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魔法も剣も使えない最強  作者: 戻れない青春
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4話 お金は大事だよ

 京矢は午後の戦術の授業を受けに、戦術室にやってきた。

「やっぱ人多いな。魔法使い志望も含めて全員いるなら当たり前だが」

「まあ最近は魔法を使える人が多いし、わざわざ危険を冒してまで接近戦をしようなんて考える奴は少数派だからね」

 京矢はパインの言葉を聞いて、自分の状況がとても悪い事に気付く。

「これは不味いな。少数派で落ちこぼれ、目立ちたがりの馬鹿にしか見えねえな。ああ、早速俺への目線がちらほらと」


 剣技の授業を受けていた同期達が、京矢の事を話題にして魔法専攻の同期と話している。

 京矢をチラチラと見ながら、たまに指をさし、顔を見合わせてはゲラゲラと笑っている。

「醜いね。僕が存在を消してやろうか」

 パインは殺意を剥き出しにして睨みつける。京矢の目にはパインの体が一回り大きくなったように見えた。

「やめろ。俺はこういうの慣れてるって言ったじゃねえか。その気持ちは嬉しいが、無闇に人を傷つけるのはよくねえ」

 パインは眉をひそめて首を傾げる。

「まあいいや。僕は一応君の使い魔だからな。君がそれでいいなら僕もそれで構わない」

 京矢は1つ溜息を吐くと適当な席に座る。


 数分経つと授業開始の鐘が鳴る。しかし、誰も教壇に立っていない。

「鐘が早く鳴ったのか、教官が遅れてんのか。何れにせよ管理体制が悪いな」

「そうかな?僕は人間社会にそこまで詳しい訳じゃないから、分かんないだけかも知れないが」

 パインの言葉を聞いて、京矢は自分の世界とは違う事を改めて気付かされた。

「俺の世界じゃ1秒でも遅れたら信用を無くす。給料が時間によって決まっている社会だからな。その時間の管理体制を、ガキにまで強要しているのが日本。基本的に、時間通りに動けない奴は社会から排除される、あるいは左遷だ。国は義務教育でそれをガキに叩き込む。日本人は公の場では優しいが、組織1つ1つで見れば本性が丸裸だ。感情論に身を任せて衝動的に行動、そして負の連鎖を起こす。強者は弱者に暴言や暴力を振るい、弱者は更に弱い者に。そうして最底辺の人間が不満を募らせ、何かしらの社会的な問題行動を起こす。狂気染みた犯罪者となるか、この体勢を打ち崩す為に立ち上がるか。そうして社会に影響を与える。どこの茶番劇ですかってそろそろツッコミしてえな。そんな感じで成り立っているのが今の日本だ。こんな世界で生きていて、客観的に分析出来ている俺を褒めてくれてもいいんだぜ」

 長々と日本について語った京矢を見てパインは半笑いで返答する。

「あ、ああ。よく理性を保ってるな。偉い偉い」

(君さっき思いっきり管理体制が悪いって言ったじゃないか)

 そうして2人が話していると、魔法学の教官が入ってきた。

「本日は戦術の教官は都合により休み。てことで〜、今日の授業無し!はい解散〜」

 魔法学の教官はそれだけ言うと10秒も経たない内に出て行ってしまった。

「なんなんだ……」


 京矢とパインは急に暇になったので、街に出てきた。

「さて、パイン教官、相場についてご教授願います」

「うむ、よかろう」

(なにこのノリ)

「僕が部屋で教えた事は覚えてるか?」

「ああ。一番価値の低い貨幣が白金貨、それから金貨、銀貨、銅貨って高くなってくんだよな?」

「その通り。その中間にある大銀貨、大金貨、大白金貨を忘れるなよ?その順番になっているのは、希少価値の問題だ。白金は幾らでも取れるが銅は滅多に取れない。銅は、何かの研究に使う材料にもなるらしいからな。貨幣になる割合も限られてる」

「やっぱ何度聞いても違和感を感じるぜ。確かに、銅が色々な実験に使えるのは知ってるが」

「君の世界じゃありふれたものなんだろ?君の世界の銅貨をこっちに持って来ればそれだけで一月は暮らせるな」

「ガキの小遣いがとんでもないモンに早変わりだな。まあ10円玉は100%の銅じゃねえけど」

「それでも、銅が含まれている時点で凄いお宝になる筈だ」


 2人が歩きながら話していると、いくつかの出店が見えてきた。

「あれは果物屋か?」

「そう、果物屋。全ての果物は、栄養が豊富なだけでなく、魔力増強の効果がある。剣士でも魔法使いでも関係なく人気があるんだ」

「なるほどな。買ってみてえが」

「金がない。だろ?」

「いや、ねえ事はねえんだが、使えねえっつーか……」

「何だ、はっきりしないな」

「これなんだが」

京矢はポケットから、10円玉を5枚、50円玉を1枚、100円玉を3枚取り出した。

「なっ……!」

「な?」

 パインは京矢の取り出した硬貨を見て固まった。

「これのままじゃ使えねえだろ。換金所でもあれば話は別なんだが」

 パインは我に帰ると、険しい顔をして京矢を先導する。

「換金所はこっちだ……」

「マジかあんのか出来んのか」


 暫く歩くととても大きな建物の前に着いた。

「ここは銀行だ。通貨を預けたり、引き出したり出来る。換金も行なってる」

 パインは換金所の受付に向かう。京矢は少し辺りを見回してからパインの後を追った。受付に立つと、京矢は受付の女性に話しかけた。

「すみません。換金したいんスけど」

(キョウヤのフィルドム語がレベルアップしてる……)

「はい。どちらを換金なさいますか?」

「これっス」

 京矢は手に握った日本貨幣を静かに置いた。

「はっ……」

 受付の女性は目が点になった。自分の目の前で何が起きているのか理解できない。そういった表情をしていた。

「大丈夫っスか?」

「はっ!失礼致しました!こちらの物全てで宜しいですね?」

「はい」

「すぐに査定致しますので、少々お待ちください」

 受付の女性は両手を硬貨に翳す。

「我に詳細を示せ、査定!」

 京矢はその様子を見て、恥ずかしくなった。


「純度95%!?合計査定額526万2500メル……なにこれー」

 受付の女性は、受付の顔を忘れ、素でリアクションしている。

「500万……俺いきなり金持ちか?」

「この世界の人間が人生を賭けて稼ぐ額の10倍の額を君はこの一瞬で手に入れたんだよ」

「マジか……日本円で言えば10億円に相当するじゃねえか」

 受付の女性は慌てながら、京矢に現状を報告し、尋ねる。

「すみませんが、この銀行が換金出来る最高額はこのの純度95%の銅2つだけになりますっ!なので、190万メルをお渡ししますっ。貨幣の種類の指定はありますか?」

「パイン、190万メルだと何が何枚になるんだ?」

「銅貨が1枚と大銀貨が9枚。因みに市場で出回ってる最高額はその1つ下の大金貨だ。君が取るべき選択は、銅貨1枚、大銀貨8枚、銀貨から大白金貨までを9枚ずつ、白金貨が10枚だ」

 京矢はパインの言葉を復唱した。

「銅貨1枚、大銀貨8枚、銀貨から白金貨までを9枚ずつ、白金貨が10枚でお願いしゃっス」

「かしこまりました。もう少々お待ちください」

 受付の女性は一周回って冷静さを取り戻していた。

「こちらが銅貨1枚、大銀貨8枚、銀貨9枚、大金貨9枚、金貨9枚、大白金貨9枚、白金貨10枚になります。お確かめください」

 京矢は10秒程で数え終える。

「では手数料の1メルをいただきます」

 京矢は白金貨を1枚渡して受付の女性に礼を言い、銀行を出た。


「なんかズルした気分だな……400円が10億になっちまうとは」

「別にいいじゃないか。君はこの世界では無力に等しい。家族もいない上、何も知らない。その金があってようやく公平になる」

「そうか。じゃあいいか」

 京矢は硬貨をポケットに入れると、パインと共に、再び出店の場所へ戻った。


「まずは財布だな。こんだけ金があるなら保管する必要がある。パイン、この世界にも財布ってあるのか?」

「サイフというのが分からないが、お金を入れる物が欲しいって事?」

「ああ」

「それならここのこれ。メルポーチという名前だ」

 パインは1つの出店を指した。そして、京矢にこの世界の財布を教える。

「なるほど。メルを入れるポーチだからメルポーチか。この世界の人間はみんなこれ使ってんのか?」

「そうだ。ほら、周りを見てみろ」

 京矢が辺りを見回すと、あちこちでメルポーチから金を出したり入れたりしているのが見えた。

「確かにそうだな。金に浮かれて目に入んなかったぜ」

「まあ好きなのを選べばいいよ。金はいくらでもあるんだし」

「ああ」

 京矢はしばらく悩んで、安いメルポーチを買った。

「それでいいのか?」

「ああ。これがいい」

 京矢が選んだメルポーチは、京矢の世界の人気ブランドの財布に似ていた。

 京矢とパインはショッピングを楽しんだ。

異世界では100万メルあれば一生生きられます。

白金貨→1メル(10円)

大白金貨→10メル(100円)

金貨→100メル(1000円)

大金貨→1000メル(1万円)

銀貨→1万メル(10万円)

大銀貨→10万メル(100万円)

銅貨→100万メル(1000万円)

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