08 管狐 新生活を送る
俺は管狐。
今日もご主人様に迎えに来てもらえず、朝を迎えた。
「モフモフ〜」
お嬢ちゃんに尻尾を握られながら……
今日からお嬢ちゃんも新生活を迎えるらしいが、昨日はいつもより眠りに就くのが遅かったせいか、奥さんにこちょばされて無理やり起こされていた。
「忘れ物は無い?」
「昨日、ママと一緒に確認したから、大丈夫だよ」
「そうね。それとあの約束覚えてる?」
「うん。外ではヨウコに話し掛けない! 学校へは、お隣のお姉さんと行く!」
「よく出来ました。気を付けて行ってくるのよ」
「グズッ……ひより。気を付けて行って来るんだよ〜」
「うん! 行ってきま〜す」
どうやらお嬢ちゃんは、学校という場所に行くみたいだ。
しかし旦那さんは、昨日からずっと泣いているな。
初めて一人で準備が出来たらしいが、俺がやったんだ。
だから、その涙は間違っていると思う。
それにしても、お隣さんのお姉さんとは、どこにいるのだ?
のどかな田園風景が広がっているところを見ると、ご主人様の家と同じく、お隣さんと言いながらしばらく歩くのかな?
「あ! 忘れてた。ヨウコも話し掛けてきたらダメだからね」
一度でも、そんな事をしたか?
いや、話し掛けてはいるが、たまにしか通じた事が無いだろ?
「そういえば、ヨウコから話し掛けられた事ないよね〜」
忘れていたのか?
ずっと話し掛けられて、俺は迷惑しているぞ?
「ひよりちゃん。おはよう」
「お姉ちゃん! おはようございます」
「ちゃんと挨拶出来て、エライね〜」
「えへへ」
「それより、いま、誰と話していたの?」
「えっと〜……ひとりごとだよ」
「そっか〜。ひよりちゃんは元気だね」
「うん!」
「じゃあ、行こっか」
あの服装はご主人様も着ていた、JKの戦闘服か?
ご主人様と比べて、肌の露出が少なく、防御力が高そうだ。
それにしても、優しそうなお姉さんだな。
お嬢ちゃんが転ばないように、手を繋いで歩いている。
だが、気のせいか?
時々、俺を鋭い目で見て来るのだが……
何か気持ち悪いし、お嬢ちゃんの肩の定位置から、ランドセルの中に避難しておくか。
少し大きくなったが、俺は管狐。
体を細く出来るから、狭い場所に入るのはお手の物だ。
ふぅ。こういう狭い場所は落ち着くな。
ご主人様の胸の間を思い出す。
あの柔らかい感触……早く迎えに来て欲しいものだ。
その後、お嬢ちゃんは奥さんとの約束を守り、俺に話し掛けて来ることはなかった。
俺はランドセルの中で寝ていたが、時々取り出され、お腹を撫でられるハプニングがあった。
昼になると、友達らしき子供と一緒に帰る事となっていた。
それから一週間、俺は毎日、次の日の準備でランドセルに教科書やノートを入れる仕事をもらい、ほどよい疲れの中、眠りに就く。
そしてふと思う。
ご主人様は、俺の事を探しているのか、と……