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「退団するのか?」


 フェリエの行動は早かった。

 その週のうちにリンダを頼って、新しい雇い先を見つけた。しかも事情も話しており、出産後はしばらく出産休暇も取ることになっていた。

 すべての準備が整い、彼女は騎士団長に退団届を出す。

 驚いた顔をされ、なぜか青い顔で引き留められたが、フェリエは譲らなかった。

 退団届を出した日にはジーンは休みで、翌朝いきなり話しかけられた。


「うん。いいところが見つかったんだ。給料も待遇も良くて。ほら、この団で、女は私だけじゃない。この際、女がいないほうが楽になると思うよ」


(本当はやめたくない。結婚願望もなかったから、ずっと準騎士として生きていくつもりだった。だけど、お腹に宿る命は大切にしたい。だって、ジーンの子だもん)


 ジーンは青い瞳に暗い影を宿して、彼女の話を聞いていた。


「……今夜いいか?」

「ごめん。空いてない」


 フェリエは自身の感情を悟られないように、そっけなく答えると彼の元から去る。

 

(一ヶ月。どうにか耐える)


 妊娠発覚から一週間後、悪阻が始まった。

 懸命に堪え、周りに気がつかれないようにした。ひどい時は休みをとった。

 そうして、フェリエは無事に退団の日を迎える。


「フェリエ。今日はいいだろう」

「だから、だめ。忙しいんだって。ジーンならたくさん相手がいるでしょ?私に構わないでさ」


 退団とともに寄宿舎からも出て行かないといけない。なので荷物を片付けていると、いきなりジーンがやってきた。部屋に来るのは初めてで驚いた。


「新しい職場の住所教えてくれ」

「なんで?」

「なんでって、知りたいから」

「嫌。ごめん。もううんざりしてるんだ。ジーン、他当たって」

「嫌だったのか?」

「うん、まあね」

「そんなわけないだろう」

「あなたがそう思っているだけでしょ。私は嫌だったの」


(嫌なわけがない。だけど、認めるわけにはいかない)


 視線を合わすと嘘がばれそうで、フェリエは片付けに忙しいふりをする。

 

「そうか。悪かったな」


 ジーンはそれ以上何も言わなかった。


(やっぱり、所詮それだけか。彼にとっては私はただやらせてくれる女。好き好んでやっていると思っていた相手が嫌だったと知って、傷ついているのかな。まあ。彼はいい男だ。しかも上手いと思う。他に経験ないから、私は上手いと思ったところでそれが事実かはわからないけど)


「気をつけて」

「うん。ジーンも」


 別れの言葉はそれだけ。

 ジーンは部屋から出て行き、フェリエだけが取り残される。

 するとなぜかつんと鼻が痛くなって、涙が溢れ出てきた。


「馬鹿。私の馬鹿」


 彼に期待している自分が嫌で、そう自身をなじるが、涙が止まらなかった。


 

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