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【コミック3巻07/01発売!】顔が見分けられない伯爵令嬢ですが、悪人公爵様に溺愛されています  作者: 櫻田りん@07/01【悪人公爵様コミック3巻】発売!
第一章

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23 サラ、名探偵になる

誤字脱字報告ありがとうございます!

 

 話は少し遡る。


 ファンデッド伯爵家にサラからの手紙の返信が届く四日前、つまりはお茶会から三日後のことである。


 昼食を軽めに済ませたカリクスが執務室にてソファに座り一息ついていると、不安げな顔でサラが入ってくる。


(今日の午前中は確か……仕立て屋が来ていたな。何かあったのか……?)


 サラの登場により家臣たちがこぞって挨拶と自己紹介を済まし仕事の質問を始めるので、カリクスはそれを制した。


「お前たち、質問はサラが空いている時にしろ。サラは私に用があるんだ」

「え? サラ様はまだ一言もそんなことは……」

「サラの顔を見れば分かる…………って何だお前たちその顔は」


「いえ、何もありません!!」と代表してカリクスに意見した家臣はそそくさと自身のテーブルへと戻っていく。

 カリクスは立ち上がると、入口付近で戸惑っている様子のサラへと声を掛けた。


 カリクス様、と名前を言わなくてもすんなりと理解してくれるサラに、頬が綻ぶ。


「どうした? 仕立て屋と何か問題か?」

「いえ……! 強いて言うならあんなにドレスは要らないといいますか……この前のお茶会のドレスも洗えば着られると言いましたのに……」

「いや、寧ろまだ足りない。この前のドレスで君は本当に何を着ても似合うことが改めて分かった。また今度着て見せてくれ。……この我儘を聞いてくれるか」

「〜〜っ! カリクス様は……我儘だと言ったら何でも済まされると思っておいでですね……」

「どうだか」


 ──これ、私達の存在忘れてるよな? ……だよな?


 家臣たちは俯いて両手を太腿の上において縮こまっている。この甘ったるい空気に免疫のある人間はこの場に一人も居なかったのである。


「……話が逸れた。それで用事は何だ?」

「あ……その、ここでは少し……」

「……分かった。二人になれるところに行こう」

「はい。ありがとうございます。皆さん、午後からのお仕事頑張ってくださいね。明日は私も参加しますのでご指導よろしくお願い致します」

「「はっ、はぃぃぃ……!!」」


 おそらく他意はないのだろうが、どうしてカリクスが言うといちいち厭らしく聞こえるのだろう。

 家臣たちは部屋から出ていった主君とその婚約者を遠い目で見つめていた。



 サラはカリクスを自室へ招き入れると、紅茶を入れて席に着いた。

 おずおずとした様子でとある手紙を手渡すと、カリクスはそれを開いて読み始める。


「これは──」

「はい。母からの手紙で……父が危篤状態になったから至急戻ってくるようにと……」


 伏し目がちな瞳に、カリクスはサラの考えを読み切れないでいる。

 既に家族への思いは断ち切ったと言っていたサラだったが、流石に危篤ともなれば気持ちも揺らぐのでは? とカリクスは考えたのだった。


 サラの肩が小刻みに震える。

 カリクスは何と声をかけたら良いのか分からないまま、華奢な肩にそっと手を置くと、バッと顔を上げたサラの鋭い目に驚いた。


「実はこれ、書いてあることは全て嘘なのですわ」

「──なに」

「名前は母になっていますが筆跡が父のものです。危篤状態の人が手紙を書けるとは思いません」

「……なるほど。確かにそのとおりだ。しかしなぜそんな簡単なことに気が付かなかったのか……」

「……母は男爵位の、しかも辺境の地が出身のようであまり勉学に強くありません。ミナリーも昔から勉強を嫌がっていたので文字を読めますがスラスラと書けるほどではなく……。私は元から勉強が嫌いではなかったので幼少期はずっと先生を付けてもらっていました。今思えば、私に事務仕事や雑務を手伝わせたかったのでしょうね……。あ、因みに多忙のため帰省できませんと手紙を書きましたので、ご安心ください」


 以前のサラならば、間違いなくこの手紙の存在をカリクスに報せることはなかった。前回の手紙の存在を隠したのがその証拠である。

 けれど今回は自ら手紙を渡して情報を共有をした──そこの変化に至ったのは間違いなくサラの心境の変化であり、今までのカリクスの言葉がサラに響いたからだった。


 やはり家族の呪縛から解放され始めていると、カリクスはほっと胸を撫で下ろす。

 家族を庇うために嘘をついていたあの姿も可愛らしかったが、今みたいに素直な気持ちを打ち明けてくれる方がカリクスには堪らなく嬉しかった。


 ほんのり温かいアッサムの香りを嗅いでから、喉を潤す。

 カリクスはこの機会に言わなければ、と口を開いた。


「茶会で言ったファンデッド伯爵家への制裁だが──援助金を打ち切ることにした。既にその旨を伝える手紙は出している」

「……。妥当、だと思いますわ。寧ろその程度で収めて頂いてありがとうございます」


 サラがソファに浅く座った状態でしっかりと頭を垂れて謝罪をすると、カリクスの手がすっと伸びてくる。

 まるで飼い犬を可愛がるように優しく撫でられたが、抵抗も拒絶の言葉もなく、サラはされるがままだ。


 単純に慣れた、というよりは恥ずかしいより嬉しいが勝ったと言っても良い。


「おそらくですが……今のファンデッド領は赤字経営のはずです。ですから嘘をついて私を呼び出そうとしたのだと思います。一応私も経営に噛んでいましたから……手伝わせたいのかな、と……」

「話を聞く限り噛んでいたというよりは君が殆ど担っていたという方が正しいな。まあ、だから急激に領地経営が傾いたのだろうが。──援助金が無ければ破綻は目に見えている」

「ま、まさかファンデッド家の現状に気付いていて援助金を打ち切ると……っ!?」

「私はサラを害する者に慈悲を与えるほど優しくない」


 サラの生い立ちをヴァッシュに調べさせてからというもの、その後の動向も全て報告させていたカリクス。

 サラは援助金を打ち切る程度で、というが、才の無い者に対しては、援助金を打ち切ることこそが一番のダメージになることをカリクスは分かっていたのだ。


(我ながら良い性格をしている。が、十数年もサラを傷付けてきたんだ。破綻でも何でもすればいい)


 サラが家族に執着しているうちは過度な真似は……と思っていたカリクスだったが、本人が前を向き始めたのならば話は別だ。

 さわり心地の良いサラの髪の毛を撫でながら、カリクスは一瞬『悪人公爵』の顔を出す。



「あっ、そういえば……!」


 何かを思い出したサラは、頭を撫でているカリクスの手を名残惜しそうにしながら退けると、立ち上がってテーブルの引き出しを開ける。

 書類の束をいくつか選び両手で抱え、カリクスの前に戻った。


「その、話は変わるのですが……パトンの実のことで」

「……君は本当に仕事熱心で頭が下がるよ」

「カリクス様だけには言われたくありませんわ……!」


 現在パトンの実の栽培に関する研究は順調に進んでいるのだが、ここ最近一つだけ問題が発覚したのである。


 気候──。アーデナー領地では、温暖な気候であるがゆえ、実が大きくなりづらいという。


 サラはコホン、と咳払いをすると、話を戻す。


「いくつかパトンの実に適した気候のひらけた土地を探してみたのですが……どれも管理者が手強くて……」


 そう言って手渡された書類。カリクスは良く調べられていると感心しながら、ペラペラと捲っていく。

 その中で目ぼしい箇所を見つけ、はたと手を止めた。


「……そうか、()()もか」

「はい。()()()()が何かと一番便利なのですが……私はよく()()()()()()ので……」


 カリクスの指差す先を前のめりになって覗き込むサラは残念そうに呟く。


「けれど……そう! 世界は広いですし、もっと条件にあった良い場所が見つかるはずですわ。また探してみます……!」

「……そうだな。私も力になろう」


 アーデナー領地の発展のためには思考を止めてはならない。サラはそんな思いでうじうじと悩むことはやめた。


 結局のところパトンの実の栽培について具体的な対応策は出なかったものの、サラの表情は明るい。


 カリクスに相談をして良かったと気分が上がると同時に、サラは突拍子もなくあることを思い出した。


(何で今これを思い出すの……)


 ふと思い出したのはメシュリー第一王女のことだ。

 幼なじみだと言い、カリクスと呼び捨てし、婚約段階なのかと再確認してきたメシュリーに、サラは胸の奥がもやもやしたのだが。


(胸焼け……? 何か変なもの食べたかしら……?)


 こと恋愛においては普段の優秀さはどこへやら。


 サラはメシュリーに対しての疑問をサッと忘れると、昨晩の食事が何だったかの記憶を辿るのに躍起になった。

読了ありがとうございました。


少しでも面白い、続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価【★★★★★】でぜひ応援お願いします。感想もお待ちしております。執筆の励みになります……!


サラに早く幸せになってほしい! という方もぜひ……!

次回、1章クライマックスに向けて大きく話が展開します。


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