堕落〜平凡な少女は魔女に堕ちる〜
恋愛要素思っているよりも薄いかもしれません。
というか、極薄です。
それでも良いという方は読んでいただけると幸いです。
生まれてきてから今まで、後悔したことなんて数えきれない。でも、それらの多くは教訓としてわたしの人生に活かされているから、決して無駄ではなく、むしろ成長するには必要な後悔だったのかもしれない。
だけど…どうしても、前向きに捉えることのできない後悔が一つだけある。
あの日から、私の運命は狂い始めたのだ。
「「せぇーのっ!!!!」」
制服を身にまとった女学生達はそう言って息を合わせ、トイレの個室に居た私に上から水を浴びさせる。
それはバシャッ…と大きな音を響かせ、そして犯人である女達は笑いながら逃げていった。
この流れさえ、もうわかりきっていることだった。だって、きっともうすぐ"彼女"がくるから。
ここの学生は皆、彼女の付属品を恐れて彼女には手を出さない。
だから毎回必ず彼女が私を助けに来る前にすばやく去っていくのだ…本当に小賢しい人たち。
私は個室から出て、びしょびしょのブレザーからかろうじて無事だったハンカチを取り出し、ぬれた顔や髪を拭く。
小さなハンカチは吸収できる水量をすぐに超え、使い物にならなくなった。
私はその事にため息をつこうとした…が、それもやや荒く扉が開けられたことと彼女が来たことで引っ込んでしまった。
彼女…シュリンツカはいつも通り、綺麗な金髪をたなびかせながら私の元へ走ってきた。
「フェリスっ!!
ま、またこんなこと…一体誰なの!?いつも逃げ出して…ぜっったいに許さないんだから。」
そうやって息巻いている姿でさえも美しいシュリンツカを見て、ただでさえ地味な上に濡れたことでさらに惨めに見えるだろう私はいつも通り何事も無いように笑う。
ここには彼女と私以外誰もいないけれど、私が彼女の前で気を抜くことは許されない。脇役である私の役目は主役の彼女を心配させることではないから。
「大丈夫だよ、シュリンツカ。
私はこんなの全然平気だから。」
そう言って私はヘラっと笑う。
その姿を見たシュリンツカは美しい青い瞳を潤ませながら、安堵したような笑みを浮かべて私を抱きしめる。
「良かったっ!
私、フェリスに何かあったらって考えたら怖くて…」
「大丈夫、大丈夫だよ。
私はここにいるから…大丈夫。」
大丈夫、そうやって自分に言い聞かせるようにしてシュリンツカを抱き締め返す。
あぁ、なんてことはない。
何をされても動じない、良い子ちゃんでいること。
それが私がこの世界で生き抜く為に課せられた使命なのだ。
ふと見えた、トイレの鏡に映る美しい金髪の女。
その女と抱きしめ合うありふれた赤毛と茶目の地味な女はひどく冷めた目をしていた。
聖サティファナ学園。
それは大国ナズィーラ神聖国が誇る、世界でも選ばれし者が通える学園。
平凡な農村出身の私には到底不釣り合いな学園だが、とある理由によって私はもう5年前からこの学園に滞在しており、今年で17歳を迎える。
そしてそこには勿論シュリンツカも在籍していた。
「え、フェリス、もう決めたの?
早いよ〜、え、ちょ、待ってよ!」
「待たないし待てないよ。混雑してるんだから。それにもう数十分も迷ってるじゃん。
いい加減早く決めなよ。」
混雑する学園の食堂で日替わりランチを注文する傍ら、慌てて私と同じ物を頼むシュリンツカを見てため息をつく。
彼女は昔から優柔不断だが、学園の食堂では特にすごい。
まぁ世界一の学園の食堂ということもあって、メニューが多いから当たり前なのかもしれないが…いや、それでも彼女の迷う時間は人並み以上だ。巷では殿方の悩みの一つとして婚約者や妻のショッピング時間の長さが挙げられるそうだが、なんとなくその気持ちがわかってしまいそうになるほど彼女は優柔不断でマイペースだった。
そんなこんなでもう昼休みも半分が過ぎるころ、私たちはやっとの思いで席に座り食べ始める。
大体いつもシュリンツカが悩んで時間が過ぎていくので、残念なことにこの時間に食べ始めることはいつも通りといえばいつも通りだ。
それでもなお、マイペースな彼女は時間がないからと黙々と食べる私にニコニコと上機嫌そうに話しかける。
「フェリス、聞いてよ。
昨日カイロス様がね、大きな薔薇の花束をもって部屋を訪ねてきたの。
それで面白すぎて思わず笑ったら、彼嬉しくて笑ったと勘違いしたのよ。
確かに気持ちは嬉しいんだけど、なんでもない日に花束っておかしくない?」
妙にロマンチストなのよね、と冗談のように笑いながら話すシュリンツカだが、本当は嬉しくてたまらなかったのだろうと心の中で思う。その証に、話始めた彼女の頬はやや赤く染まり、内容も彼のことばかりだった。
昔は共通の話題があって、彼女と会話するのが楽しかった…でも、仕方のないことだ。
だってカイロス・ナズィーラ第三王子は彼女に一途で、文字通りの素敵な王子様なのだから。
2人は順調に愛を育んでいるようでなによりだ。
話を聞き流しながらところどころ「そうだね」と笑い返した私は頭の中でどこか冷静に彼女を観察していた。
それからもシュリンツカの無意識の惚気話が続き、あともう少しで2人とも食べ終わるという所で、突然食堂内がざわめき出す。
目の前にいる彼女は何事かと驚いた様子だったが、私はすぐに感づいた。
ああ、王子様がお姫様を迎えにきたのだ、と。
案の定、食堂中の注目を集める身体中から王族特有の威厳が溢れ出す銀髪の男が私達のテーブルの前に止まり、シュリンツカを愛おしそうに見つめた。
あーあ、こんな目立つことをして。
また面倒なことが起きるに決まっている。
そう思い、いつの間にか癖になったため息が出そうになったが、なんとか飲み込んだ。
「やぁ、シュリンツカ。私の愛しき光。
もしよかったら、一緒に次の教室にいかないか?次はたしか合同授業だろう。」
「カイロス様、気持ちは嬉しいですが、私はフェリスと行くからお断りさせていただきます。」
いいえ結構です私は一人でいいのでどうぞ王子様と向かって下さいと心の中で叫ぶが、伝わるはずもない。
案の定、王子様の鋭い視線が私を貫いた。
絶対に今不機嫌だ…勘弁してほしい。
「フェリス?…あぁ、シュリンツカが連れてきたあの農村の子か。
ではフェリス、シュリンツカを連れて行ってもいいか?」
「ええ、勿論です王子様。
私は全然一人で構いませんから。
ほら、シュリンツカも私のことなんて放っておいて早く行って。
私は後から行くから、大丈夫よ。」
私が王子様の重圧に耐えてなんとか絞り出した早口言葉を聞いてもまだシュリンツカは躊躇った。
お願いだから私のためにも早く行ってほしい。
そんな切実な願いを込めながら彼女を見ると、彼女は渋々わかったと言い、王子様と一緒に食堂へ出て行った。
そしてやっと食堂がいつも通りの賑やかさに戻り、徐々に他の生徒達も教室へと帰っていった。
…私と、いじめっ子三人衆以外は。
バサッという音とともに私の頭に彼女達が食べ残した残飯がかけられる。
彼女達を怒らせた理由はもう判明している。
学園全員の憧れの王子様と一緒にいたからだ。
だから面倒なことになると思ったのだ。
本当についていない…と思いながら下に俯くと、一人に赤毛を無理やり捕まれ顔を上げさせられた。
目線の先には主犯であろうたて巻きロールの女がニタニタと笑っている姿が見えた。
「ねぇ、なんで私達貴族令嬢が簡単に喋ることのできないカイロス様と芋女が喋っているのかしら。
あの光の聖女も気にくわないけど、それに便乗してるアンタはもっと気にくわないわ。ねぇ?」
「「そーよ、そーよっ!」」
便乗?勘違いもいい加減にしてほしい。
あれは便乗なんかじゃないし、誰が便乗してまであんな王子と喋りたいと思うのか。
大体シュリンツカを傷つけられないなら私を代わりに痛めつけてるだけのくせに、なにが便乗だ。
本当に、いい加減にしてほしい。
そう思って目の前の女を冷たい目で見ると、女は逆上し、私の頬を叩いた。
女の長い爪によって頬が切れ、血が流れていくのが見えなくてもわかる。
「なによ、その目。
いいこと?これで懲りたら二度とカイロス様に近づいたりするんじゃないわよ。
あと、光の聖女に私達のこと話したりしたら承知しないんだから。」
そう言ってたて巻きロールが去るのと共に、他の2人も食堂から出て行く。
そしてその後すぐにチャイムが鳴ったが、こんな姿で授業に出られるわけもなく、私は黙ってその場を片付けてトイレで残飯を落とし、裏庭へと向かった。
もうどうせ、授業になんか間に合わないしやる気も失せた。
きっとまたサボったと先生に怒られるだろうな…まぁいいか。
開き直った私は教室とは真反対の方向へと歩き出した。
私にとって裏庭はお気に入りの場所だ。
中庭と違って陰気臭いから人が来ることはないし、シュリンツカも私がよくここにいると知らない。
私だけの安息の地…と思ったのだが、どうやら今日は先客がいたらしい。
私がいつも座っているたった1つだけある古びた木のベンチには、不吉と言われている黒猫があくびをしていた。
その姿はとても愛らしく、私の荒んだ心も少しずつ暖まる気さえする。
「お邪魔します。」
私は言葉が通じないであろう猫にそう言って、猫を抱き上げベンチに座り、猫を太ももの上に置いて撫でた。
有り難いことに猫は大人しい性格らしく、ミャオ、と一言鳴いて尻尾をゆらゆらとさせながら撫でられるがまま私の太ももの上に寝そべってくれた。
猫は赤と黒の珍しいオッドアイだった。
「かわいいね、あなたは。
私達と違って、本当に綺麗だね。」
そう言って撫でると、猫はふいにコッチを見てミャオ、と一言鳴いて私の手に尻尾を絡ませた。
今のは慰めととっていいのだろうか。
もしかしたら、私の言葉がわかるのかもしれない…なんて、馬鹿なことだ。
私はもう夢見がちな少女になれる年齢でもない。
…だけど、何故かこの猫になら何でも話せる気がした。
この猫にくらい、行き場のない感情を聞いてもらってもいい気がしてしまったのだ。
それから私は裏庭に来ては猫を撫でながら自分の話を一方的に話すようになった。
私の住んでいたシシー村はごく一般的な農村で、ナズィーラの東端に位置する村だった。
決して豊かではないけれど、貧しくもない。
そんな小さな村で私は父と母に育てられてきた。
ある日、7歳だった私は家の近くにある村で一番大きな木の下で泣く同い年くらいの女の子を見た。
見たこともない美しい金髪に目を取られ、何事かとよく見てみると女の子は青い瞳をウルウルさせて唇を噛み締めていた。
その姿さえ美しかった少女を見て、私は幼いながらに赤毛で茶色い瞳の地味な自分とは格が違うとすぐに察した。でも、そんな不自由なさそうな子が何故こんなところで泣いているのだろう…そう不思議に思いながら洗濯物を干していると、偶然近所で井戸端会議をしていたおばさん達の会話が聞こえてきた。
「ほら、あの子が例の子じゃない?
あの、つい最近悪魔を封印するために片腕を失ったっていう英雄の娘さんよ。
母親はもう死んでしまっていて、父親も命は取り止めたけれど、今は深い眠りについてしまったらしいのよ。」
「まぁ、そうなの?可哀想にねぇ。
だから王都から離れたこんな田舎の村に預けられたのね。
確か、預かっているお婆さんは遠い親戚なんでしょう?
お婆さんも本当にお人好しよねぇ。」
そう言ってクスクスと笑うおばさん達に嫌悪感を抱いた私は洗濯物を素早く干し終わり、机の上に置いてある籠からリンゴを1つとって台所にいるお母さんに「出かける」と声をかけ家を飛び出した。
背後からお母さんの声が聞こえた気がするけど、そんなこと気にしていられなかった。
悪魔が何なのかはよく知らないけれど、腕を失うことが大変なことだということくらいは私も理解できる。
それなのに命を張って片腕を失ってまで世界を救った英雄の娘。
つまり、私達にとってあの子は命の恩人の娘にあたるということ。
昔から母に恩を忘れるな、と言われ育った私はあの子に恩を返さなければ、と強く思った。
…だからこれは恩返しであって、決して一人で泣いていたことへの同情じゃない。
そう自分に言い聞かせながら、女の子の前に立ち、私は息切れしながらリンゴを差し出す。
「泣かないで、一緒に遊ぼう。」
そして俯いて泣いていた女の子、シュリンツカは美しい顔をゆっくりと上げた。
それが私達の出会いだった。
そして12歳の時、5年間の静養を終え右腕以外無事完治した光の勇者であり、シュリンツカのお父さんでもあるフィデルガー伯爵がシュリンツカを迎えにきた。
だけどその時には私とシュリンツカは大の仲良しになっていて、特にシュリンツカは私への依存度が高かった。
当時の私はその事に快感を感じることはあったが、嫌になるなんてことは一切なかった。
そんな私達の様子を見て伯爵はとても喜んで、元々シュリンツカを入れる予定だったこの学園に私も通ってはどうだろうかと提案してきたのだ。
まだ幼く先の見えない子供だった私は無邪気に喜んだ…が、両親は違った。
「そんな、悪いです。
ウチの子は平凡な子で、とてもそんな貴族様の学校へ行けるような子じゃ…」
「いえ、そんなことありませんお母様。
フェリスはとても良い子だし、きっといい経験になると思います。
それにこれはシュリンツカの為でもあるんです。
どうか娘達の将来の為にも引き受けていただけないでしょうか…」
正直、私の両親はこの話に最後まで納得いっていなかった。
それもそうだろう、この国にはカースト制が生きているというのに、たかがいち農民が貴族の学校に行って本当に幸せになれるだろうと考える親などいない。
両親には私が惨めな思いをすることは目に見えていたのだ。
だけどそんな両親も最終的には私の意思を尊重し、学園へと行くことを了承してくれた。
学園を旅立つ時に母にかけられた最後の言葉が忘れられず、今でも夢に見ることがある。
『大きな決断はいつだって責任や後悔をともなうわ。
フェリス、貴女は本当にその責任を取れる?後悔しない?』
『もちろん!』
…今となっては本当に馬鹿なことをしたと思うし、幼かった頃と違って母の言葉の重みも十分理解できるようになった。
もし、もし出来るなら、またあの温かな家に戻りたい。
お父さんやお母さんにほら言ったじゃないと呆れられながら抱きしめてもらいたい。
だけど、私にもう帰る家はない。
シシー村は私が旅立った半年後、突然の流行病で全滅してしまった。
私がいくら泣き叫ぼうと、もう誰もあの村には残っていないのだ。
当時シュリンツカは私を心配して常に寄り添ってくれたが、私の心の穴は埋まりきらず、後悔とともにゆっくりと冷たく凍って封印された。
これ以上、大事な友人であるシュリンツカを心配させたくなかった私は封印することで彼女の前ではなんて事のない風に振舞うことができるようになった。
そしてさらに1年後、シシー村の件で傷ついた心が少し落ち着いた頃、神殿からシュリンツカが約千年ぶりの光の聖女となり、第2王子のカイロス様が光の騎士となってシュリンツカを守るというお告げが下った。
このことをそれはそれは皆大騒ぎで喜んだ。
光の聖女がいる限り、世界は安泰だという伝説があるからだ。
だから当初は私もシュリンツカを抱きしめて喜んだ。
…ちょうどその頃から私に対する嫌がらせがエスカレートしていくと知らずに。
入学した時は「平民ごときが」などというよくある陰口程度で済んでいたし、シュリンツカも可愛いからと妬まれ陰口を言われることはよくあったので大したことはなかった。
ずっと2人で一緒だったし、不安など感じる暇もないほど学園での生活が楽しかったのだ。
でもシュリンツカが光の聖女になってからは、全てが変わった。
貴い存在となったシュリンツカは陰口すらめったに言われなくなったし、シュリンツカと同じ生活が送りたいとわざわざ学園に編入してきたカイロス様と仲良くなってとても幸せそうだった。
だけど、私は違う。
彼女が光の聖女として相応しくなっていき、カイロス様と仲を深めれば深めるほど、私と彼女の距離は遠くなって周囲の妬み嫉みは深くなっていった。
その矛先は全て彼女の友人であり平民の私に向き、ただの陰口からより暴力的なものへと変化していったのだ。
汚い水や残飯に汚れた私を見たシュリンツカはいつだって怒ってくれる。
だけど、私への関心は光の聖女となる前より明らかに低くなったはずだ。
それを示すかのように彼女は私の隣にいることは少なくなり、いつだって私が汚れた姿になってから助けに来てくれるのだから。
私はなんで、こんな目にあってまでこの学園にいるのだろう?
主役である彼女を引き立たせるため?
脇役の可哀想な私のために彼女が怒り、光の聖女に相応しいその心の清らかさを示すためだろうか。
最近は汚れた服を洗いながら、ずっとそればかり考えている。
猫と会って1ヶ月が経った。
以前よりはるかにふえた打撲や擦り傷が身体中で痛むが、私は今日も言葉を返してなどくれない猫に1人いつも通り話しかけていた。
今日はついさっき廊下で水をかけられてずぶ濡れだったが、猫は嫌がらず私の太ももの上に座ってくれた。
その可愛らしさに私の口元が緩む。
「本当に、あなたは優しいんだね。
今日も私は一人ぼっちってわかってたのかな。」
そう言って撫でていると、校内からザワザワとした声が聞こえる。
それもそうだろう、今は昼休みだ。
シュリンツカは今日も授業が終わってすぐにカイロス様に連れられてどこか行ってしまった。
だけどそれも数日前からなので、もう慣れてしまった。
廊下で水をかけられたのも一度や二度ではない。
だけど生徒だけでなく学園の先生でさえ、私が取るに足らぬ平民だからと目を背ける。
一度他の生徒や先生に見られても問題なかったと分かったいじめっ子達が調子に乗るのも無理はなかった。
だけどそれももう数えきれないくらいなので、慣れた。
そう。私は、全部慣れたのだ。
無理やり言い聞かせるように私は猫を抱きしめた。
猫は一瞬強張ったが、私が震えているのに気づくと大人しくなり、ミャオと一声鳴いた。
その声は私への慰めの言葉にも聞こえる。
「っ、もう、私、なんでここにいるのか、自分でもわからないよっ…」
ポタ、ポタ、とスカートに水滴が溢れる。
それが涙なのかさっき廊下でかけられた水なのかは到底区別がつかなかった。
最早、どうでもよかった。
泣こうと泣くまいと、私には帰る場所も居場所もない。
いっそこのまま消えるのだって悪くないと思った。
「消えて、なくなりたい…」
「ふーん、いいんじゃない?
どうせお邪魔虫なんだし。
せっかくだから優しい私が手伝ってあげるわ。」
猫と私だけが居るはずだった空間から異質の声が聞こえて、私は驚きながら声が聞こえた方向…上を向いた。
そこにはいつも3人で居るいじめっ子の1人がニッコリと笑い、今にも私めがけて植木鉢を手放そうとしていた。
女はおそらく3階にあるどこかの部屋にいるのだろう。
あの高さから植木鉢なんて硬いものを落とされたら私は確実に死ぬ。
それだけじゃない、下手したらこの腕の中にいる猫も…それは、それだけはダメだ!
だから私は女が植木鉢から手を離そうとした瞬間、咄嗟に猫を庇った。
この猫だけは巻き込んではいけない。
私を慰めてくれた優しい猫を巻き込むものか。
それだけしか、私の頭に残っていなかった。
次の瞬間、ミャオ…と猫が静かに鳴いた。
そして、バリンッ!と陶器の割れる音が鳴り響く。
あぁ、割れた…あれ?割れた?
既に植木鉢は割れたはずなのに、私に来るはずだった衝撃は未だにやってこない。
一体なにが起こったの?
私は恐る恐る目を開け、上を向いた。
するとそこには、静かに血を流しながら窓枠にダランとぶら下がる女がいた。
先程まで愉悦感に満ちていた瞳は生気を失い虚ろになっている。
なんで、あの子が、あんなことに…
「い、いやぁぁぁぁぁ!!!!」
私は自分の頭を抱えて叫ぶ。
そして、そのまま気を失った。
女が死んで数日が経った。
あれから誰も私をいじめなくなったが、そのかわり私は呪われているという噂が広まった。
それもそうだろう、女の死は明らかに不自然だった。
女が私に落とそうとしていた植木鉢が突然女の手元で割れて、偶然それが首に刺さって女は死んだのだ。
どう考えても事故ではない。
だけど当時こっそり私を監視していた女の周辺には人がいなかったし、下にいた私が女を殺せるはずもない。
だから学園の人々は私を恐れ、不気味がり、さらに近寄らなくなっていった。
私もそれが普通の反応だと思うし、私もそうしただろう。
だけど彼女は違った。
「フェリス、次の教室に行こう?」
事件が起きてからというもの、シュリンツカは再び私の近くにいることが多くなった。
カイロス様の誘いも断る事が多くなり、きっと私は更に彼に嫌われただろう。
なぜこんなにも不気味がられている私の側にいてくれるのか彼女に聞くと、いつも同じ答えと抱擁が返ってくる。
「フェリスのことが心配なの。
私はフェリスがそんな事しないってわかってるから安心して。
大好きだよ、フェリス。」
私はそれを聞くたび、嬉しくなり、そして空虚感に襲われた。
彼女の「心配」は本当に心配なのか。
本当はただ私を「監視」しようとしているだけじゃないのか。
そう思えてしまったのだ。
こうなったのは全て…
心の中でさえ先の言葉を言えない私に、心がギュッと痛くなった。
自分の不幸を他人のせいにするのは嫌だ。
事実シュリンツカは私を学園に誘ってくれただけだし、行くと決めたのは私だ。
彼女に責任がないことくらい分かっている。
だけど、じゃあ、私の不幸は一体誰のせいだというのだろう。
『フェリス、あなたはその責任をとれる?後悔しない?』
うんお母さん、わかってるよ。
私が不幸なのは私の責任だし、後悔なんてしてないよ。
『大好きだよ、フェリス。』
うんシュリンツカ、私も大好きだよ。
『自分は悪くないよ。
悪いのは周り。とっくの昔に死んだお母さんの言葉をいつまで気にするの?』
そんなこと、私は言わない。
私は自分の責任を自分でとってみせる。
自分の蒔いた種は、自分で刈り取らなきゃ。
…でも、もし、あの時話しかけなければ。
貼り付けた笑みの下で、心に大きなヒビが入る音がした。
いつもの裏庭。
猫は相変わらずベンチに座って眠そうに日向ぼっこをしていた。
私はその猫を抱き上げ、いつも通り太ももの上に乗せた。
猫は気持ちよさそうに私の太ももに顔を擦り付け、寝そべった。
その様子を見て、私は口を開いた。
「ねぇ、猫さん。
どうやったら私は死ねるのかな。
…もう、生きるのをやめたいの。」
突然自殺の相談をする私に対して、猫はチラッとこちらを一見して、ミャオと一声鳴いた。
鳴き声はいつも通りだった。
…私は言葉を返すはずもない猫に何を聞いているのだろうか。
自分でも何をしたいのか理解できない。
でも、とにかく今すぐ消えたかった。
あのまま植木鉢に当たっていれば、死ぬのは私だったのに。
そう思って上を向くと、ガサガサと右奥から草をかき分ける音が聞こえた。
どうやら誰かが来てしまうらしい。
私は無意識のうちに猫を抱き上げた。
「…またこんなところにいるのね。
流石呪われた不気味女。
あんたの、あんたのせいよっ!
あんたのせいで、エルマが…妹が死んだのよ!!」
そこにいたのは3人のいじめっ子の1人で、死んだの女の双子の姉だった。
確か子爵令嬢で、名前はシャルマといった気がする。
いつもこの双子はシャリア伯爵令嬢の手下となって私をいじめてきたのだ。
般若のような表情を浮かべたシャルマは片手に果物ナイフを持っていた。
少ししか尖ってないが、殺そうと思えば人を殺せる能力くらいはあるはずだ。
あぁ、これは神様が私にくれたチャンスなのかもしれない。
私は静かに微笑み、立ち上がって猫をベンチの上に戻した。
関係のない猫を巻き込むほど私は愚かではない。
その様子を見たシャルマは何を勘違いしたのか、更に逆上した。
「なんで笑ってんのよ!
平民のくせに、私を馬鹿にしてるの?
許さない…許さないんだから!」
そう激しく叫んで、シャルマはナイフを私に向けながら突進するように走った。
きっと、私の人生はここで終わるだろう。
誰を責めることもなく、自分の命をもって責任を果たすのだ。
私は目をつぶって、その時を受け入れた。
そして目をつぶった時、ミャオと猫の鳴く声が聞こえた気がした。
またも、来るはずの衝撃はこなかった。
だけど今回は前回と違って、沢山の血を浴びた。
それもそうだろう、目の前でシャルマの頸動脈めがけてナイフが飛んでいったのだから。
私は血まみれになった自分の身体と目の前に倒れるシャルマの遺体を見て、しゃがみこんだ。
また、なんで、なんで…私は本当に呪われているのだろうか。
でも、"死ぬことが出来ない"なんて呪いが存在するのだろうか。
もう意味がわからなかった。
目の前で人が死んだことに対するショックか、また死ねなかったことへの悔しさか、私は涙が止まらなくなった。
「なんで、なんで、なんでわたしだけっ!!」
「そんなに死にたかったのか?」
1人泣き叫んだ声に、低い男の声が返ってくる。
何の気配もしなかった後ろから突然聞こえた声に、私は慌てて振り返った。
そこには暗闇のように濃い黒色の髪と、血のような紅色と髪と同じくらい濃い黒色のオッドアイをした美しい青年がいた。
私より10歳ほど年上に見える青年はこの国で一番美しい男性といわれるカイロス様をはじめとした王族の方々や騎士団長よりもはるかに美しかった。
いや、これは世界で一番美しいのかもしれない。
私は青年のあまりの美しさに目を奪われそうになった…が、状況がそれを許してくれなかった。
シュリンツカが息切れしながら、この場に現れたのだ。
「フェリスっ、大丈夫!?
さっきシャルマがナイフを持って……え、なんで、こんな…」
シャルマの血まみれになった遺体を見て、シュリンツカは言葉を失う。
それもそうだろう、私は自分が死ぬことや目の前の青年で頭が一杯になっててそれどころではなかったが、普通はこんな悲惨な状態の遺体を見たら言葉を失うはずだった。
私は一体、何をしていたんだろう。
人が、人が目の前で死んでるのに、知らない男の人に見惚れて…それどころじゃないはずなのに。
今、今私がしなければいけないことはなに?
そうだ、シュリンツカを落ち着かせて一緒に先生に報告しなきゃ。
私は彼女の元へ近づき、手を握ろうと彼女の方へ手を伸ばした…が、それは彼女によって弾かれた。
「触らないでっ!」
「え………?」
弾かれたことによって、ようやく真正面から彼女の顔が見えた。
その顔は私への不信感に満ちており、今にも泣きそうなほど歪んでいた。
なんでそんな…そんな顔をするの。
私は、私は殺してないのに!
そんな心の叫びが彼女に届くことはなかった。
「フェリスのこと、信じてたのに!
…なんで、なんでそんな風になっちゃったの?昔のフェリスなら、いくら憎くても人を殺したりなんかしないはずだよ。
お願いだから、昔の明るくて優しいフェリスに戻ってよ!!」
そう叫ぶように言ってシュリンツカは顔を抑えて泣き出してしまった。
…泣きたいのはこっちなのに。
"昔の私に戻れ?"
昔も今も私は私のままだ。
もし違うように見えていたのであれば、それは私が大丈夫そうなフリをしているかしていないかの違いなだけ。
本当の私は今の私なのに、なんで、なんで私を否定するの?
今の彼女は話も聞いてくれそうにもない。
いや、そもそも聞く気などないはずだ。
私の前で二度人が死んでいる。
それだけが彼女にとっての疑いようのない事実。
でも、それじゃあ、私は…
「私は、どうすればよかったの?」
宙に浮いた言葉は誰にも届かない。
誰にも届いてはくれない。
私は膝から崩れ落ちた。
身体の中で、何かどす黒いものが渦巻いている。私の心に入ったヒビは大きくなり…ついに割れた。
中身が溢れてしまった私にはもう、なにも残ってなかった。
目の前で泣いているシュリンツカに対しても、何も感じなかった。
身体が軽くなっていく。
その心地よさはもっと早くにこうなっていたら楽だったようにすら感じてしまうほどだった。
「やっと、壊れた。」
今の今まで気配が消えていた青年の愉快そうな声が再び聞こえる。
それはまるで、"悪魔"のように魅惑的な声だった。
その声を聞いたシュリンツカは泣くのをやめ、怯えた目で私の背後にいるものを見る。
「なんで、なんでそいつがここに?」
震えた声…光の聖女の視線の先には世にも美しい青年。
青年の正体は?
その答えはもう1つしかないはずだ。
あぁ、そうだ、そうだったんだ。
なんで今まで気づかなかったんだろう。
黒色の毛、赤と黒のオッドアイ…あの猫だ。
2人の女が死ぬ前に必ず鳴いていた猫。
悪魔は人を魅了する美しい声と容貌をしていて、たった一言で人や物を操り、生き物を殺せると聞く。
その色は黒色で、血の色である赤を好む。
全て、幼い頃に聞いた悪魔の特徴だった。
私の話を聞いてくれた猫は、悪魔だったんだ。
「あなたは、悪魔?」
確認のために聞くと、悪魔は不思議そうに首を傾げた。
「人間は俺をそうやって呼んでるが、そんな種族は存在しない。
俺の名はヴィドラウス、黒の力を司るものだ。」
大悪魔ヴィドラウス。
聞いたことがある。
それは確か、シュリンツカの父親が片腕を失ってまで封印した悪魔の名だったはず。
いつ封印が解けたのだろうか。
それにこの学園は確か光の守護があるはずだ。彼は一体いつからこの学園に忍んでいたのだろうか。
そんな私の疑問を見透かすように、ヴィドラウスはニヤリと笑って口を開いた。
「封印は人間が解いたんだ。
あれは愉快になるほどとても欲深いやつだったなぁ…光の聖女を殺せとここに招き入れたのも人間。まったく本当に人間は低脳だな。
人間のように弱い生き物が同族同士で争うなんて不毛なのに。」
「封印を、人間が解いた…?」
嘲るように笑ったヴィドラウスにシュリンツカが絶望したように呟く。
それもそうだろう。シュリンツカは性善説を信じてるから、基本人間はみんな良い人だと思っている。
だから人間が私欲の為に封印を解くとは考えもしない。
それを聖女として素晴らしいと言う人もいるが、ただの世間知らずだと私は思う。
無垢であり、無知であることは時に他人を傷つけることも知らずに彼女は日々幸せそうに笑っているのだ。
そしてたった今突然現実を突きつけられ、人生最大の悲劇のように悲しんでいる。
なんと滑稽なことだろう。
「ハッ、浅はかなやつだ。
約千年ぶりに光の聖女が生まれたと思ったらこれか。光の聖女ってのは馬鹿が多いのか?
まったく期待はずれもいいところだ。
…まぁ別の収穫もあったことだ、もうここには用はない。」
それに今バレると面倒だ、と言ってヴィドラウスは俯いたままのシュリンツカから私へと視線を動かす。
そして一瞬のうちに私を引き寄せ、腰を掴んで抱き寄せた。
私はあまりにも突然の出来事に、呆然と悪魔の言葉を聞くしかなかった。
「初めてあった時からお前には興味があったんだ。
その赤毛も、貼り付けた笑みも、簡単に壊れそうな不安定な心も、全てが俺の好みだ。
特にお前の灰色に染まっていた心を壊していくのはとても楽しかった。
俺はもう少しお前を見ていたい…だからフェリス、俺と契約を結ぼう。
なに、簡単だ。キスをすれば契約完了で、お前はもう普通の人間じゃ無くなる。」
「普通の人間じゃなくなる…?」
「そうだ、その壊れた心に見合った存在になれるんだ。
そしたらもう、なにも苦しくはない。
帰る場所も居場所も俺が用意してやるし、なんでも叶えてやる。」
「帰る場所や居場所も…」
悪魔の言う事はとても魅力的だった。
彼は今の私にないものを全て用意し、叶えてくれる。
今の私にこれ以上の幸せなんてないような気がする。
私はゆっくりと頷き、悪魔の美しいかんばせへ顔を近づける。
そしてあと少しで届くという時、シュリンツカが叫んだ。
「ダメよフェリス!!
一度堕落して魔女になったら決して幸せになれない。元には戻れないの!
魔女は悪魔に言われるがまま無作為に人を傷つけ、ただ悪魔に食い尽くされるだけの存在なの。
だけど堕落さえしなければ、救いはある。
心が清ければ、救いは訪れるの!
お願い、お願いだから私の事を聞いて…信じて!」
お願い!と言い続けるシュリンツカ。
そうよね、人間でいれば幸せに…なんて、誰が信じるものか。
光の聖女だからって夢見がちなのも、自分の意見を押し付けるのもいい加減にしてほしい。もう、懲り懲りだ。
正直言って私はシュリンツカと出会ってから今まで人間でいて、一度も幸せを感じることはなかった。
そして今堕落しなかったらきっとこれからも、人間であることに私は苦しめられるだろう。
全てはシュリンツカと出会ったせいで。
私を苦しめたのは、貴女なのに。
私は悪魔から離れて、泣いて私を止めようとするシュリンツカに近づいて手を差し出した。
それを見たシュリンツカは微笑み、私の手に自身の手を重ねようとする。
私は今までで一番の笑みを浮かべ、その手を思いっきり弾いた。
その姿に悪魔は心底面白そうに笑い、弾かれた当本人は意味がわからないという顔をしていた。
「ねぇ、シュリンツカ。
これだけは覚えておいて。
私の心を壊して堕落させたのは家族が死んだからでも、虐められたからでも、悪魔に誘惑されたからでもない。
一番信じてもらいたかった親友のあなたにこうやって手を弾かれたから、だということを。」
そう言って私は人生で一番狂ったように笑った。
その姿を見たシュリンツカはまるで悪魔を初めて見た時のように青ざめ、そして涙を一滴こぼした。
その姿を見て、以前なら痛んだであろう心も壊れたせいか動じなかった。
そうしてようやく満足した私はヴィドラウスの元へ戻る。
ヴィドラウスはまだ面白そうに笑っていた。
「はは、お前もやるなぁ。
なかなか面白かった。」
「ずっと言いたかったことをやっと言えただけだよ。
さぁ契約を結びましょう、猫さん?」
了解、といってヴィドラウスの顔が近づいてくる。
私はそれを微笑んで受け入れ、唇を重ねた。
深く長く口づけをすることによってヴィドラウスの黒色が私の身体中を巡っていくことがわかった。
不完全だった灰色は漆黒の黒に染まり、まるで身体の細胞組織が隅々まで組み替えられていくような気分だった。
口づけを終えると、人参のような赤色だった髪の毛が燃える炎のような色に変わっていた。
もしかしたら瞳の色も変わっているのかもしれない。
身体中には黒い力がみなぎっていて、とても気分がいい。
あぁ、これが魔女なのか。私は高揚感に包まれた。
そんな私を静かに見ていたヴィドラウスが突然私の腰を抱いて指を鳴らす。
すると目の前に扉くらいの大きさのブラックホールが発生した。
「光の聖女に迎えがくる。
俺たちはさっさとここを去らせてもらおう。」
「…そうだね。」
確かにここでカイロス様と会ったりしたらいきなり剣を向けてくるかもしれない。
魔女にはなったが、流石に成り立てでそれは遠慮したい。
それにまだ私に戦闘力や防御力があるのかも謎だ。
元が平凡な農民の娘だから大したことはないんだろうけど…例えば目の前のこのブラックホールは私にもできるのだろうか…と思いながらジッと見つめる。
その考えを知ってか知らずか、ヴィドラウスは呆れたように「後で教えてやるから、もう行くぞ。」と言った。
そうだった、今は逃げなければいけないのだ。
私は準備万端とばかりにヴィドラウスにくっついた。
新しい世界へ旅立つ気分の私は、少しドキドキしながらブラックホールを見つめた。
「さぁ、行くぞ。」
「まって、まってよフェリスっ!!」
後ろからシュリンツカの声が聞こえた気がしたが、私は迷いなくヴィドラウスと一緒に暗闇の中へと飛び込んだ。
隣にいるのは人を気まぐれに沢山殺してきた最低最悪の悪魔だが、不思議とシュリンツカの隣にいる時よりはるかに大きい安心感があった。
目を瞑っていつものように思い出していた母の言葉は、もう思い出せない。
でも不思議と心は解放されていた。
世の中で忌み嫌われる魔女に堕落したはずの私の心は、人間の時よりどこまでもどこまでも果てしなく自由だった。
悪魔の猫が、堕落が、私を救ったのだ。
私は宝物を手放そうとしない子供のように強くヴィドラウスを抱きしめた。
「私を助けてくれてありがとう、ヴィドラウス。」
暗闇の中。
その少女の切実な言葉が悪魔に届いたのかは、誰も知らない。
急いで書いた話なので後から訂正が少し入ります。
誤字などありましたらご報告よろしくお願いします。