56 妖狐 ハードモード突入
俺は妖狐。
土蜘蛛退治から、数週間経った。
ここ最近は、変化をして女の子の姿の時間が長くなっている。
女の子の姿になるのも尻尾が増えたせいか、制限時間が無くなったので、ひより達の好みに合わせて変化している。
女の子の姿になる時は、家事や農作業の手伝い。
あとはお隣のお姉さんの剣の修行に付き合わされる時だ。
妖狐の姿に戻る時は、撫でられる時や、奥さんの散歩ごっこの手伝い。
あとはひよりと一緒に寝る時だ。
俺にだって思う事はある。
いいように使われていると……
今日もお隣のお姉さんの修行に付き合わされているからな。
「お姉さん。掃除終わったよ〜」
「ありがとう。やっぱり三人でやると早いね」
もちろんひよりも、修行に付き合っている。
神社に来ると、まず巫女装束に着替えて境内の掃除。
俺は元々、着物姿の女の子なのでそのままだ。
掃除が終わると、ひよりは俺達の見学をしたり、おじさんが暇な時は簡単な術を習っている。
俺はと言うと、お姉さんの剣の稽古に付き合わされる。
と言っても、妖狐の姿の方が強いので、女の子の姿で素振りを一緒にやらされている。
「998……999……1000! はい。終了〜」
ふぅ。やっと終わった。
いや、ここからが本番だ。
元の妖狐の姿になって、殺気のこもったお姉さんの攻撃を受けないといけない。
「人間の姿も、だいぶ慣れたみたいだね。今日はその姿のまま殺ってみる?」
うっ。お姉さんの目が怖い。
二尾の狐になってからと言うもの、お姉さんの攻撃は俺に一切通じなくなったから、女の子の姿を要望しているのか?
勝てなくて鬱憤が貯まっていそうで怖い……
「いや、その……」
「大丈夫よ。ちゃんと手加減するから〜」
「ま、まず、その殺気を引っ込めようか?」
「ちょっとだけ、ちょっとだけよ〜」
「ひより。止めてくれ〜!」
「ヨウコ。頑張れ〜!」
「行くわよ〜!」
「ぎゃ〜〜〜!」
この後俺は、お姉さんの力強い打ち込みを受けて、何度も木刀を落とし、敗北を喫っした。
当然だ。
木刀を持って数週間しか経っていないからな。
だから、尻尾を防御にあてたら、ズルいだの剣士としてどうなのかと言われたが、しらん。
俺は妖狐。
あやかしだ。
「くそ〜! あの尻尾が邪魔だわ!!」
お姉さん。
修行なんだから、そんなに本気にならないでくれないか?
「おう! やってるな」
おじさんが来たな。
これでお姉さんの相手が、俺からおじさんに変わる。
やっと今日の俺の修行は終わりだ。
「たまには俺も相手してもらおうか」
は?
なんだと??
うっ。お姉さんに負けず劣らずの殺気が、俺に振りかかっている。
超怖い。
「いや。もう疲れたのだが……」
「琴葉だけ楽しい思いして、それはないだろ?」
「ひ、ひより!?」
「ヨウコ。負けるな〜!」
「行くぞ!!」
「ぎゃ〜〜〜!」
そのあと俺は、筋肉の塊から繰り出される拳を、死ぬ気で捌ききった。
当然だ。
おじさんの拳は霊気を纏っていて、喰らったらひとたまりもないからな。