07 管狐 仕事をする
「じゃあ、このノートを、あっちのランドセルに入れて」
俺は管狐。
ご主人様の命令しか受け付けない……はずだった。
体が勝手に動く。
この感覚は、ご主人様に命令された時の感覚に似ている。
前にお嬢ちゃんの肩に飛び乗ってしまったのは、命令されたから動いてしまっていたのか。
しかし何故、お嬢ちゃんが俺に命令出来るんだ?
「わ! 出来た〜!! ヨウコ。ありがと〜」
これぐらい、簡単だ。
だが、お嬢ちゃんが、俺に命令出来る理由が謎だ。
たしか、呼び出された時に聞いた話では、ご主人様意外の命令は受けられない。
命令に要する霊気は、呪文で分けるから、非力な俺でも物を持ち上げる事が出来るようになる。
と、言うことは、お嬢ちゃんが霊気を分けてくれたのか……
「じゃあ、次はアレとアレ。それと、アレも入れて〜」
ちょ、いま考え中!!
このあと俺は、お嬢ちゃんに仕事を与えられ、ノートや教科書をランドセルに入れ終わるまで、せかせかと働かされた。
「ヨウコ。ありがと〜。ヨウコのおかげで、早く終わったよ〜」
このひと仕事した感じ……久し振りで心地いいな。
だが、この程度なら自分でやった方が早かったのでは?
ご主人様の片付けに比べると、よっぽど簡単な仕事だ。
「本当にありがと〜。スリスリ〜」
うん。感謝されるのも悪くない。
ご主人様も、よく褒めてくださったからな。
お嬢ちゃんと同じく、顔でスリスリするから、たまに化粧が落ちていた。
「あれ? また光っているよ?」
なんだ? また力があふれてくる……
「またちょっと大きくなった。レベルアップだね!」
レベルアップとは、大きくなった事を言うのか。
今の大きさは、三号兄さんぐらい……
たしかに、力も上がった気がする。
これなら、軽い物なら持ち上げられるかもしれない。
「また一歩、モフモフに近付いたね!」
九尾の狐じゃなかったっけ?
「あ! 九尾の狐だった〜」
え? いま、意思が伝わった?
「まぁモフモフも、九尾の狐も、似たようなモノだね」
違う。まったく別物だ。
意思も伝わっていなかったようだ。
「ひより〜。ごはんよ〜」
「あ! ママ!! 準備出来たよ〜」
「あら。エライわね〜。ごはん食べ終わったら、一緒に確認しましょうね」
「うん! ヨウコも行くよ!」
あ、うん。あれ?
また命令されて、お嬢ちゃんの肩に飛び乗ってしまった。
これって、ご主人様がお嬢ちゃんに変わったってことなのか?
いや、俺のご主人様はただ一人。
近い将来、必ず迎えに来てくれるはずだ。
……迎えに来てくれるよな?