05 管狐 お風呂に入る
俺は管狐。
お嬢ちゃんの家に厄介になると決めたからには、何か仕事をしなくてはいけない。
お嬢ちゃんからはうまい霊気を戴いているのだから当然だ。
だが俺は、ご主人様の管狐の中でも最弱。
出来る事と言えば、物を片付けるか、お風呂の世話をするしか出来ない。
物を片付けるのも、ご主人様の命令で、その時に多くの霊気を分けて貰って、やっと小物を動かすぐらいだ。
となると、お風呂の世話ぐらいしか出来ないな。
霊気を貰っているお嬢ちゃんになら触れられるから、簡単な仕事だ。
「ねえねえ。ヨウコ〜?」
お嬢ちゃん。なんだ?
「尻尾、増えそう?」
増えない。
俺は管狐。
妖狐でもヨウコでもないからな。
「いつ増える?」
だから、増えない。
一番長生きの零号ジイサンでも尻尾は一本だ。
「そのうち増えるよね〜」
だから、増えないって!
「じゃあ、増えるまでモフモフしてる!」
どうしてそうなる?
あ、ひっくり返してお腹をモフモフしないで……
「気持ちいいですか〜?」
悪くはないが、そういうのは俺の仕事だ。
ご主人様の背中が痒い時なんかも、俺が掻いていたからな。
初めてした時は「マジ卍」と、たいそう喜ばれていた。
「ひより〜。何してるの〜?」
「ヨウコと遊んでいたの!」
「そう。よかったわね〜」
いいのか?
奥さんは俺の事、見えていないんだろ?
「お風呂の準備が出来たから、一緒に入りましょう」
「今日は一人で入る!」
「え……ママと入るのが嫌になったの?」
「ううん。わたしも、もう小学三年生だから、一人立ちするの!」
「ひよりが立派になった……」
「ママ……どうしたの?」
「なんでもないわ。じゃあ、何かあったらすぐに呼ぶのよ?」
「うん!」
奥さん。泣いていたな。
立派になった娘がよっぽど嬉しいのか?
でも、一人立ちとは言い過ぎだ。
一人立ちとは、ご主人様のように、家から出る事を言うはずだ。
「ヨウコ。行くよ〜」
ん? 体が勝手に、お嬢ちゃんの肩に飛び乗ってしまった。
これは命令か?
まさかね?
しかし、お嬢ちゃんの家のお風呂は、ご主人様の家のお風呂と少し違うんだな。
木で作られていないし、お湯はどうやって作っているんだ?
薪を燃やす場所も見当たらない。
「ヨウコ。お湯をかけるね」
なんだその点々と穴が空いた物は?
ブッ! ゲホゲホ!!
口と鼻に入った!!
「あははは。かけるって言ったのに口を開けてるからだよ〜」
そうか。あそこからお湯が出てくるんだな。
知らない事とはいえ、これは俺の失敗だ。
「はい。次はわたしが体を洗うね〜……あ!」
どうした?
「いつも背中はママに洗ってもらってたんだ。どうやって洗えばいいんだろう?」
その布を伸ばして洗えばいいんじゃないか?
ご主人様はそうやって洗っていた。
「ヨウコ〜。どうしよ〜?」
そんなに泣きそうな声を出さなくても……
まぁここは俺の出番だな。
お嬢ちゃん。俺に任せろ!
「ヨウコ。石鹸で遊んで何してるの? わ! 背中洗ってくれるんだ! 気持ちいい〜」
ご主人様にも褒められたからな。
これでお嬢ちゃんから貰っている霊気のお返しが出来た。
「あ!」
今度はどうした?
「シャンプーが目に入らないように、どうやって洗ったらいいんだろう?」
俺は管狐。
そんなやり方は知らない。
奥さ〜ん!
お嬢ちゃんが呼んでますよ〜!!
他にも「アイムキャット❕❕❓」と言う作品を書いております。
下にリンクを貼っていますので、宜しければどうぞ。