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【コミック3巻07/01発売!】顔が見分けられない伯爵令嬢ですが、悪人公爵様に溺愛されています  作者: 櫻田りん@07/01【悪人公爵様コミック3巻】発売!
第三章

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93 サラ、仕留めにかかる

新連載を始めました。↓にリンクが貼ってありますので、是非よろしくお願いします!

 

 良いタイミングだわ、とサラはホッと一息つく。


 カツィルが登場するタイミングは読み切れていなかったサラは心底安堵した。

 これ以上遅ければラントは大勢の前で嘘をつかなけれればならなかったからだ。

 そうすれば嘘をついたことで後にラントまで処罰されるかもしれない。それだけは避けたかった。


「カツィル、助かったわ。ありがとう」

「お役に立てて何よりです……!! あ、そういえばさっき一際派手な服の男性が……って、それは関係ないですよね!! セミナのところに行っていますね!」

「……? ええ」


(派手な服……? 誰かしら……まあ置いておきましょう)


 今はそんなことよりもラントとその家族の方が重要だと、サラは視線をカツィルからラントへ移す。

 突然現れた両親に驚いてはいたものの、今は抱き合っているところを見ると喜びが勝っているらしい。いや、安堵というほうが正しいだろうか。


 サラはラント達の近くまで歩いていく。ドレスがふわりと揺れた。


「ラントのご両親ですね。はじめまして。私はサラ・マグダットと申します。カツィルの主ですわ」

「あっ、貴方様が私たちを助けてくれたサラ様ですか!! カツィルちゃんにも大変お世話になって……何てお礼を言ったら良いか……!!」

「お礼は必要ありませんわ。むしろ──」


 サラは振り返ると、アンジェラを一瞬見てから王妃へと視線を移す。氷のような冷たいその眼差しに、王妃は肩をビクつかせた。


「王族とて超えてはならない一線があります。それを破った()()()()()()()謝罪させてください。ラントを危険な目にあわせてしまい申し訳ございませんでした」

「あっ、頭を上げてくださいな!! 貴方様は私たちの恩人で、ラントの恩人でもあるんですよ!!」


 ラントの両親に優しい言葉を掛けられ、頭を下げていたサラはゆっくりと姿勢を戻してラントへと視線を移す。


 一連の過程を見ていて状況を理解出来たものは少ない。それは当事者のラントでさえ当てはまり、そもそもどうしてここに両親がいるのか、何故両親がサラにお礼を言っているのか皆目検討がつかなかった。


「え……? どういう……?」とぽつりと疑問を呟いたラントに、サラは申し訳無さそうに語り始める。


「ごめんねラント。私実は最初から気が付いていたの。貴方が王妃陛下と繋がっているって」

「…………最初、から……」

「途中からは……ご両親をたてに脅されて、暴力まで受けていることも知っていたわ」


 そこからサラは記憶を辿りながら丁寧に話を始めた。

 カツィルにラントの両親が無事かどうかを直接見てきてほしいと頼んだこと。もし何か危害が加えられているようならすぐに報告に戻ってくること。

 王妃の脅すという言葉が口だけで何の危害も加えられていない場合は、状況の説明をして両親を王宮へ連れてくること。


「それで昨日、カツィルは貴方のご両親を無事王宮へ連れてきてくれた。実は一部屋用意してさっきまで匿っていたの。それならば王妃陛下も簡単には手出し出来ない。そもそもこの王宮に居ることを知らないしね。そのことを今の今までラント、貴方に伝えなかったのには一つ理由があるわ」

「理由……でしゅ、ですか……?」


 サラは申し訳無さそうに一瞬顔を伏せる。長いまつ毛が影を落とした。


「王妃陛下に確実に言わせなければならなかったの。明らかにラントを脅していると思われる台詞を、この場で」



 ──お前の大切なものがどうなるか!!!


 そう、王妃はこう言ってラントに証言を求めた。大勢の前で、ローガンの前で。

 そうでなければ上手く言い逃れされて、またラントが利用されるかもしれなかったから。もっと酷い目に合うかもしれなかったから。だから。


「ラント、ごめんね。もっと早く助けてあげられたけれど、私には……。今の私には王妃陛下の罪を確実に処罰するためにこの方法しか思いつかなかったの。ごめんね……痛かったし……苦しかったわよね……っ」

「っ、サラ……さま……」


 ぶんぶんと頭が取れてしまいそうなほどの勢いで頭を横に振るラント。

 先のことまで考えてのサラの行動に、文句なんて出るはずがなかった。


 それどころかラントは感謝していたのだ。ラントはしっかりと、サラのとあるメッセージに気が付いていたのだ。


 それはラントがサラに毒を盛るよう王妃に指示をされたときのこと。

 サラが独り言だと言って呟いた言葉を、ラントは今でもはっきりと覚えている。


 貴族に手を掛けた平民は家族もろとも罪に問われることがあると言ったのは、王妃の指示に従っても家族が巻き込まれることを伝えるため。


 顔が見分けられないことを話し、いつもならば()()()というサラには珍しく()()()()()という言葉を使ったのは、この話を王妃にすることで毒を盛る事を失敗したことの許しを請いに()()()()()という優しさだった。


「サラ様……ありがとう、ございしゅ……っ!!! 家族が無事なら僕は……っ、僕はもう貴方を裏切りたくありません……!!」

「ラント……」

「だっ、黙りなさいよおおお!! ラントおおお!!」

「黙るのはお前だ王妃…………!!」


 ダンッ、と力強く立ち上がったローガンは、足をずずず……と引き摺りながら王妃の目の前に行き向かい合うようにして立った。

 流石はカリクスの父親というだけあって凄んだ顔は恐ろしく、王妃は膝の力が抜けたのかストンと座り込む。


「お前はしばらく黙っていなさい。許可なく話せばその場で罪人とする!!」

「……!?」


 そんなのは横暴よ、と言おうとして咄嗟に王妃は口を噤む。ローガンがこういうことを冗談で言う人間ではないことくらいは流石に知っていたからである。


 ローガンは振り向いてサラたちを見下ろすと、皆に聞こえるように大きな声を上げる。


「ラントだったな! お前が王妃(これ)に従わされていたときの罪は全て不問にする!! その代わりに何を指示されたか全て申せ!!」

「はっ、はひ……!! 細かい部分は後で書面に書きしゅ、す!! い、一番酷かったのはサラ様に毒を盛るよう強要されたことです……!!!」


「は……?」


 すっと立ち上がり、目を大きく見開いたカリクス。


 今まで焦った表情を見せなかったサラは、その時初めて額に汗をかいた。


(そうだわ……毒の件はセミナたちはもちろん、カリクス様にも伝えていなかったのよね……心配させてしまうと思って……やっぱりまずい、わよね……)


 サラは今カリクスがどんな顔をしているか分からなかったが、ズキズキと肌に突き刺さる上段からの視線に嫌でも理解した。


(絶対に怒られるわ……仕方ないけれど…………覚悟だけはしておきましょう…………)


 サラはなるようにしかならないと半分諦めて、意識をカリクスからラントへと戻す。


 扇子の向こう側で怒り狂う王妃のことなど怖くない! というように、ラントは燕尾服のジャケットの内ポケットから小さな包みを取り出したのだった。


「これがその毒です……! 王妃陛下の部屋の奥の棚にありみゃ、ました! おそらくまだ複数所持しています! 調べてください!!」

「……お前たち今から王妃の部屋に行き調べろ! ラントには王妃に受けた傷の治療を!! 彼の両親も共に案内してやれ!!」

「はっ!」



 ローガンが近くの騎士にそう指示し、王の間からはたちまちラントたちの姿が無くなる。


 しかし渦中の人物、王妃はその場に留まることをローガンに指示されていた。

 側近の何人かは即刻王妃をサラ殺人の罪で拘束したほうがと意見をしたが、ローガンは頑なにそれを拒む。


 その姿に王妃は、まさか私のことを処罰するのを躊躇っているのかしら? と都合良く考えたが、実際はそうではなかった。


「フィリップではなくカリクスが王位を受け継ぐその瞬間を見ることが王妃(これ)には一番堪える。だから罰の一つとしてここに座らせておく。王妃としての最後の仕事だ。正式な処分は追って沙汰を出す」

「……ひ、酷いわ……っ!!! フィリップがぁ!! この子は王になるために産まれてきたのに……!!」

「マ、マンマぁ……っ!!」


 どうせ罪人になるのだからと声を上げた王妃は形振り構わずボロボロと泣き出した。ことフィリップに関してだけは、王妃は人間らしかった。


フィリップは用意された席に座ったまま、ガクリと項垂れたのだった。


 十数年共に過ごしてきたローガンはそんな王妃に少しくらいは可哀相だと思うだろうかと危惧していたが、そんな感情は全く湧かなかった。

フィリップに対しては育て方を間違ったと後悔の念が絶えないが。


 まだ終わってはいないものの、これで少しくらいはセレーナに顔向けできるだろうかと、ローガンは頭の片隅で愛した女性を惜しんでいた。



これで王位継承権代理争いも終結かと皆が思った、そんなとき。


「お、お待ちくだされ!!」


沈黙を守っていた枢機卿(すうききょう)は意を決して声を上げる。

王妃が使い物にならなくなった今、アンジェラの頼みの綱は彼だけなので縋るような目を向けた。


「勝手に話が進んでおりますが、王位継承権代理争いの全ての権限は私にあります! こうも場が乱れては私とて冷静な判断は難しい!! 今日のところは一旦──」


──ギギギ……バタン!!!



「待て」

「…………!」


聞き覚えのある声に、サラは目を見開いた。


重たい扉を勢い良く開けた青年は胸元に紫の薔薇の紋章をつけ、堂々した面持ちで王の間に足を踏み入れる。


 もう二度と間違えることのないように、声はもちろん、背格好や歩き方を記憶していたサラは、瞬時にその人物が誰だか察することが出来たのだった。



「貴方様が……どうしてここに──」


「私の名前はダグラム・キシュタリア──キシュタリア王国の第三王子である。サラ、久しいな。借りを返しに来た」

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