5/7

ねもう様、宇宙に散る

　羽毛布団にくるまって起床を躊躇っている冬の朝が1番幸せだ。

　温もりと、美化された自分の体臭で心が落ち着く。

　「あー、一生ここにいたいなー」

　「では、その願い叶えてやろう」

　「誰ですか？」

　「神だ。今幸せか？」

　「はい、天国のようです。この時間が永遠に続けばいいなと思います」

　「叶えてやる」

　キラキラキラキラ〜

　目覚まし時計の針が止まった。

　窓の外から響いてくる工事の音が消えた。

　不思議に思って起き上がろうとすると、途中で体が硬直して動かなくなった。布団から出ることはできなくなっていた。

　3時間後、腰が痛くなってきた。お腹も空いてきた。

　半日後、カーテン越しに陽が落ちた。

　空腹と腰痛に苦しみながら眠った。

　朝が来た。お腹が空いた。お腹と背中がくっつきそうだ。

　腰も痛い。

　その日もそのまま半日が経過し陽が落ちて、空腹と腰痛に喘ぎながら夜中に眠った。

　また朝が来た。

　しかし今日は月曜日だ。

　今日仕事に行かなければ職場の人間が気づいてくれるだろう。

　もう少しの辛抱だ。

　一週間が経ち、次の月曜日が来た。まだ布団の中だった。

　一年が経った。胃が萎んだ風船のようになり、腰痛で腰の骨がいくつか外れた。

　十年が経った。お腹と背中がくっつき始め、大体ステーキくらいの厚みになった。腰痛で何本も骨が折れた。

　百年が経った。体はペラペラの紙になり、腰の骨は全て砕け散った。何度も寝返りをうつと体が丸まって巻物になった。

　千年が経った。

　「やや！なんじゃこの巻物は！なんとも珍妙な……」

　「どれどれ、ほう！このような絵巻物は見たことがない！殿に持っていこう！」

「殿〜！珍しい絵巻物を手に入れましたぞ〜！」

「何よあんたたち！結構いいじゃないのよぉ〜もうっ！家宝にしちゃいましょっ！」

　二千年が経った。

「ワレワレハウチュウジンダ」

「何よあんたたち！勝手に城の中に入ってきて！もうっ！ぷんぷん！！！」

「ナンダコノマキモノハ」

「……それは駄目よ。今は亡き私の大事な家臣ちゃんが持ってきてくれたものなんだから……っ」

「イタダイテイク」

「駄目だって言ってんでしょ」

バチーン！！

「ツヨイナオマエ」

「まあね」

バン！ガン！ドン！ガゴン！ドドドドドドド！

ギャシュワッ！　グサッ。

「くそっ、」

「イタダイテイク」

　宇宙人はその絵巻物を自分の星に持って帰った。

　その巻物は特殊な力を持っており、その巻物を手にしている国は大きく繁栄し、金銀財宝が国の地下から無限に湧いてくるようになった。

次第にその巻物をめぐって国同士が争うようになった。

10万年が経った。

「その巻物は我々の銀河のものだ！絶対に渡さん！」

「はっ！貴様ら弱小銀河が宇宙最強集団アンドロメダ銀河に勝てるはずがないだろう！！！大人しく巻物を渡せ！」

　一方的な戦いの末、弱小銀河は一瞬にして宇宙の果てまで追い詰められた。

「くそっ、ここまでか」

「もう観念することだな」

(本当に、諦めるしかないのか……)

　その時、巻物が光輝き始めた。

　眩い光を放つ巻物はくるくると開いて、一枚のペラペラした紙になった。画用紙を人間の形に切り取ったようだった。

　両軍が固まる中、その輝く紙はヒラヒラと宇宙空間を舞った。

「紙だ」誰かが呟いた。

「紙だ」

「いや、神だ」

「そうか、神か」

「あれが……」

「神だ」

「いや、ネ申だ」「ネ申だ」「ネ申」

「ネシン？」「ねしん？」

「いや、ネモウじゃないか？」

「ねもう様か」

「ねもう様だ」

「ねもう様」「ねもう様だ」

「ねもう様！」「ねもう様！」