サイコパスな怪談昔話
それはそれは、とんでもなく現在のことじゃった……。
御主等はあの有名な風邪薬を飲んでおると、何故か一錠だけ余る事は無いじゃろうか……?
それはな、あやつ『妖怪一錠仕込み小僧』の仕業じゃ。
あの小僧はそれはそれは悪戯が大好きでのぅ……。
小僧は風邪薬が無くなりそうな家に忍び込んでは、何故か一錠だけ余るように仕込んでいくのじゃ。
なんじゃ? 何故小僧が風邪薬が無くなりそうな家が判るのかじゃと?
そんな事、わしが解るものか。きっと、妖怪的な何かが働いておるのじゃろう。
ほれ、今日も風邪薬が無くなりそうな家に忍び込んで、一錠仕込んでいったわ。
さてさて……この家の奥方は、次に服用する時にどんな顔するのか……、楽しみじゃわい。
………………その時夫の耳に電源音がすると共に、空想世界は光でかき消され夫を現実世界へ引きずり戻す。
背後に異様な気配を感じた夫。おそるおそる後ろを確認すると、そこには蛍光灯のリモコンを手にした妻が立っていた。
「あーなーたー♪ 今ー♪ 娘にー♪ 何をー♪ 聞かせていたのかしらー♪」
とてもにこやこな口調で話かける妻。
夫は思った。目も、鼻も、口も、耳だって笑っている。
しかし……、だけど……! その顔は笑ってはいない……!! と。
それでも夫は平然と妻に切り返した。
「いや、何って……、いま旬の『怪談昔話』を聞かせていたんだけど……」
それを聞いた妻は案の定激昂し、夫の右腕を握ると台所へと強く引っ張る。
「ちょ、ちょっと! 痛いんだけど!」
「うるさい! いいから、こっち来なさい!!」
そして、台所に連れ込むと妻は夫を叱り出す。
「あれのどこが『怪談昔話』よ!? 時代背景が現在だし、とどのつまり、不法侵入して風邪薬を入れていったってだけじゃない!? 良く考えたら普通の怪談より怖いわよ!!」
「君も前は、130は3で割れないのに『また一錠余った!』って大騒ぎしてたよね。見てて面白かったよ」
叱られているにも関わらず、さらりと妻の古傷をえぐる夫。
「あ、あれは……ちょっと勘違いしただけで……。じゃなくて! いつもいつも私の目を盗んで、娘に変な事を吹き込むなって言ってるの!! いい加減分かりなさいよ!!」
「うーん、今回は力作だと思ったんだけどなぁ……? どうして受けないのかなぁ?」
「ウケ狙いの『怪談』って何よ……?」
胸の前で腕を組み、首を捻る夫。それを見た妻は一言。
「あなたが思っているほど、周りは面白いとは思って無いからね………?」
「うん、これはあれだな!」
「あなた……こう言うつもりでしょ……?」
今までの夫の行動から次の言葉を予測する妻は、正に何か閃いたように腕組を解く夫に合わせて、同時に声を発する。
「次の『怪談昔話』を考えよう!!」
「次の『怪談昔話』を考えよう!!」
え……?
あの風邪薬、135錠になったんですか!?
3で割れちゃうじゃないですか!
……だからどうしたとか言わないで下さい……。