2
「退団するのか?」
フェリエの行動は早かった。
その週のうちにリンダを頼って、新しい雇い先を見つけた。しかも事情も話しており、出産後はしばらく出産休暇も取ることになっていた。
すべての準備が整い、彼女は騎士団長に退団届を出す。
驚いた顔をされ、なぜか青い顔で引き留められたが、フェリエは譲らなかった。
退団届を出した日にはジーンは休みで、翌朝いきなり話しかけられた。
「うん。いいところが見つかったんだ。給料も待遇も良くて。ほら、この団で、女は私だけじゃない。この際、女がいないほうが楽になると思うよ」
(本当はやめたくない。結婚願望もなかったから、ずっと準騎士として生きていくつもりだった。だけど、お腹に宿る命は大切にしたい。だって、ジーンの子だもん)
ジーンは青い瞳に暗い影を宿して、彼女の話を聞いていた。
「……今夜いいか?」
「ごめん。空いてない」
フェリエは自身の感情を悟られないように、そっけなく答えると彼の元から去る。
(一ヶ月。どうにか耐える)
妊娠発覚から一週間後、悪阻が始まった。
懸命に堪え、周りに気がつかれないようにした。ひどい時は休みをとった。
そうして、フェリエは無事に退団の日を迎える。
「フェリエ。今日はいいだろう」
「だから、だめ。忙しいんだって。ジーンならたくさん相手がいるでしょ?私に構わないでさ」
退団とともに寄宿舎からも出て行かないといけない。なので荷物を片付けていると、いきなりジーンがやってきた。部屋に来るのは初めてで驚いた。
「新しい職場の住所教えてくれ」
「なんで?」
「なんでって、知りたいから」
「嫌。ごめん。もううんざりしてるんだ。ジーン、他当たって」
「嫌だったのか?」
「うん、まあね」
「そんなわけないだろう」
「あなたがそう思っているだけでしょ。私は嫌だったの」
(嫌なわけがない。だけど、認めるわけにはいかない)
視線を合わすと嘘がばれそうで、フェリエは片付けに忙しいふりをする。
「そうか。悪かったな」
ジーンはそれ以上何も言わなかった。
(やっぱり、所詮それだけか。彼にとっては私はただやらせてくれる女。好き好んでやっていると思っていた相手が嫌だったと知って、傷ついているのかな。まあ。彼はいい男だ。しかも上手いと思う。他に経験ないから、私は上手いと思ったところでそれが事実かはわからないけど)
「気をつけて」
「うん。ジーンも」
別れの言葉はそれだけ。
ジーンは部屋から出て行き、フェリエだけが取り残される。
するとなぜかつんと鼻が痛くなって、涙が溢れ出てきた。
「馬鹿。私の馬鹿」
彼に期待している自分が嫌で、そう自身をなじるが、涙が止まらなかった。




