青く透き通った肌はお好きですか?
私、有栖川 芽衣子はとんでもないことに巻き込まれてしまったかもしれない。
まさか、同期の万木君が宇宙人だったなんて………………
◇ ◇ ◇
今日は上司からの横やり仕事が多くて、元々やろうとしていた仕事にたどり着いたのは定時1時間前のことだった。横やり仕事が多かったのは私だけではなく万木君も同じようだったと記憶している。
「今日は全然自分の仕事に手をつけられないくらい忙しくて……」
「こっちも同じ。物部課長がどんどん仕事を投げてくるから、それを処理するだけで精一杯。せめて定時前には今日やろうと思ってた仕事に取り掛かりたいよね」
なんて社内併設のスタバァで飲み物を片手に立ち話をしたからだ。物部課長からの仕事も片付き、自分の仕事もひと段落した時のことだった。私と万木君以外の人は既に退社してきたし、あと30分だけ頑張ったら帰ろう。そう決めた時、ふと万木君が視界に入った。視界に入った瞬間は気付かなかったが、私は思わず二度見をしたのだ。
―――万木君の席に座る、人と呼ぶには違う、言葉にするのは難しいが素人の私でも分かる。万木君……絶対に地球人じゃない。
まず皮膚の色が違う。爽やかに晴れたような空の色で、思わず魅入るような透き通った青。ビジネスマン共通の黒い髪は金色にキラキラと眩しいくらい輝いていた。
かろうじて人の形を保ってはいるものの、今の万木君はとてもじゃないが同じ人間とは思えなかった。
「ゆ…万木君……きれい……」
思わず声がこぼれる。急いで口に手を当てたが時すでに遅し。
「有栖川さん、どうかしま……っ……あああああああああ!」
万木君じゃ声をかけた私の方を振り向いた。最初はいつも通りだったのだが、『きれい』なんて発言したことで私が何に対してきれいと言ったのかすぐに分かったのだろう。万木君は椅子にかけられた背広を頭から被り、机の下にもぐってしまった。万木君は自分の姿が見えないように隠そうと必死だった。
「見ましたね、見ましたね、見ましたね!!」
私に圧をかけているのだろう、万木君は徐々に声のボリュームが上がっていく。言葉が漏れていた以上、今更「見てません」なんて言えないし…
「……み、見たよ! すごくきれいだった!」
何とか言葉を吐き出すと、私と万木君の間に沈黙が流れる。すると大きなため息を吐きながら万木君が机の下から出てきた。
「すごくきれいだった、って言われてもねぇ。この姿を見ても何とも思わないの?」
私の前まで歩いてきて、目の前で手をひらひらとさせる。万木君の手は青く透き通ったまま、地球外生物とわかりながらもなぜか怖いという気持ちは1ミリたりとも感じなかった。
「だって万木君は万木君だから。どんな姿だっとしても万木君だよ」
私の言葉を聞くと、万木君の青く透き通った素肌は徐々に私と同じ肌の色に、髪は金色から黒髪へと変化をし、いつもの万木君へと戻っていった。
「有栖川さんに話さなきゃいけないことがあるから、今すぐ帰る支度をして。ここじゃ話せない内容だから。5分後にエレベーターホール前で」
そう私に伝えると、万木君は自席へと戻り急ぎ帰り支度を始める。この時の私は平々凡々のごく普通の一般人で、万木君の秘密を知ったことは非日常の幕開けに過ぎないということを知る由もなかったのだから。