47 サラ、メシュリーに誘われる
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国王の妻は王妃陛下といたします。こちらに関しては誤字報告は大丈夫ですので、よろしくお願いいたします。
それからは早かった。
ダグラムは騎士に連れられて会場から居なくなると、国王が「ダグラムが言ったことは全てデタラメである」と宣言したためカリクスの疑惑は晴れた。
しかし王族としてカリクス並びにサラにきちんと謝罪がしたいということで、二人は国王と王妃の後に続き会場奥のサロンへと足を踏み入れる。普段そこは王族しか使用することが許されていない特別な場所だ。
「さて。──とりあえず座ってくれ」
国王に促され、サラとカリクスはソファに腰を下ろす。決して大きな部屋ではないが装飾の凝った部屋だということはひと目で分かった。
コホン、と咳払いをしてから話しだしたのは国王だった。
「まずは先程の愚息の件、本当に申し訳なかった」
「!?」
座ったままではあるが、深く頭を下げる国王。それに続いて王妃も頭を垂れている。
(国で一番の権力を持つ陛下と王妃陛下が……いくらカリクス様が公爵とはいえ頭を下げるなんて……)
サラは王族教育を受けたことは無いが、簡単に頭を下げてはならないという教えがあるというのを聞いたことがあったので、キシュタリアにとってのカリクスの重要さを改めて思い知る。敵に回してはいけない、敬意を払うべき相手だと認識されているということだからだ。
「アーデナー卿は知っていると思うが……ダグラムはなかなか破天荒でな……何かをやらかす前に止めておくべきだった。君ならどうにかしてくれるだろうという甘えが招いたこと。私の責任だ、済まない」
「私からも同意見です。本当に申し訳ないことをしました」
「──お二人の謝罪、しかと受け取りました。正直かなり頭にきましたが……ここはお二人に免じて殿下に対しての対応などは全てお任せします。……が、サラの家族の件については二度と公の場で口にしないよう殿下に伝えておいてください。──二度はありませんよ。ああ、それと、今後は我が屋敷に個人的な手紙は送らないように、とも」
「手紙? ああ、承知した」
国王相手に臆することなく対応するカリクス。踏んできた場数が違うとはいえ、サラは緊張で口内がカラカラになっているというのに。
カリクスが許容したことをきっかけに、やや空気が軽くなったサロン。次に口を開いたのは王妃だった。
「サラ様もごめんなさいね。あの子ったら昔から貴方のことが好きなものだからアーデナー卿と婚約したことで大分と拗らせてるのよ……」
「えっ……!?」
(今、何て……? 聞き間違えかしら? 勘違いかしら?)
サラは瞬時に自身の中で納得できる答えが出たので、それを言葉にする。
「恐れながら、それは王妃陛下の勘違いですわ。私は殿下に大層嫌われておりますので。……恥ずかしい話ですが、昔殿下のお名前を間違えたことがあり、それからずっと私のことは嫌っておられるのだと思います」
それはもう揺らぎのない目だった。好かれているだなんて微塵にも思わないサラの言葉に、王妃はぽかんと口を開ける。
カリクスとしては想定内の答えだったので、サラの隣でふ、と笑うだけだ。内心ダグラムにザマァみろとさえ思っていた。
「とにかく、この件はもう結構。他に話がないのならば失礼したいのですが」
カリクスがそう言うので国王は席を立とうとするのだが、それを制したのは隣に座る王妃だった。
夫を無理矢理もう一度座らせてから、目の前に座るサラの手をギュッと両手で掴んだ。
「言うのを忘れるところだったわ!!」
「は、はい……!」
「この前は王都で助けてくれてどうもありがとう!!」
「え!?」
驚いたサラだったが、これで先程の挨拶のときの王妃の反応の意味がわかった。以前王都に出掛けたとき、サラが助けたのはお忍びで買い物をしていた王妃だったのである。
「あ、あの……ご無事で何よりです……!」
「お礼も言わずに去ってごめんなさいね? 騒ぎが大きくなったときに私の顔がバレたらまずかったものだから……」
「はい。理解しております……!」
無茶をして使用人から怒られたサラだったが、まさかその相手が王妃だったことにカリクスは何だか笑えてくる。
公爵と子爵では格差のせいでなにか言ってくる輩も居るだろうが、王妃のお墨付きの女性ともなればその声は上がらないだろう。少しでもサラが嫌な思いをすることは潰しておきたいカリクスは、この状況を素直に喜んだ。
「それでね、お礼をしたいから今度──」
──コンコン。
「メシュリーです。失礼致します」
娘の登場に、王妃は意識をそちらに向ける。
護衛から離れ、美しい所作でサロンに入ってきたメシュリーは、首元や手首を完全に覆うような珍しい真っ赤な夜会ドレスを着用している。以前のお茶会の姿に既視感を覚えたサラだったが、口に出すことはなく歩いてくるメシュリーを目で追った。
「参列者たちの大方は落ち着きました。あらぬ誤解も広がっていませんし、寧ろアーデナー卿たちの評判は鰻登りですわ。ダグラムは落ちるほどの評判もありませんから大した問題にはなりません」
「そうか……。いつも済まないなメシュリー」
ざわついた貴族たちへの対応を任されたのは王子たちではなくメシュリーだった。男であれば間違いなく王位を継承していたのはメシュリーだろうと言われるくらい、彼女は優秀で、そしてメシュリー自身もそれを自覚している。
国王と王妃が彼女に対して結婚しろとあまり強く言えないのはメシュリーの事情を知っていることと、彼女の優秀さ故だった。
「報告ご苦労。お前はもう戻りなさい」
「……陛下、一つお願いがあるのですが宜しいですか?」
「うん? どうした」
「私、以前お茶会でサラ様とあまりお話できませんでしたの。せっかくだから彼女とふたりきりで話がしたいのですけれど」
ちらりとサラを見るメシュリーの瞳には思惑の色が見える。
カリクスは何かを感じ取ったのか席を立つと、サラの腕を引いて立たせた。
「申し訳ありませんが私たちは──」
「アーデナー卿、私は貴方ではなくサラ様と話したいのですが」
間髪入れず要求を口にするメシュリーに、サラはたじろいだ。
メシュリーは以前、カリクスと幼馴染だと言っていた。カリクスを呼び捨てにし、気軽に話す仲だということをサラは知っている。
だというのに、メシュリーが話したいといったのはカリクスではなくその婚約者であるサラだ。
同じ女性だから、なんて安易な理由では無いことだけは確かだった。
「お父様、私は第1王女としてではなく、娘としてお願いしているのです」
つまり話す内容は完全なプライベートであることをやんわりと伝えるメシュリー。
この場にその意図を読めないものはいないので、後は当人同士の問題なのだが。
「私は構わないが……サラ嬢はどうだい?」
「あ、私は…………」
そう簡単に二つ返事で受け入れるとはいかないが、正直サラは心揺れていた。
おそらくメシュリーがサラに対してプライベートな話をするなんて、内容は一つしか考えられなかったからだ。
「私も……お話したいですわ。殿下、お誘いありがとうございます」
「サラ、待て」
カリクスは掴んだサラの手をぐいと引っ張り向き合う。
「無理はしなくて良い」
「無理なんてしていませんわカリクス様。殿下と二人で話せるなんてそうそうない機会ですもの。有り難いことですわ」
「サラ…………」
気丈に振る舞うサラに、カリクスはぐっと口をつぐむ。
メシュリーの考えが読めない以上サラを送り出すのはどうかと思ったが、本人がここまで言うのだから引き止めることは出来ない。
この相手がダグラムならば話は別だが、相手はメシュリーだ。余程のことがない限り変なことにはならないだろうという算段もカリクスにはあった。
「では私専用の部屋で話してまいります。終わりましたら会場までサラ様には護衛をつけますのでご安心を」
「陛下、王妃陛下、失礼致します。カリクス様、行ってまいりますね」
「…………ああ」
──パタン。
閉まりきった扉を、カリクスは未だ見つめている。
メシュリーがサラに対して何の話をするのか分からなかったが、それがサラの心を傷付けるようなものでなければ良いと願いながら。
しかしカリクスの意識は国王が話し始めたことによって、愛しい婚約者から過去の自分へと移ることになる。
「……良い機会だ。そなたには……話しておかなければならないことがある──」
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