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【コミック3巻07/01発売!】顔が見分けられない伯爵令嬢ですが、悪人公爵様に溺愛されています  作者: 櫻田りん@07/01【悪人公爵様コミック3巻】発売!
第二章

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66 サラ、思わぬ事態に驚きを隠せない

陞爵とは爵位を上げることです。

 

 カリクスの確認するような声がけに、サラは早速自身の発言に後悔した。

 これでもカリクスの性格をそれなりに分かっているつもりなので、このあと何を言われるかおおよその想像がついてしまったのである。


「それなら、サラからキスしてくれ」 

「〜〜っ!!」


 カリクスはサラを腕の中から開放すると、華奢な肩に手を置いた。

 ニッ、と口角を上げるカリクス。サラはカリクスを見上げ「だめです……」とポツリと呟く。


「何でもすると言ったのに?」 

「それだけはだめです……! 他のことなら、何でもしますから……っ」 


 目を潤ませて必死に請うサラ。加虐心を駆り立てられる表情に、カリクスの脳内には多くの意地悪(してほしいこと)が思い浮かぶのだが、おそらくキスでこれなら全て無理なのだろう。

 あまり虐めすぎて嫌われては元も子もないため、カリクスはそれならと前置きをする。


 カリクスの纏う空気が変わったことに、サラは本能的に気が付いた。


「私がどんな答えを出そうと、君だけは私の味方でいてほしい」

「…………!」

「それだけで私は、何でもできそうな気がする」


 優しさと不安を孕む声色で、カリクスはサラの頬を優しく撫でる。


 そこでサラは改めて、カリクスの胸の内を痛感する。普段と何も変わらないように見えても、不安で堪らないのだと。

 呼びに来るまで部屋から出てこられないくらい、実際は一人で抱え込んでいたのかもしれない。


 スッと、サラはカリクスを真似するように彼の頬を撫でて、親指が柔らかな唇に触れる。


「サラ────」


 頭一つ分は高いためにすんなりとはいかなかったけれど、サラは必死につま先立ちをしてうんと背伸びをすると、そっとカリクスと唇を重ねた。

 時間にして一秒にも満たないような一瞬だったけれど、その事実にカリクスの顔はぶわりと赤くなる。


 想定外の事態に、カリクスは片手で自身の口元を覆った。

 このときばかりは、サラが表情を分からなくて良かったと思うくらいに、情けない顔をしていたから。


「これが……私の答えですわ。いつ何時(なんどき)何が起ころうとも、私はカリクス様の味方です」


 大きな目を潤ませ、頬は上気していて唇がしっとりと湿っているその様は、誘惑しているのかと取られてもおかしくないくらいに艶めかしい。

 サラにそんなつもりは全くないので質が悪いのだが。


「君は……実は本当に悪女なのかもしれないな」

「え…………?」 

「いや、何でもない。そろそろ時間だ、行こう」


 差し出された手をゆっくりと掴み、二人は応接室へと歩き出した。



 昨日忠告した通り、ローガンは屋敷の裏口から入るとヴァッシュの案内で既に応接室へと通されていた。

 昨日よりやや明るい表情ではあるが、目が若干腫れている。理由は分かりきっていたので、カリクスはそれを指摘することはなかった。


 サラは美しいカーテシーを行い挨拶を済ませると、カリクスの隣に座る。

 二人がけのソファの真ん中に座るローガンは、二人が腰を下ろしたと同時に居住まいを正した。


「……それでだ。悪いが私には時間がない。昨日の返答、聞かせてくれないか」


 前置きなんて一つもなく、貴族らしい社交辞令はもちろん存在しなかった。

 サラはゴクリと固唾を呑んで二人の動向を見守ると、カリクスがゆっくりと口を開いた。


「その前にまず一点、聞きたいことが」

「何だ? 何でも聞いてくれ」

「もし私がオルレアン王国に行ったとして、アーデナー領地のことはどうするつもりです? 爵位を継ぐものがいない点はもちろんのこと、民に不安や負担はかけたくないのですが」


 腕を組んでいるカリクスは、まるで試すような瞳で尋ねる。


 カリクスはどうしたら良いのだろう、という意見を貰いたいという意図で聞いたわけではなかった。

 いくら事情があるとはいえオルレアン王国の民のことだけを考えていないか、カリクスが居なくなったときのアーデナー領地についてもきちんと考えているのかを聞きたかったのである。


「それに関しては」とローガンは間髪入れずにすらすらと答え始めた。


「一旦領地は王家に預けるのが妥当だろう。何か問題を起こしての取り潰しではないから、貴族に明け渡す選定をするのはカリクス、という条件を付ける。キシュタリア国王は以前お前のことを優秀で敵に回したくないと言っていたから、おそらくこの交渉は通る。あとはその貴族だが、あてがないなら私が探そう。公爵以下の爵位の者で候補がいるのであれば陞爵しょうしゃくの申請を行う。爵位を上げるのは普通、国王自らが自身の意志で行うことだが、現時点でこれを望むのは現実的ではない。……公爵の地位を維持するのは安定した領地経営のために大切なことだ。爵位が変われば今まで友好的だった貴族たちが掌を返す恐れがある。懸念は消しておいたほうが良い。まあ、陞爵しょうしゃくに関しては確実に叶うとは言えないが……」

「………………なるほど」


 ある程度納得だといった表情のカリクス。

 隣のサラも昨日同じようなことを考えていたので、異論はなかった。


 一点不安があるとすれば、やはり陞爵しょうしゃくだろう。

 侯爵や伯爵ならばいざしれず、公爵は王家の次に権力を有する貴族。基本的には王家と関わりが深いか、かなりの功績を上げたものだけが与えられ──。


「あ!! カリクス様……! 陞爵しょうしゃくについてでしたら、その……! 実は……ですね……」

「ん?」


 カリクスがアーデナー領地を明け渡すとしたら一人しかいない。なんだかんだカリクスはその人を信頼しているし、多大な功績を残しているから陞爵しょうしゃくの可能性もある。

 ──そして何よりも。


 サラはカリクスの耳元にそっと顔を寄せ、ローガンには見えないように口元は掌で隠してこしょこしょと話す。伝えて良いのか迷ったが、言ったほうがカリクスも協力してくれてお互いに得なのではという算段があった。


「……! それは本当か」

「はい……っ! ですから爵位の件ももちろんですが、カリクス様がこなしていたとてつもなく大量の実務も()()()が居てくれるのであれば話は変わってきますわ……! とても優秀なお方ですもの! そ、それもお二人が上手くいけばの話しなのですが……」


 やや眉尻を下げた笑顔を見せたサラは、ハッとしてローガンに頭を下げる。目の前で内緒話をされるだなんていい気分はしないだろう。

 しかし流石にキシュタリアの根幹に関わることをオルレアンの国王に聞かれるのはまずい。


 謝罪を快く受け入れてくれたローガンに、サラはほっと胸をなでおろした。


「とりあえずアーデナー領地のことはなんとかなりそうだ。君のおかげだな」

「えっ!? 私は何もしていませんわ!?」

「元を辿ればサラのおかげだ。ありがとう」

「身に余りますわ……」


 ローガンはサラたちの考えは分からなかったが、話の流れが良い方向に進んでいることに安堵する。


「もう聞くことはないのか?」とローガンが尋ねると、カリクスは再び口を開いた。


「そもそもですが、いくら私が第一王子だとしてもすんなり王位につけるとは思えないのですが。血筋や立場は置いておくとして、幼少期しかオルレアンにいませんし、民は私の存在を知らないのでは?」

「そのとおりだ……私がお前を次期の王にと推して、ようやく王位継承権争いに挑めるといったところだ。これだけ言っておいて何だが、カリクス──お前にはフィリップから王位を奪ってもらわなければならない」


 ローガンの返答は想定内だったのだろう。カリクスは驚くことなく小さく息を吐き出した。


「それで、因みにその王位継承権争いとは何をするんです?」

「それが私と私の父は経験していないのだが……オルレアンでは王位につく可能性が複数人いるときに、とあることをするみたいでな」


 学力を争うのか、剣で斬りあうのか、はたまた国民投票でもするのか。カリクスはいくつか想定しながら、ローガンを見る。


 しかしローガンから出たのは、予想だにしない返答だった。


「直接争うのはカリクスとフィリップではない。お互いの婚約者同士が様々なことで優劣をつけ合い、争う──王位継承権()()争いなんだ」

「つ、つまり私ですか…………っ!?」



 ◆◆◆



 同時刻──オルレアン王国の王宮内にて。


「ねぇアンジェラさん。そろそろ主人(あの人)がキシュタリアから帰ってくるけれど、馬車事故で……なんてことはないのかしら?」

「流石にそれはいけませんわぁお義母様。派手にやりすぎると疑われてしまいますぅ。フィリップ様には確実に玉座についていただきませんとぉ」


 仰々しい話をするのはローガンの正妻であり、カリクスの義弟のフィリップ──その母に当たる人物。


 もうひとりはフィリップの婚約者のアンジェラだ。

 アメジストのような色の巻き髪をぐりんっと(なび)かせながら、アンジェラはくつくつと笑ってみせる。

そんなアンジェラの厭らしい笑みに、フィリップはほっと胸をなでおろして笑みをこぼした。


「けれどそれも時間の問題ですわぁ? 年明けの戴冠式には玉座はフィリップ様のものぉ。このアンジェラ・エーデルガントが言うのですから間違いありませぇん」

「それもそうだよね。今やお父様(パパ)と同じくらいエーデルガントも力を持っているんだ! ねっ、お母様(ママ)!」

「ええ、フィリップ。貴方は王となるために産まれてきた子なの。私とアンジェラさんに任せておけば大丈夫よ」


 二人がけのソファにくっついて座る親子──フィリップとその母親を見るアンジェラの瞳は氷のように冷たい。どころか蔑んでいるといったほうが良い。


 気持ち悪いと思うだけにとどめている私って偉いわぁ、と思っているくらいである。


 しかしこれでも王子とその母である王妃。アンジェラは笑みを浮かべたまま、二人にそっと近付く。


「お任せくださぁい。何があってもフィリップ様を王にぃ、お義母様を王太后にしてみせますわぁ」


 ──そして私が、王妃に、この国で一番偉い女性になるのよぉ。


 アンジェラはその思いを胸に、不敵な笑みを扇子で隠した。




 〜第二章 完〜

読了ありがとうございました。

少しでも面白い、続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価【★★★★★】でぜひ応援お願いします。感想もお待ちしております。執筆の励みになります……!

これにて第二章完結いたしました! 皆様のおかげでここまで来ることが出来ました。ありがとうございます。

第三章では『王位継承権代理争い』が行われます。今日の夜に3章の更新も始めますので、ブクマはそのままで!! 3章も気になる〜という方は評価や感想もいただけると大変力になります。

精神的に強くなり周りに頼ることも知り、おそらく小説内で一番のザマァが待ち受けている第三章、どうぞお楽しみに!

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