宇宙人は殺された
その日地球の人々は色めきたっていた。
たった一人ではあるが、宇宙人が到来したのだ。
最初は世界最大国家のリーダーがその宇宙人と握手をした。
「体温がお高いのですね」宇宙人の手に触れたリーダーは驚くように言った。
「これが平熱なんですよ」宇宙人は笑いながら答えた。
リーダーは小声で側近に「そういうものかね」と聞いたら、側近は「そういうものでしょう」と返した。
宇宙人が乗ってきた宇宙船はとても高性能で、数十分あれば大陸を行き来することがすることができた。
そのため宇宙人はある大陸で人々と交流して、夜になると昼の大陸に移って人々と触れあった。
各国における宇宙人のふるまいは奇妙なものだった。
各国の要人やスターと握手したあと、一般人がたくさんいる大都市に訪れ、すれ違う人々全員にハイタッチを求めながらひたすら練り歩いた。
彼は一睡もせずひたすら地球人と交流を続け、一週間で五大陸の主要国家をすべて回り終えた。
ハイタッチをした人の感想はほとんど「手が熱かった」だった。
その感想は日を追うにつれて次第に
「手が熱かった」から
「手がとても熱かった」
「手がものすごく熱かった」
「手が信じられないくらい熱かった」
「火傷するかと思った」
と変化していった。
世界中は宇宙人の話題で持ち切りになり、世界最大国家のリーダーが体調不良で公務を休んだというニュースは誰も気に留めなかった。
世界中を回り終えた後、最後の大陸の最後の国で宇宙人は地球人に質問した。
「地球で一番涼しいところはどこですか?」
「南極ではないでしょうか?」
「南極というと…?」宇宙人は首を傾げた。
「南極というのは、氷の大陸です」
「おお、それはちょうどいい。ありがとうございます」
宇宙人はその地球人と固い握手をした。地球人は手を火傷した。
宇宙人はすぐさま南極に飛び立っていった。
それきり、宇宙人が南極から戻ることはなかった。
30年が経った。
山ほどの宇宙船が地球に襲来して、そこから大勢の宇宙人が降りてきた。
彼らは地球を探索した。
街は骸骨であふれかえっていて、ビルにはところどころ苔が生えていた。
どの大陸へ行ってもそれは同じだった。
地球人は一人もいないように思われた。
「あいつはうまくやってくれたようだ」
宇宙人のリーダーが言った。
「そうですね。あいつは500度くらいまでは耐えられたでしょうが、何年も前に間違いなく死んでいるでしょう。もしかするとこの骸骨たちに混っているかもしれません」
副リーダーがそう言って、足元の頭蓋骨を蹴とばした。
「地球人たちは最後、病床が足りなくなったのだろうな。熱にうなされながら路上で一生を終えるとは憐れなものだ」
他の星を侵略する宇宙人の態度は大体がこんなものだった。
ほどなくして彼らは地球の建物も文化もすっかり彼らの星のように変えてしまった。
地球は宇宙人の星になって、宇宙人は地球人になった。
その後地球人は長きに渡って大繁栄したが、氷河期が到来したため彼らは地球を脱出した。
地球には誰もいなくなった。
さらに長い年月が経った。
誰もいない地球では海の底が山の頂上になって、山の頂上が海の底になるような大規模な地殻変動が何度も起こり、大陸が動き、氷河期が終わった。
地球の気温はある時まで緩やかに上昇し、その後一発大きな気候変動が起こって急激に温暖化した。
南極大陸の氷の一部が溶け、一体の生物が起き上がった。
「まさか生きのびることができるとは思っていなかった。全滅計画はうまくいっただろうか」
彼は侵略の道具にされたにもかかわらず、目覚めるなり計画のことを心配した。
侵略のために彼が感染させられたウイルスはいつの間にか氷の中で死滅していたようだ。
熱はすっかり下がって体調も良くなっていた彼は、早速乗ってきた宇宙船を探した。
しかしどれだけ探しても宇宙船は見つからなかった。
彼は途方に暮れた。
そんな時、彼は二足歩行の生物に遭遇した。
地球人とも、彼の地元の星の人々とも違う姿形をしていた。
その何十人もの二足歩行の生物は全員がいろいろな機械を持っており、南極を探索に来たようだった。
「お前は地球人か」
彼らが離れたところから話しかけてきた。
「いえ、違います」
「そんなはずはないだろう。この星はくまなく調べたが、間違いなくお前の容姿は地球人そのものだ」
「何を言っているのですか、私は宇宙人です」
「お前こそ何を言っている。宇宙人は我々だ」
「私も宇宙人です」
「もういい」
ドン、宇宙人は殺された。