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魔法も剣も使えない最強  作者: 戻れない青春
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2話 ドンゴラス訓練所

 夕食の時間、京矢はパインと食堂に来た。スープの入った器とスプーンとパンと水の入ったコップをトレイに受け取ると京矢は席に座った。

「今日は色々疲れたな。あ、お前の分貰うの忘れてた!今から取ってこようと思うんだが、お前って何食うんだ?」

「僕は何でも食べるよ。猫は雑食だからね。取り敢えずスープが欲しいかな」

「おっし、スープな」

 京矢は食事を配っている場所にもう一度行き、スープを貰う。席に戻ると隣の席に男の子が座っていた。


 京矢がスープを飲んでいると男の子は話しかけて来た。

「初めまして、ボクはカトラーシオ・シュペルガー。カシオって呼んでよ!よろしく」

(こいつ俺に話しかけて来やがった!フィルドム語を早速実践する事になるとはな。カトラーシオは名前か?)

「俺は、キョウヤ・カサイ。こちらこそよろしく」

(よし、これでどうだ!)

「君の志望は剣士?魔法使い?」

(いきなり連続かよ!!でも続いたって事は会話が成立してるって事だよな?剣士、魔法……こうだな)

「俺は、剣士、を、目指している」

「へえ〜!ボクと同じだね。ボクは魔法の適正が無いから剣士志望なんだ」

(えっと……こいつも剣士を目指してると。魔法が使えねえのか)

「俺も、魔法、使えない。一緒だな」

「そうなんだ〜!嬉しいな!授業で戦う事があったらお願いするよ!」

「ああ」


 京矢は食事を終えるとパインと部屋に戻った。京矢はベッドに寝っ転がってため息を吐いた。

「よく出来てたじゃないか」

 パインの言葉を聞いて頭を掻く京矢。

「意味を理解すんのに時間かかるけどな」

「受付で何も話せなかった時よりだいぶマシじゃないか。たった数時間でよくここまで理解したな」

「まあ文系の試験で6割以上取れなかった事なんて一度も無えからな。英語もフランス語も発音には自信が無えが一応喋れる」

「君の世界の言葉か。君は言語の習得が上手いんだな」

「違えよ。必要に迫られたから学んでるだけだ。大学だって勉強しなきゃ入れねえ」

「学び舎か。今のこっちの世界では座学の授業は少なくなっている。研究者は足りてるし、みんな冒険者を目指すから需要が無いんだよね」

「そりゃファンタジーだからな……」


 パインは京矢の横たわるベッドに乗っかる。

「話は変わるけど、明日は日の出から剣の訓練があるみたいだ。君の話から察するに、体力に難があるみたいだし、しっかり休んでおきなよ」

「ああ。その前にもう少しだけフィルドム語教えてくれるか?」

「やっぱり勉強熱心じゃないか」

「違えよ。毎回ワンテンポ遅れて喋ってたら時間が勿体無えだろ」

「ワンテンポ?」

 京矢が普段から使っている和製英語はパインには通用しないらしい。

「あー、少しの時間」

「それもそうだな。この東の地域では殆どがフィルドム語なのに君だけ喋れないんじゃ不便だ」


 京矢は手首を回しながらパインに尋ねる。

「そういや魔王ってどこに住んでんだ?」

「昔は転々としてたらしいけど、今は強い魔物の群生地、西の地域の奥の『フォグスリメータル』って呼ばれる場所に定住してる」

「フォグスリメータルか……西って事はまた言語が違うのか?」

「そういう事。ここではフィルドム語が主だけど、西で使われる言語は主に二つあるんだ」

「主に二つだと……」

「例の彼の前の魔王の時、西地域では人間の国同士の戦争が起こったんだ。その時の名残で西の北側ではセプルモ語、南側ではネークス語が使われてるんだ」

「なるほど、戦争か。どの世界にも戦争はあるもんだな」

「今は人間同士の大きな戦争は聞かなくなったけどね」


「因みにこの世界にはどれだけの言語があるんだ?」

「細かく分けると40ぐらいかな。その内今は使われなくなった言語が半分以上で、今はさっき言った言語を含める3言語が大半を占める。それに次いでタタカマ語、コツヤ語、トルジザハーテス語だね。後は民族単位でしか使われないゲマゲ語やツォイラー語、ペルコムタ語ぐらいしか知らないな」

「十分だろ、てか多過ぎて覚えらんねえよ。それもぱっぱ母親譲りの知識か?」

「まあ大体は。でも母さんはペルコムタ語は喋れない、いやそもそも知らないかも」

「ペルコムタ語?ってのは認知度の低い言語なのか?」

「そういう事ではないんだが。まあペルコムタ語の派生には僕が関わったからね」

「は?」


 パインの言葉の意味を理解し損ねた京矢は眉を寄せる。

「昔東の北奥の島に一週間かけて散歩しに行ったら偶然民族を発見しちゃってね。言語が母音の感覚と回数を使うだけの大凡言語と呼べるものじゃ無かったから、僕が発音の仕方を教えたんだ。そしたらあっという間に言語が出来上がったんだよね」

「お前マジで何者なんだよ……」

「ははは、ただの黒猫さ。ところで、今日がたまたま入校日でよかったね。よし、眠る前に10個ほど単語を教えるよ」

 結局京矢が寝たのは月が一番高く上がってからだった。


 小鳥の囀りが耳に入り、京矢はゆっくりと目覚める。思い瞼を擦ると、自分の隣で寝ている黒猫が目に映る。

「朝か。おいパイン、起きるぞ」

 パインは片目を細く開き、気怠そうに返答する。

「……僕はもう一眠りしたい。朝食の時間になったら起こしに来てくれ」

「全く……」

 京矢は背伸びをして部屋を出る。向かった先は訓練広場。そこには既に数人の訓練生が集まっていた。その中にはカシオの姿もあった。

「ふむ、日の出だな。それではこれより今年最初の剣技の授業を開始する。私は国家騎士のカトラナだ。今年の剣技は厳しいぞ?」

 剣技の授業を受け持つのはカトラナという国家騎士。この世界の国家騎士は名誉ある職業とされている。

「では先ずはこの木刀を進呈しよう。受け取ってくれ」

 カトラナは木刀を京矢達に渡すと、棒に布を数枚巻き付けた3体の人形を指差した。

「今から3人ずつあの人形に100発ずつ入れてもらう。終わったら次の者と交代だ。見本を見せるからよく見ておけ」


 カトラナは木刀を手にすると、人形を木刀で攻撃し始めた。パン、パパンとリズミカルに音を立てながら1発1発想い攻撃を与えてゆく。30発ほど攻撃を与えた後、カトラナは攻撃を中断して訓練生に言う。

「こんな感じだ。1人100発だからな!さあ始め!」

 京矢達訓練生は3列に並び、3人ずつ攻撃を始める。

「ハアッ!」

「ハッ!」

「セヤッ!」

京矢は周りのレベルの高さに驚愕した。皆バシンバシンと音の出る素早く重い攻撃を繰り出している。

(嘘だろおい……何で最初からこんなにレベル高えんだよ!)


 先頭の3人は直ぐに100発叩き込み、京矢の番が回って来た。

(畜生!どうにでもなれ!)

「ウラッ!」

 京矢が木刀を振るとペチンと小さい音が鳴った。

「なんぞこれ……」

 周りからクスクスと笑い声が聞こえてくる。

(剣なんて扱った事無えから仕方無えだろ!!)

 京矢は心の中で言い訳をして再び木刀を振り始める。京矢が10発程振った頃、カトラナは京矢に喝を入れる。

「どうした!腰が引けてるぞ!」

(ちっくしょおォォーーッ!!)


 京矢が終わる頃には他の2つの列は2回交代していた。京矢は列の最後尾に回り、膝に手をついてゼーゼーと呼吸する。

「大丈夫?どこか悪いの?」

 京矢に声をかけてきたのはカシオだった。

「いいや……ハァ、ハァ、唯の……ハァ、運動不足だ……」

「剣士志望なのになんで運動不足になるの!?もしかして虐待?幽閉されてたとか!?」

「違う……ッハァ……本当に、運動していなかっただけだ」

「えぇ!!?このままじゃ卒業どころか組手も出来ないよ!?」

 この世界で生きる人間にとって、冒険者とは憧れの存在であり、殆どの者の将来である。魔法使い志望の人間でも冒険する以上、体力は付けておくものであり、訓練の初日数分でバテるなど正に前代未聞である。

「なんとかする……」


 京矢はもう1回100発を終えると休憩に入った。

「畜生、こんな事なら運動しときゃ良かった……」

 京矢は自分の怠惰に苛立ちを覚え、拳を強く握り締める。

「本日はここまでだ!明日からはもう100発増やして計400発だからな!……回数をこなせるよう気合いを入れておけ!!では解散!!」

 カトラナはたった1人回数をこなせなかった京矢に目線を向けてそう言った。

(俺の選択した他の科目は素手格闘……今の状況から考えてかなり無理がある。だが選んだのは俺だ。やんなきゃなんねえだろ。魔王と話す為には強くなんなきゃだ。これはその為の選択だ。絶対に成し遂げて元の世界に帰ってやる!!)

 京矢は覚悟を改め、パインを起こしに部屋へ向かった。

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