サマーウォーズ
僕の名前は佐藤力。
昨日の夜、僕は迫りくるタイムリミットを前に大学のレポートを書いていた。ああいう時は「サマーウォーズ」のクライマックス、主人公の計算シーンを妄想しながら書くに限る。
妄想突入。
夏の日本家屋、畳の上。
風鈴とセミの音だけが響く中、主人公である僕の背後で佐藤家の大家族がかたずをのんで成り行きを見守っている。
PCの画面には以下のように表示されていた。
『論題:文学はどのような表現のしかたをする芸術なのか(1200字)』
【23:54 729/1200】
ボールペンをつかみ取って、ノートの上でペン先を滑らせるようにして数式を書いていく。
ペンの残像ができるほど加速させ演算、結果を弾き出す。1200-729=471
つまり残り6分で471文字を書ききって佐藤家に落ちる小惑星探査機の軌道をずらさなければならないということだ。
キーボードの上でムカデの足のように蠢く五指がものすごい勢いで文字を入力していく。
【23:58 1001/1200】
佐藤家めがけて落ちてくる小惑星探査機の映像がPCの左上に映し出された。
既に大気圏に突入している探査機はまるっきり隕石のように墜ちてくる。
「あと一分!」
後ろの親戚のおじさんが大声で言った。
【23:59 1148/1200】
遥か上空の雲を突っ切って探査機が急接近する。
PCの画面が赤く染まり耳をつんざくようなけたたましいアラーム音が鳴り始める。
気に留めず指を動かす。
【0:00 1189/1200】
まだだ、まだ負けてない!!!
0:01までに出せばいける、あと50秒!!
【0:00 1193/1200】
【0:00 1208/1200】
。と最後に打ち込んだ。
文字数満了
手を高く振り上げて、
「よろしくお願いしまぁぁああああああす!!!!」
Enterを押し込んだ。
ピロン♪
《提出期限を過ぎました》
【0:01 未提出】
パシュン!と1208文字のデータが消えた。
小惑星探査機は軌道を変えずに直進する。
「お前ら付き合っちゃえよ」
さつきさんが僕の頬に口元を近づける。
チュッ。
ボカーーーーン!
佐藤家は消し飛び、基礎演習の2単位も落としてしまった。