい甘みに頬を綻ばせた。
「美味いな。それに、確かに喉に良さそうだ」
「ふふ、良かったです……!」
「それに、サラが私のために作ってくれたんだと思うと、なおさら嬉しい。ありがとう」
「……っ」
カリクスの表情は分からないけれど、きっと穏やかに笑っているのだろう。
(このお方はいつも、私がほしい言葉をかけてくれる……)
何をしても、ありがとうなんて言われなかった実家での日々。
嫁いできてからは、そんな日常とは一変し、ありがとうという優しい言葉に包まれてばかりだ。
「カリクス様、私こそ、ありがとうございます」
「……ふ、どうして君が礼を言う?」
まるで、不思議な子だなぁと言わんばかりの声色のカリクスに、サラは薄っすらと目を細めて笑みを浮かべた。
こんな幸せな日々が続けば良いのに、と思わずにはいられなかった。




