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4 セミナ、サラ様はお綺麗です

ブクマ、評価、いいね等ありがとうございます。

 

 覚悟、なんてセミナが言うので何をされるのかと身構えたサラだったが、蓋を開けてみれば湯浴みだった。


 しかし、サラが今まで経験してきた湯浴みとは全く別物だったという。


「物凄く白いですわね、羨ましいですわ〜」

「や、やめ……!」

「この腰見てくださいな! とっても細くてドレスの着せがいがありますわね!」

「ひゃぁ……っ」

「サラ様、我が屋敷の最高峰のもてなし、いかがですか?」

「もっ、もう勘弁です……!!」


 セミナがフィンガースナップをすると、すぐさま現れた二人のメイド。

 この日をずっと心待ちにしていたとワクワクした様子だったことは、サラにも簡単に分かった。


 それからあれよあれよと裸にされ、浴槽に浸からされ、四肢だけでなく誰にも触らせたこともない部分(脇とかお腹とか)まで隅々まで磨き上げられる。

 優しい手付きに、石鹸の良い香り、浴槽には花が浮かべられていて視覚からも癒やされるのだが、如何せんサラはこんな扱いを受けていなかったので慣れない。

 湯船に浸かっているだけなので楽なはずなのだが、羞恥心により精神がどっと疲れたのだった。


「ハアッ……もう、終わり、よね?」

「今から頭皮とお顔のマッサージもしてまいりますわ」

「それなら自分で」

「何をおっしゃいます! 私達はこの日のために腕を磨いてきたのですよ!? サラ様はゆっくりと寛いでくださいませ」


 湯浴み担当のメイドの一人にそう言われ、もう一人にも激しく同意の頷きをされれば、サラは諦めるしかなかった。


 サラにとって湯浴みとは、家族が入ったあと、冷めきった水を浴び、自身で行うものだった。

 もちろん石鹸は高級品だからと使わせて貰えなかったし、温かいお湯で身体を流せることなんて年に一度有るか無いか。


(こんなお姫様みたいな扱いされるの慣れないわ……ミナリーならきっと当たり前に受け入れられるのだろうけど……)


 実の妹、ミナリーの湯浴みを手伝う側だったサラは、そう思いを馳せた。



 一方、湯あみ担当のメイドたちの手伝いをしながら、されるがままになっているサラの様子を観察していたセミナは引っ掛かりを覚えていた。


 伯爵令嬢ならば使用人に湯浴みを手伝わせることなんて日常茶飯事なはずなのに、サラの反応は至って新鮮なのだ。


 よほど伯爵家の使用人の質が低いのか、よほど湯浴みは一人が好みだっただけなのか──それとも。

 先程の部屋を見たときの喜びようといい、湯浴みでの反応といい、そして何より、なんの手入れもされていない艶のない肌や髪といい。


「………………」


 それに輿入れの日だというのにあまりにも簡素なドレス、メイクも施されていない。ここまでいくとサラがどうこうではなく、ファンデッド伯爵家に何かあるのでは? とセミナは勘繰り、サラに質問を投げかけた。


「失礼ですがサラ様は、このような湯浴みを受けるのは初めてでしょうか?」

「え? どうしてそう思うの?」

「単純に慣れていないご様子に見えましたので」

「!? ……な、慣れてるわーー。毎日こうだったわよーー。うふふーー。あははーー。セミナったらおかしなことを言うのねーー。おほほほーー」

「……。左様でございましたか。失礼いたしました」


 これは嘘だな……とセミナだけではなくこの場にいるサラ以外の全員がそう思ったけれども、口には出さない。

 一つは隠すには理由があるのだろうから、追々知っていけば良いかと思ったから。


 もう一つは。


「「「サラ様は可愛らしい方ですね」」」

「え? なーに?」


 下手な嘘をついた後のしてやったり顔が可愛かったから、まあそういうことである。



 湯浴みを終え、身体の採寸が終わると晩餐のためのドレスを選ぶ運びとなった。

 本来ならば事前に採寸するか、伯爵家から採寸データを事前に送ってもらいサラの身体にぴったりのドレスを何着か仕立てておくのだが。


 新しく作られた専用のドレスルームで、サラに似合いそうなドレスを何着か手に取ったセミナは申し訳そうに頭を下げる。


「申し訳ありませんサラ様……可能な限り直ぐ公爵家御用達の仕立て屋に越させますので、暫くは既製品で我慢していただければと……」

「え? こんなに沢山素敵なドレスを用意してもらったのに謝られる覚えなんてないわ? 本当に十分よ! 寧ろありがとうと叫びたいわ?」

「叫ぶのはちょっと……。お心遣い大変ありがたいのですが、そういうわけにはいきません。公爵夫人になるのですから、特注で何着か作って頂きませんと。好みが分かりませんでしたので、仕立て屋を呼ぶ日に宝石商もお呼びしますね。旦那様も了承済みですので」

「!?」


 伯爵家でのサラの格好といえば、襟付きの黒のワンピースに白いエプロンをつけた、典型的なお仕着せだった。

 しかもメイドが着古したボロボロのお古しか着ることは許されなかった。

 そんなサラにとって特注のドレスに宝石なんて夢のまた夢のような話で、頭が追いつかないのが現状だ。


(ドレスに宝石……? 一体いくらになるのかしら……恐ろしくて聞けないわ)


 しかしここでお金の話をするのは無作法というもの。セミナを困らせてしまうのも目に見えているし、サラはもう一度だけ念押しすることにした。


「なら全部必要最低限、カリクス様に恥をかかせない品で大丈夫だから。ほら、散財はあまり良くな」

「一般的な令嬢でしたらドレスと宝石を大変喜ばれるはずなのですが……」

「嬉しーー。とーーっても嬉しいなーー。ドレスも宝石も大好きーー」

「それは良うございました」


 ──何だかセミナに上手く操られているような気が……?


 サラは小首を傾げたが、次々に大きな姿見の前でドレスを合わせてくるセミナが楽しそうに「どれにしましょうね。サラ様はお綺麗ですから全部お似合いですね」と褒めてくるので何も言えなかった。


(え? 今綺麗って言った?)


 そう、サラは5歳以降、自分の顔も分からないのである。



 何着か試着して、サラが身にまとったのはラベンダー色のドレスだった。

 前から見ると細かなレースと淡い紫色の生地で可愛らしく、横と後ろはやや濃い紫の光沢のある生地でエレガントにも見える。


 サラは顔が認識できないために自分に似合うもの、なんてことを考えたことは無かったものの、ドレス本来の美しさに目を見張った。


「素敵なドレスね……」

「サラ様が着ていらしたドレスもシンプルでお似合いでしたが、サラ様は目がぱっちりしていらして色白、メイクも映えそうですから、これくらい華やかでも十分着こなせます。ミルクティー色の長い髪にもよくお似合いです」

「ふふ、セミナは褒め上手ね」

「そんなことありません。主観ですが、サラ様はかなり美人の部類に入ります。可愛いと綺麗、両方兼ね備えています。社交界ではよく男性に声を掛けられたのではありませんか?」

「それは…………」


 サラは返答に困り、口籠った。


 最後に社交界に出たのは、13歳のとき、王族主催のお茶会に母とミナリーと参加したときだ。

 今日こそは絶対に相手を間違えないようにやりなさいと母から言われていたため、サラは事前に王族や上級貴族のことを調べて可能な限り記憶して臨んだのだが。


 第3王子に話し掛けられたのだが第2王子と勘違いして相手を怒らせ、ファンデッド家に恥をかかせてしまうという結果になってしまった。


 サラは幼少期から妹と比べられ粗末な扱いはされていたものの、それでもまだ家族としての扱いは受けていた。

しかしその事件後、両親に激怒され、完全に見放され、ミナリーからは下に見られ、家族全員から使用人──いや、下僕のような扱いを受けるようになったのである。

不細工と言われ、嘘つき、穀潰しと言われていたことも記憶に新しい。


「サラ様? 申し訳ありません……何か失礼なことでも……」

「……! ううん違うの、本当に綺麗なドレスだなって見惚れちゃっただけよ、ごめんなさい」


サラはそう言って愛想笑いの出来損ないのようなものを浮かべて、準備の続きをしないとね、と言いながらドレッサーに腰掛ける。


何かを感じとったセミナは話を掘り返すことはせず、サラの美しさを存分に引き出せるようにメイクと髪の毛の仕上げをするのだった。

読了ありがとうございました。


少しでも面白い、続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価【★★★★★】でぜひ応援お願いします。感想もお待ちしております。執筆の励みになります……!


サラに早く幸せになってほしい! という方もぜひ……!



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