朝のひととき
朝6時。ある街のある住居。
――、ハムエッグ、きゅうりとミニトマト。お豆腐のお味噌汁、白いご飯、浅漬けのガラスの器。
「ママ、『魔女っ子ジュエル』の新しいふりかけ出していい?」
家族揃っての朝食の支度。何時もより少しばかり早く起きてきた娘が、この前届いたソレの封を開けたいと話してくる。
たらこ、シャケ、のりたまの3種類の詰め合わせ、中にキャラクターのカードが入っている。今どこもかしこも、魔女っ子ブームなので、それが目当てらしい。
「うーん、どうしよっかな……」
「新しいの入っているんだもん、みんなに見せたいの!」
あざといメーカーの作戦なのか、映画の公開に合わせてパッケージデザインが変わったソレを手に持ち、頼み込む娘。
「じゃぁお手伝い。パパ起こしてきて、ママ8時から会議なのよね、パパは9時からだっけ?美桜は今日は係の仕事ないの?」
「うん、今日はない。わかった!起こしてくるね」
嬉しそうにパタパタと、スリッパの音を立てて出て行く。お味噌汁をそれぞれのお椀によそい、食後のコーヒーの用意も済ませておく。冷蔵庫からヨーグルト飲料のボトルを出し、トポトポと美桜のグラスに注いでいると。
「ふぁぁ、おはよう」
「おはよう、今日、私8時開始なのよね、美桜のアクセス頼める?係の仕事無いから、8時15分にね、お願い」
「あ、学校ね。了解」
夫婦で業務連絡。美桜は役目を終え席につくと、早速袋を開けて中のカードを取り出している。
「何が出た?」
「ほら、パパ。ピンクサファイアだったよ。かわいい」
キラキラとデコレーションされた、女の子キャラのカードを嬉しそうに見せる美桜。『ピンクサファイアのたらこ』にしよ、とカサカサと小袋を選ぶとご飯にパラパラ。
明るめのピンクにご飯が染まる。所々に黒い海苔、薄い緑、卵の黄色、ごま。
「パパもいる?」
「あー、パパ……、大人のふりかけがいいな、それ甘いから。美桜『いただきます』は?いただきます」
「あ、はーい。『いただきます』あまい?たらこだよ」
「うん、たらこが甘いんだ、大人になればわかる」
「へんなのぉ、大人になったら、たらこがあまくなるんだ……」
「いや、たらこは甘くない」
「パパ、あまいって言った!」
「あー、うーん……、そうなんだけど、ふりかけのたらこがあまくなる、あ、違うちがう、ジュエルのたらこがあまくなるってか」
やっぱりたらこがあまくなるんだ……、パパ変!と何時もの様に、訳のわからぬ問答の様なやり取りをしながら食べ始めた二人。カタンと椅子を引き座る私。娘の手前、少しばかりしっかりと『いただきます』をし、箸を取る。
話しながら食べる何時もの朝。
「ママ、今日ね。おべんきょう終わったら『ポポいろ公園』で遊んでいい?さちこちゃんとお約束してるの」
「そのままはだめよ。一度家に帰って宿題してからね」
「ええ!」
「そうだぞ、宿題すませとかないと、今晩困るぞぉ、見たいと言ってたアニメ映画がある日だぞ」
「あ!ジュエルのあたらしいの!パパ見れるようにしてくれたの?」
「おう!パパ頑張ってチケット取ったんだ!一緒に見ような」
映画の公開と同時に配信出来るよう、チケットを購入していた夫。少しばかり早い美桜のお誕生日プレゼント。
「そうよ。夜は家族でちょっぴり早い、美桜のお誕生日をしましょうね」
「やった!ケーキある?あ!それと、お友達とお誕生日会してもいい?」
「そうだな、来週の日曜ならいいよ。ママは?」
「大丈夫。だけどみんなのお家は大丈夫?出勤とかあったら……、お家で騒いだらいけないでしょ、早めに聞いておきなさいね」
うん、今日聞いとく。食べ終えコクコクとヨーグルトを飲みながら答えた美桜。グラスの内側がとろりと白い。先に食べ終えた夫が立ち上がり、コーヒーを淹れる。
「シュガー、ストックあったっけ?」
「え?あ……そこにある分で終わりかも。頼んどかなきゃ、私のも入れて」
テーブルの上に置いてあるタブレットを開く。ページをめくりスーパーにログイン。特売品がずらりと並ぶ。会員登録をしているので、マイページを開けば購入したもの、そろそろ買い足しをする調味料並びに日雑品等がご丁寧に記されている。
「オレンジジュース買って、映画見ながらのむ」
「ビール買って、特売だよ。映画見ながら呑む」
「ポテチ買って、映画見ながらたべる」
「パパもポテチ、映画見ながら食べる」
タッチペンで要る品物を入力していると、二人してアレが欲しい、これが欲しいと言い出す。もう!買い物は独りの時に限る。
「あー、ハイハイ。今日だけね、あらもうこんな時間、取り敢えずこれだけ頼んで……、パパ、食洗機に入れておいて、美桜は用意して、ママも用意しなきゃ」
ごくごく、少し冷めたコーヒーを飲み干すと席を立つ。時間がある方が朝の食卓の後片付けをするのが、私達夫婦のルール。
それぞれに部屋を持つ。共有部分はリビングとダイニングキッチン。
ランドリーで洗濯物が回っているのを確認したあと、部屋に向かい仕事着に着替え、ドレッサーに座る。薄くメイクをし髪を整えていると。
「ママ、髪の毛くくって」
制服姿の美桜が、彼女のおしゃれセットが入っているケースを持ち入ってきた。あー、ハイハイ、手早く終わらせ席を変わる。
猫毛で柔らかく、子供らしい細い髪をブラシで梳く。忙しい中だけど、ほわんと幸せな時間。
「今日はどのゴムにするの?」
背後から娘に問う。ええっとね、今日はね。カサカサと中身を漁る美桜。
時計をちらりと見る。もうすぐ7時半、少し急がないといけない、少しばかり早い会議が始まる朝。
バタバタしていて、ほんわり幸せな朝。