09 ご主人様 新生活を送る
管狐が霊能者とはぐれた数時間後、引っ越しは完了した。
「それじゃあ、俺は下宿に戻るからな。花子……あんまりやらかすなよ?」
「花子って言うなし〜! ハナチ―って呼べし〜」
「あ、ああ……それじゃあな」
「兄貴。オツー」
花子のお兄さんは、不安を胸に、自分の下宿に帰って行った。
「さてと。後の荷ほどき、まかせっから〜……あれ? 九号はどこ行った?」
花子は部屋の中を見渡すが、九号の入った竹筒は見当たらない。
「あれ〜? ま、いっか。そのうち出て来るっしょ。みんな荷ほどき、よろ〜。お風呂、お風呂〜♪」
どうやら九号の捜索は、お風呂より重要ではなく、後回しになったみたいだ。
管狐達は何か言いたげだったが、朝が早かったせいか、花子は管狐の話を聞く前に、眠りに就いてしまった。
翌昼……
「あれ〜? 荷ほどきは終わったのに、九号の筒が見つからない……あんた達。何か知んね〜?」
花子はやっと、九号の安否を管狐達に問いただす。
すると、代表して零号が話す。
「うっそ。車から落ちたかもって? マジウケルんですけど。そっか〜……じゃあ、もう生きてないかもね〜。ウチの霊気なしじゃ、一日ももたないかんね」
花子は諦めの言葉を述べるが、零号は探しに行かないのかと問いただす。
「まぁ気に入ってたし〜、昨日だったら探しに行ったんだけどね〜。今から行っても、もう無理っしょ? あんたもそう思うっしょ?」
零号は自分なら助かるかもしれないと思ったが、新入りでは無理かと考え、肯定してしまった。
「だしょ? まぁこれだけいれば、ウチの占い無双は余裕っしょ〜。その前に、大学だったわ。準備しよっと」
どうやら、九号は完全に死んだと思われ、見捨てられたようだ。
その後、九号の変わりに八号が、花子の世話係に任命されていた。
花子は新居が片付くと、アパートの周りを探索する。
「マジか……ウチより都会だけど、たいしてかわんね〜し……関東って東京っしょ? ありえね〜」
花子はずいぶんな勘違いをしている。
東京は関東の一部だ。
元々、花子は勉強が苦手で、関東近辺で行けそうな大学をしらみ潰しに探した結果、超低ランクの大学に進学した。
管狐を使って占いで食べていく予定だったので、東京に近い大学に進学出来ればどこでもよかったのだ。
関東でも地域によっては、田舎がある事を知らずに……
探索するものの、たいした店がなかったが、コンビニでツケマ等を補給して、臨戦態勢を整える。
その数日後、ついに入学式を迎えた。
……………
そして自信を打ち砕かれて、アパートに帰った。
「ガングロギャルがいね〜し! ウチ、超浮いてるんですけど〜。ねえ? 東京って、ガングロギャルがいっぱい居るんじゃないの? みんな肌、白いし〜!!」
花子は大きな勘違いをしている。
ガングロギャルなんて、今や、古い雑誌の中と極一部に棲息する生き物だ。
そもそも、母親のお古の雑誌で、自分なりに作り出したギャルなんてどこにもいない。
それとここは、東京ではなく、関東の片田舎だ。
「これじゃ、田舎から出て来た意味ないっしょ〜! ガングロギャルが居ると思って選んだのに〜……明日からどうすっか?」
管狐は聞かれても答えられない。
人間と違うからだ。
「とりま、近くにあったコンビニで、東京ギャルの勉強すっか〜。学校はそれからっしょ〜」
この日、管狐達は「そんな事でいいのか?」と、心の中でツッコンだらしい……