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魔法も剣も使えない最強  作者: 戻れない青春
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1話 ドンゴラスの街

 京矢は目の前の黒猫に話しかける。

「今喋ったの…お前か?」

「そうだ。僕の名はパイン、見ての通り猫だ」

「いやいや、猫は喋んねーよ!」

「やはり君はそういう世界から来たんだな」

「そういう世界……?じゃあここは……」

「君にとっては異世界、かな」

「マジかよ……俺異世界に来ちまったのかよ」

 京矢は左手の親指と人差し指で眉間を摘む。

「まあ心配するな。ここには食べ物も水も十分にある。飢え死ぬ事は無いだろうさ」

「いや、そんな心配はしてねえよ!なんか気味が悪いしさっさと帰りてえんだよ」

「そんな方法は知らないな」

「おいマジかよ!?俺一生この世界で暮らさなきゃなんねーのか!?」

「前にも一度だけここから出てきた奴がいるらしいが、そいつはこの世界で暮らしている」

「俺以外にも……居るのか?」

「一人だけ」

「そいつに聞けば何かわかるかもしれない」

「まあ会う事は難しいだろうね」

「なんでだ?」

「なんてったってこの世界の頂点に君臨している奴だからな」

「この世界の……頂点?」


 パインは少しだけ間を空けて口を開く。

「魔王だよ」

「え」

「奴は今この世界の魔王。並大抵の人間じゃ会う事は無理だね」

 きっぱりと言うパインの言葉に京矢は項垂れる。

「どうすればいいんだよ……」

「そんなに元の世界に帰りたいのか?」

「え?」

「僕はこの世界をそこまで悪いとは思っていない。人間同士の大きな争いは無いし、みんなが夢を持って剣士や魔法使いになろうと頑張っている。それらは僕には輝いて見える。やっぱり君の世界もこの世界と同じように皆が夢を持って頑張っていたりするのか?」

 パインの言葉を聞いて、京矢は自分の見てきた過去を思い出す。

(俺の世界では、夢に向かって頑張っている人は確かにいるが……輝いては見えないな。皆嫌々やっているようにしか見えなかった)

 京矢は俯いて眉を寄せる。

「悪い。君の世界を侮辱するような意味を含ませた発言だったかもしれない」


 京矢は目線をパインに戻して返答する。

「いや、気にすんな。とにかく、帰る方法がわからねーんじゃ意味が無え。先ずはこっちの世界で生活する事を考えなきゃだ」

「利口な判断だな」

「ま、何もしなきゃ何も始まんねえからな。それに気になる事がある」

「何だ?」

「この世界の時間の進み方が俺の世界と一緒なんか分かんねえって事だ。浦島太郎状態にはなりたくねえ」

「浦島太郎が何なのかは知らないが、言いたい事は理解したよ」

「て事で、さっさと衣食住の確立を考えなきゃなんねー訳だが……異世界だろ?宿屋でも見つけないとな」

 京矢は立ち上がって歩き出そうとした。

「待て、宿屋は冒険者が使うものだ。冒険者になるには訓練所に入って冒険者資格を取得しなければならないんだ。冒険者の証を持っていない君には宿屋を使う権限は無い」


 パインの衝撃的な発言に京矢は顔を曇らせる。

「は、マジ?」

「ああ。それに金も持ってないだろう?」

「まあ……な」

「君が今やるべき事は訓練所に入る事だ。そこで力を付け、冒険者となって魔王に挑むんだ」

「魔王か……そう言えば魔王も俺と同じ世界の人間なんだよな」

「ああ、奴は君と同じ言語を使っていたらしい」

「言語……?あ!お前が喋れる事に驚いてすっかり気付かなかったが、やっぱこの世界と俺の世界じゃ言語が違うのか?」

「ああ。僕が君と話せるのは母親から教えてもらったからだ」

「……お前の母親って何者なんだ?」

「僕が君の出現を見ていたのと同じく、母さんは魔王が出現する瞬間を見ていたらしい」

「マジか」

「母さんは彼を尾行し、彼の行動を見ていたようだ。母さんの話によると彼は魔物を強力な魔法で倒して食って生活していたらしい」

「なっ……最初から魔法使えんのかよ!!」

「君は使えないのか?」

「やってみるか」


 京矢は掌を前に向けて力を込める。

「魔法出ろ!!」

 しかし魔法は発動しなかった。

「魔力が感知できない。それどころか君の体には魔力が全くない。この世界の生物には有り得ない特徴だな。あと魔法を使うときは基本的に呪文が必要になる」

「それが分かるなら先に言え!子供のごっこ遊びみたいで恥ずかしいだろ!!」

「いや、魔法が使えない確証は無かったからさ」

「そんな事より、魔王の話の続きが気になるんだが」

「じゃあ話を戻して……魔王は冒険者にはならず無差別に戦って強くなり、やがてどんな魔物も彼に勝てなくなった。それ以降彼は魔王として君臨し続けている。僕が知っているのはこれだけ」

「いまいち分かんねえな。お前の母さんはどこにいるんだ?」

「多分死んだ。魔王に殺されてね」

「えっ……」


「母さんは5年前、魔王の様子を見に行くって言って、それっきり帰って来なかった。好奇心とは時に自らの命を危険に晒す事もあるんだ」

「魔物を簡単に殺せるような危険なやつに好奇心で近付きたくはなんねえだろ。理由があったんじゃねえのか?」

「かもしれない。でも僕には母さんが魔王に近付いた理由がわからない。だから勝手にこう思ってるだけだ」

「生きている可能性は……低いか。生きてたら5年も帰ってこない訳ねえよな……」

「気にかけてくれてありがとう。でも君は僕の母さんの事より君自身の生活について考えなきゃいけないだろ?」

「だな。訓練所に行かなきゃなんねえんだっけ?」

「ああ。そこに行けば君は強くなり、魔王への足がかりになる」

「足がかりか……パイン、訓練所ってどこにあるんだ?」

「そうか、そういえば君はこの世界の地形を知らなかったな。いいだろう、案内しよう」


 パインは歩き出した。京矢はそれについていく。道中、京矢とパインは歩きながら話す。

「あっ、そういや言語が違うんだっけな。どーすっかなー」

「僕が通訳するしかないな。どうせ僕は暇だし、君と苦楽を共にするとしよう」

「そいつは助かるな。てか訓練所ってペットOKなのか?」

「ペットって言うな。そうだな、使い魔って扱いでいいんじゃないか?」

「なるほど。魔法使いみてえだな!」

「君は魔法使えないじゃないか」

「うっせーな猫の癖に生意気だぞ」


 暫く歩くと街に着いた。

「ここがドンゴラスの街だ」

「おお、中世っぽいな」

「訓練所はこっちだ」

 パインの後を付いていくと50メートル程の長さの2階建の建物が見えた。

「ここがドンゴラス訓練所だ。訓練所は税で成り立っているから食事代も家賃も要らない。街が冒険者を輩出したがってるから冒険者教育はタダなんだ」

「なるほどな」


 二人は訓練所に入ると受付に向かった。受付では女の剣士らしき人が対応していた。

「ドンゴラス訓練所へようこそ!入校希望者ですね?」

「おい、パイン、この人なんて言ってるんだ?」

「入校希望者かと尋ねている」

「はいと言ってくれ」

「はい」

「それではこちらに名前を記入してください」

「名前を書けってさ」

「こっちの文字わかんねーよ、お前が書いてくれ」

「無茶言うなよ、僕は猫だし君の名前も知らない」

「ああ、そういや言ってなかったな。俺は笠井京矢」

「カサイキョウヤ、どこまでが名前?」

「名前は京矢、笠井が苗字だ」

「へえ、名前と苗字が逆なんだな。キョウヤ・カサイ、投影するからそれを写して書いてくれ」

「投影?」


 パインの目からプロジェクターの様に光が出てきて受付の机に映った。

「これが俺の名前か?」

「ああ。ほらはやく写してくれ」

 京矢は机に映った文字を写した。

「キョウヤ・カサイ様ですね。それではあちらの魔法使いの方に案内して貰ってください」

 受付の女剣士は奥へ続く通路の前に立つ男の魔法使いを指した。

「あの魔法使いのところに行こう」


 二人が魔法使いのところに行くと、魔法使いは寮まで案内をしてくれた。

「こちらがキョウヤ様のお部屋になります。夕食の時間になりましたらお呼びしますので、それまでお寛ぎください」

「どうも」

 パインが礼を言い、京矢は頭を下げる。

「ここが俺たちの部屋か。割と整ってるな」

「さ、キョウヤ、お勉強の時間だ」

「えっ」

「この世界で生きていくのにこの世界の言語は必須だ。先ずは簡単な挨拶から始めて慣れていこう」

「マジかよ……勉強って嫌いなんだよ」

「何を言ってるんだ。この言語じゃ魔王と僕以外喋れないじゃないか」

「確かにな。仕方ねえ、勉強するか」

 京矢は夕食の時間までパインによる異世界言語「フィルドム語」の勉強を行った。

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