58 妖狐とご主人様 其の一
俺は妖狐。
ご主人様の居場所はわかったが、ひよりの家からは遠いらしく、会いに行くのは学校が夏休みに入ってから行く事となった。
それまでは家族と過ごし、修行に明け暮れている。
ひよりのモフモフの相手、両親の農作業の手伝い、地獄のサンドバック。たまにあやかし退治のお手伝いなどを行って、尻尾も三本に増え、あっと言う間に夏休みとなった。
今日はようやく、家族とお隣のお姉さんとおじさんとで車でお出掛け。
何度も休憩し、目的地近くの町で少し観光して、そこで一泊休む事となった。
………
「ヨウコ?」
「ん……ひより。眠れないのか?」
「うん。明日、ヨウコが居なくなっちゃいそうで怖くて……」
「またその話か。心配しなくても大丈夫だ」
「ホント?」
「俺はひよりと一緒に居て、すごく楽しいんだ。だから、ひよりが俺と離れたいと言うまではずっと一緒だ」
「そんなこと言わないよ!」
「だろうな。俺も言わない」
「でも、ご主人様が無理矢理ヨウコを取り戻そうとするかも……」
「それも大丈夫だ。なんてったって俺は強い妖狐だぞ。いざとなったら、逃げ切ってやる!」
「そこは倒すとかじゃないの?」
「いや。戦うのはちょっと……」
「ヨウコはいつまで経っても怖がりだな〜」
「ああ。戦うのは怖いんだ」
「でも、わたしが危ない時は、いつも頑張ってくれるよね?」
「当然だ。家族だからな」
「うん!」
「もう遅い。そろそろ寝よう」
「モフモフ〜」
この日も俺は、ひよりに抱かれて眠りに就いた。
………
翌日、朝早くから車に乗り込み、とある片田舎にやって来た。
ちなみに奥さんと旦那さんはデートに行くと言って、泊まった宿の近くを観光している。
「『占いの館。花園』。ここで間違いないわ」
「すごい行列だな……。ここに並ぶのか……」
「お花もいっぱ〜い」
たしかに人がいっぱいだ。
それに変わった建物だ。
商店街のお花屋さん……いや、絵本で見た魔女の館にも見える。
「並ぶ必要はないわ。ちゃんと、居なくなった管狐と会ってくれないかと話を通しているからね。ヨウコちゃんのご主人様。すごく嬉しそうだったよ」
「本当か!?」
「ええ」
そうか……
嬉しそうだったのか……
少しは心配してくれていたんだな……
「しかし、キツネのご主人様も化け物なんだな。扉から霊気が漏れるどころか、庭まで霊気であふれているぞ」
「本当ね。ひよりちゃんより上が居たなんて、信じられないわ。これで占いなんてやっているのも信じられない」
「最強のあやかしバスターになれるのに、もったいない……」
最強のあやかしバスター?
おじさんは、よけいな事を言わないで欲しい。
ひよりの目が輝いてしまったじゃないか!
「それ、カッコイイ! ヨウコ。頑張って最強目指そう!!」
「いや、俺は……」
「よし! 俺も協力してやる」
「ちょ……」
「お父さんまで……。まぁ帰ったら、私も修行に付き合ってあげるわ」
「待って……」
「それじゃあ、早く帰って修行だ!」
「「お〜〜〜!」」
「帰るな! 俺はご主人様に会いに来たんだ!!」
「「「あ……」」」
全員そろって、戦いが好き過ぎる!!