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【短編】意外な結末

才女の先輩が、オンラインゲームではポンコツすぎる

作者: 丸井まご

『ゲーム、教えてくれない?』


 突然の電話に、僕はあわてふためいた。


 休みの日。

 いつも通り、家でゲームをしていたのだが。


 まさか紫音(しおん)先輩──生徒会長から電話が掛かってくるとは。


 才色兼備で人望の厚い彼女が、生徒会の中でも()えない僕に何の用だろう。


『みんなの間で流行っているゲームがあるでしょ?』


 どうやら、外出自粛によってもて余し気味の〝おうち時間〟を有効に使いたいらしい。


 ゲームには不慣れのはずだが、学生の嗜好を把握しておきたいのだろう。

 さすが生徒会長。

 努力を惜しまないその姿勢には思わず頭が下がる。


 僕がゲーム好きであることもすっかりバレているようだ。

 正直かなり緊張しているが、先輩の頼みとあらば仕方ない。


「僕で良ければ、やりましょう」

 良いのか? 良いんだよな……。


 僕たちはオンライン用のゲームを起動した。


 便利な世の中だ。

 ネットさえ繋げば、離れた場所にいても同じゲームで遊べる。


 学生の間で人気のゲームと言えば、そう。


 ──基本無料のバトルロイヤル。


 ルールは簡単。最後まで生き残ったら勝ち。


 二人一組で武器を集めながら、他のプレイヤーを倒していく。

 ただそれだけ。



『ここに入れば良いのかしら?』


 始める前に、メニュー画面でチームを組む。

 女の人を友達登録するのは初めてだな。


 どれどれ、先輩のプレイヤーネームは──




 《ドSティック・ヴァイオレット》 


 え、怖い。


 同じ空間にいたら暴力を受けそうな名前だ。ミスしたらぶっ飛ばされるんじゃないか?


 紫音(しおん)先輩、普段は優しいけど怒ったらめっちゃ怖いし。

 コントローラー握ると性格が変わるのかもしれない。


 オンラインゲームの偉大さを、別の切り口で見出(みい)だしてしまった。


 ともあれ、先輩の前でカッコ悪いところは見せられない。気を引き締めよう。



 ──ゲーム開始。


『ねえ、これは何?』

「武器です。これで相手を殺……やっつけます」

『本気……?』

「マジです」


 通話越しでも、紫音(しおん)先輩の驚きの表情が伝わってくる。


 そうか、普段ゲームをしない人にとっては異常な光景なのか。武器なんて日常生活で使わないし。

 引かれたりしない……よな? 誘ってきたのは先輩だし。



 僕たちが武器を手に入れたところで、他のプレイヤー──敵が現れた。


 しめた! 相手はまだ武器を持っていない。


『ねえねえ、ブキを欲しがっているみたい。あげて良いかな?』

「良いわけあると思います??」


 ま、まずい。

 つい語気を強めてしまった。


 先輩は初心者。

 それに、困っている人を見捨てておけないタイプだ。


 丸腰(まるごし)の相手に同情してもおかしくない。


 生徒会で僕だけバレンタインをスキップされそうになった時、こっそり根回ししてくれたことを思い出せ!

 お返しに聖人の心で接するんだ。


可哀想(かわいそう)ですが、ここは殺……やっつけてあげるのが礼儀です」

『そうなのね……』


 先輩の声のトーンが下がったような。これはなかなか骨が折れそうだ。


『あ! あっちに誰かいるみたい! おーい!』


 さすが、切り替えが早い。すぐに気を取り直してくれた。良かった良かった。

 いや、良くない! 一人で先走ったら──


 ズドン。


 何発か響いた銃声。こ、これは……。



 相手のほうが倒れている。まさか先輩がやったのか?

 思った以上に飲み込みが早い。ドSティック・ヴァイオレットの名は伊達ではない。


『ど、どうしよう……倒れちゃったわ』

「いえ、ナイスです! 倒れた相手から装備を奪いましょう!」

『あなた外道(げどう)なの??』


 ぐっ……! なぜか僕の評価が理不尽に下がっている気がする。

 これはそういうゲームなのに。

 でも先輩の勉強のためだ。立ち止まるわけにはいかない!



 ピンポーン。



 三秒で立ち止まることになった。

 しまった、宅配便! 休日に予定入れることなんてないから、適当に時間指定していたんだ!


『大丈夫?』

「すみません、ちょっとだけ離れます! この安全地帯から絶対に動かないで下さいね!」

『うん、任せて!』


 先輩は約束を必ず守る人だ。「誰にも寂しい思いをさせません!」という、生徒会選挙での公約だって見事に果たしてくれた。だからこそ僕は生徒会書記に立候補したんだ。


「お待たせしました! って、あれ⁉︎」


 めちゃくちゃ遠くに移動してる!

 あれ?? 自由の人??

 ドSティック・ヴァイオレットと化した先輩は自由の人??


『大変なことになっちゃった……』


 でしょうね!


『全員いなくなっちゃったの』


 お……? それはつまり。


 ──勝利条件。

 バトルロイヤルの勝利条件は、最後まで生き残ること。


「先輩、優勝ですよ! 最後まで生き残ったんです!」


 運が良かっただけかもしれないが、これはすごいことだ。

 六十人の頂点に立つ、僕も普段なかなかできないのに。

 さすが先輩だ。





『優勝? 友達を増やすことが目的でしょ……?』




 ん?? 友達を増やす?





『「つどえ! どうくつの森」って、そういうゲームでしょ? 女の子たちに人気だって噂の』



「それ、別のゲーム!

 動物の住民と仲良くする、別のゲームですから!!」



 そんなことある??

 通話しながら全然違うゲームしてたのか僕たち……。


「ちなみに今どういう状況です?」


『まず虫取り網を手に入れて……プレゼントを欲しがるペンギンさんと、挨拶してくれたクマさんをそれで叩いて、身ぐるみ()いで……』


「すみません、僕が外道でした!!」


 先輩は、『いじめは自分に返ってくる、っていうメッセージかと思っちゃった』と笑って許してくれた。

 緊張すると周りが見えなくなる。勉強になったのは僕のほうだったらしい。



 ところでドSティック・ヴァイオレットって誰??



お読み下さりありがとうございました。


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