90 サラ、王位継承権代理争いが始まる
皆様、本日【顔が見分けられない伯爵令嬢】の書籍第一巻が発売となりました(*´ω`*)
この日を迎えられたのは皆様のおかげでもあります。本当に感謝してもしてもしても足りません……!
↓に美しい書影を貼ってありますので、是非ご覧ください!書籍では甘々な描き下ろしも書かせていただきましたので、ぜひ皆様に楽しんでいただきたいです!
最後に、サラちゃんのウエディングドレス姿をイラストで見たいので皆様買ってください!(直球)
王位継承権代理争い当日は、雲一つない快晴だった。
サラはいつもよりしっかりとメイクをしてもらうと、髪の毛を編み込むようにしてスッキリと後ろで纏めた。
落ち着いたアイスブルー色のドレスに身を包み、いつもより大人っぽい仕上がりにサラは大満足だ。
「セミナ、カツィル、ありがとう」
「いえ。ついにこの日が参りましたね」
「……ええ。セミナはよく寝れた?」
「は──」
「私はセミナの寝言で寝られませんでした!!!」
「カツィル覚悟なさい」
「ヒィ……っ!!!」
憤怒したセミナがカツィルのおでこをグリグリとげんこつで押し続ける。
「痛い痛い!!」と声を上げるカツィルは少し涙目だ。
サラはそんな二人を見ていると今日が王位継承権代理争い当日だということを忘れそうになる。
「ふふ、二人がいると和むわね……」
ぽつりとそう呟いたサラ。緊張が少しずつ薄れていくのが自分でも分かる。
サラは幾度となくこの二人に助けられていた。もちろんキシュタリアにいる皆にもだ。
ちらりと時計を見ればそろそろ代理争いが始まる時間なので、サラはゆっくりと立ち上がった。
「さて、セミナ行きましょうか。カツィルは手筈通り頼むわね」
「かしこまりました!! サラ様、ご健闘をお祈り申し上げます」
カツィルがそう言って深く頭を下げる。
サラは改めて覚悟を胸に、王の間へと歩き出す。
ゆっくりと踏み締めるように歩くサラの後方にセミナが続き、そしてカツィルは反対方向へと歩いていった。
王の間に着くと、騎士が重たい扉を開いてから大きな声でサラの名前を呼び上げる。
サラの登場にわっと歓声が湧く中、サラは堂々とした面持ちで足を踏み入れた。
大臣や家臣たち、執事やメイドの一部が王の間の下座で待機する場所にセミナは歩いていくと、サラは一人で王の間の中央へと進む。
事前に伝えられた指定の場所で足を止めると、すっと前を見据えたサラ。
(陛下に王妃陛下、フィリップ殿下……それに、カリクス様)
王の間の奥の上段にあった二つの席は、今日は四つに増やされている。
カリクスとフィリップは今日、オルレアン王国の現王子としてこの王位継承権代理争いを見守るのである。
いつも隣りにいてくれたカリクスが王族が座る席に鎮座している姿を見たのはこれが初めてだったサラは、ドキドキと胸が高鳴る。
(カリクス様……なんて神々しいの……)
まるでカリクスの周りだけ纏う空気が違うようだ。まさに王の器に相応しい。
(カリクス様を絶対に王にしてみせる)
ファンデット伯爵家にいた頃は、自身が何かを望むことが悪だとさえ思っていた。伯爵邸の中の小さな世界で、一生飼い殺しにされるのだと本気で思っていた。
そんなサラを救い出してくれたのはカリクスだった。いつもサラを肯定し、凄いと褒めてくれて、ありがとうと言ってくれた。
虐げられる生活が当たり前ではないことも、愛し愛される喜びも、カリクスが教えてくれたのだ。
(お慕いしております………私は貴方の隣に立ちたい)
真っ直ぐ前を見据えるサラは一瞬だけちらりとカリクスを見やる。
表情なんて分かるはずがないのに、どうしてかカリクスがふ、と優しく笑った気がした。
続け様に歓声が湧きアンジェラの名前が呼ばれる。
自身の隣に立つアンジェラにサラは軽く会釈をすると、そっと視線を前に戻した。
ローガンは立ち上がり周りを見渡すと、肺に空気を溜める。
「では今から王位継承権代理争いの幕開けとする!!」
「うおおおお!!」と歓声が湧く。国の行く末が決まるこの争いに、皆が興奮していた。
そんな中で、端に控えていた枢機卿がサラとアンジェラの前に歩いてくる。
後ろに控えるのは枢機卿の護衛を兼ねた修道士だろうか。彼は一辺20センチくらいの正方形の箱を両手に抱えていた。木で作られたもので側面は見えず、上部だけ片手が入りそうなくらいのくり抜きがしてある。
一体何に使うのか、サラには分からなかった。
「まず最初に、王位継承権代理争いを無事迎えられたこと、嬉しく思います。雲一つない晴天はまるで未来の陛下と王妃陛下に──と、前置きはこれくらいにしましょうか」
長くなりそうな話を自身で区切った枢機卿は、ゴホンと咳払いすると再び口を開いた。
「以前、王位継承権代理争いについて説明をしたとき、幸運な女性が選ばれるとお伝えしたことを覚えておられますかな? これは私の持論ですが……殿下たちの婚約者になられたお二方はどちらも優秀な人物に違いありません。そこで能力を比べあっても無意味なのではないか、という結論に辿り着いたのです。つまり試すべきは両者の運。神に選ばれし幸運な人物がこの戦いに勝利する。……素晴らしいではありませんか!」
聖職者が神の名を使い『運』を語る。如何にもそれらしく話してはいるが、国の大事な未来を決める争いに運を持ち出すのはいかがなものなのか。
サラは内心そう思ったものの、国王のローガンが声を上げないので口を噤んだ。
この王位継承権代理争いの全てが枢機卿に一任されているのだ。そこにどんな事情が隠されていようと諦めるしかなかった。
「ではどうやって運を試すのか。よくお聞きくだされ」
枢機卿が修道士に一瞥をくれると、箱を持った修道士は少し前に出る。
片膝をついてしゃがみ込むと、サラとアンジェラが見えやすいように箱をずいと前に差し出した。
「上に穴が空いていますがそこから中身が少し見えますかな。小さく折りたたんだ紙が二枚入っております。一つ中身を確認してみましょう」
スッと箱の中に手を入れる枢機卿。わざとらしく箱の中でガサガサと音をさせると、一枚紙を取りさっと開く。
その紙を王の間全員に見えるように掲げた。
「これにはサラ・マグダット、と書いてあります。このようにアンジェラ様とサラ様の名前が書かれた紙が一枚ずつ、この箱には入っているのです。これが運。つまり、これが本番だった場合は、サラ様が幸運の持ち主だったということですな」
「──待て。いくらなんでもそれだけで決めるのはどうかと思うが。周りが納得しないぞ」
我慢ならず声を上げたのはローガンだった。運も大事なことといえど流石に……と思ってるものも多かったので、枢機卿の返答に一同が耳を傾けた。
「陛下のご意見はごもっともです。流石にこれだけで決めるわけではありません」
「と、言うと?」
「今回で行くと、選ばれたサラ様がアンジェラ様に問題を出す権利が与えられるのです」
(問題……? どういうこと……?)
イマイチ理解できないのはサラだけではなかった。家臣たちがざわざわと話しだしたのでローガンが制すると、枢機卿がおもむろに口を開いた。
「例えばサラ様が『オルレアンの国花は何でしょう?』という問題を出したとしましょう。正解を答えることが出来ればアンジェラ様の勝利。分からない、もしくは間違えた場合はサラ様の勝利となります。このとき出題する問題は自由に決めてもらって問題ありません。運によって出題者の役目を得られた方はそれだけ有利に進められる、というわけですな」
運によって有利不利はあるものの、勝敗の有無は運だけではないという。
ローガンは一応納得したようで口を閉ざし、同時に王妃はニヤリとほくそ笑む。
「質問がないようでしたら早速始めましょう。どうか、お二人方に幸運があらんことを」
サラの名前が書かれた紙を戻し箱の中に手を入れる枢機卿の姿に、アンジェラは周りに気付かれないように下を向いて笑いを堪えていた。
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