59 妖狐とご主人様 其の二
俺は妖狐。
現在、ご主人様の館の前で、会える時間になるのを待っている。
「休憩時間になったみたいね」
誰か出て来て、扉に掛かった札をひっくり返したな。
一瞬、ご主人様が出て来たのかと思って、ドキッとした。
俺も緊張しているんだな。
だが、俺がご主人様を見間違えるはずがない。
当然だ。
俺のご主人様だったお人だからな。
「さあ。行きましょう」
お姉さんがドアをノックしたら、さっき出て来た若い女性が対応してくれている。
この人は、俺のことが見えていないみたいだな。
なになに……
奥の部屋にいるのか。
中に案内してくれるみたいだ。
広い建物でもないから、少し歩いた廊下の突き当たりが仕事場なんだな。
ドアをノックしている。
ふぅ。落ち着け。
ご主人様なら、俺の事を優しく抱き締めてくれるはずだ……
いやいや。忘れていた。
俺は妖狐。
管狐から遠い姿をしている。
それにあやかし退治を何度も手伝ったから、尻尾も三本になっている。
こんな俺でもご主人様は気付いてくれるのか?
気持ち悪がられないだろうか……
何を弱気な事を考えている。
俺にはひよりがいるんだ。
ひよりがいれば、何が起きても怖くない。
もう気付かれなくてもいいか。
俺がご主人様を忘れていなければいいんだ。
ただそれだけだ。
「先生。お連れしました」
「おつ〜。でも、歳、あんま変わんないだし、先生はやめてって言ってるし〜。ハナチーって呼べし〜」
「先生は先生です。では、私は失礼します」
ご主人様の声はするが、ご主人様は見当たらない……
どういうことだ?
対応してくれていた若い女性は出て行ったけど……
と、言う事は、先生と呼ばれた人がご主人様か?
「それであんたらが、九号を見付けてくれたって?」
「え、ええ……」
九号?
その呼び名を知っているって事は、ご主人様……
だが、別人だ……
肌が白い!!
髪が黒い!!
誰だ!?
「九号はどこにいんの?」
「ほら、ヨウコちゃん。ご主人様だよ」
「そのキツネ。ヨウコって言うんだ。かわいいね。でも、ご主人様ってどゆこと?」
「えっと……出会った時は、そこにいる大きな管狐だったんだけど、よくわからないけど妖狐になったの」
「マジで!? ウケるんですけど〜。じゃあ、キツネが九号なの?」
「ああ。ご主人様。お久し振りです。俺が九号です」
「その固い喋り方……九号だし! 本当に生きてたんだ!!」
「ご主人様??」
泣きながら、俺に抱きついて来た。
この温もり……
この柔らかさ……
間違いなくご主人様だ!
うぅぅ。
俺も涙が……
「グスッ。すぐに気付かなくてゴメンだし〜。あの時、すぐに諦めてゴメンだし〜。うわ〜〜〜ん」
「ご主人様……生きて会えて嬉しいです。俺なんかの為に、涙まで……うぅぅ」
「うわ〜ん。こんなに立派になって……誰だかわからなかったし〜」
ご主人様……
それはお互い様です!
うわ〜〜〜ん!!