41 妖狐 頭に葉っぱを乗せる
俺は妖狐。
最近は、お嬢ちゃん達家族のペットとして飼われている気がする。
こないだ奥さんが、首輪とリードなる物を買ってきて、首にはめられた。
妖狐になってからと言うもの、お嬢ちゃんのお願い無しでも、物を持ち上げる事も簡単に出来るので、首輪とリードもしっかり固定出来る。
その姿のまま奥さんに散歩に連れ出され、ご近所さんに驚かれていた。
当然だ。
俺は妖狐。
普通の人には見えないからな。
首輪とリードが浮かんでいるように見えたのであろう。
奥さんは慌てて誤魔化していたが、それ以降、首輪とリードを付けるのは庭の中だけになった。
出来ればそれも、やめて欲しいのだが……
お嬢ちゃんは最近学校に俺を連れていけないのが寂しいのか、帰って来ると、学校での出来事を事細かに話して来る。
相槌も打ち疲れた。
それともうひとつの話が毎日来るので困っている。
「ねえねえ」
今日も来たか。
「尻尾、増えそう?」
「まだだ」
「昨日もそう言ってたじゃない?」
毎日、尻尾の進捗状況を聞かれて、正直面倒臭い。
「そうは言っても、妖狐になったのも不思議なのだから、俺にはわからないんだ」
「う〜ん……そうだ! いい事思い付いたよ!」
いい事?
聞くのが不安だ。
ひよりの事だから、どんな無理難題を吹っ掛けて来るのだか……
「行こう!」
庭に連れて来られたけど、何をするんだ?
「この葉っぱを頭に乗せて〜」
「あ、ああ」
俺の手じゃ乗せられないから、勝手に乗せられたな。
「じゃあ、次の言葉を言ってね」
「わかった」
「『変化』! はい!」
「『変化』! はい!」
「『はい!』は、いらないよ〜」
「すまない」
「じゃあ、言ってみて〜」
「『変化』!」
これがなんなんだ?
「むう……どうして変身出来ないの〜?」
変身?
ああ。そう言う事か。
またお嬢ちゃんが、おかしな事を言い始めたよ。
「妖狐は人に化ける事も出来るから、ヨウコだって出来るはずなのに〜」
妖狐とはそう言うモノなのか……
俺は出来ないと思うけど、お嬢ちゃんが言うのなら、出来るかもしれない。
妖狐になった理由を俺なりに考えたのだが、他のあやかしから大量の霊気を吸収し、妖狐のイメージを強く持ったから出来たのだと思う。
ならば、多くの霊気を吸収し、強くイメージすれば、ひよりの言う、変化も出来るのではないか?
「ひより。俺はどんな物に変身したらいいんだ?」
「あ、そっか! なりたいものを考えてなかったんだね。そうだね〜……部屋に戻ろう!」
またあの本か……
お面の落書きだけはやめてくれよ?
ホッ。
キツネ人間の本を持って来た。
「これになって!」
どれどれ……耳と尻尾のある人間の女の子だな。
キツネの姿から離れ過ぎだ。
化け物になるのも嫌だが、もう少しキツネに寄せたモノを要求してみよう。
「九尾の狐じゃないのか?」
「あ! 忘れてた。じゃあ、この子に尻尾を九本付けて!」
また無理難題を……
お嬢ちゃんのお願いだからやってみるが、どうなることやら。
「変化はしてみるが、その前にお嬢ちゃんの霊気を分けてくれないか? その方が出来る気がするんだ」
「わかった! はい! ぎゅ〜〜〜」
相変わらず呪文じゃないんだな。
だが、力が湧いて来る。
「よし! 行くぞ」
「ちょっと待って!」
なんだ?
ああ。葉っぱか。
必要かどうかはわからないが、ありがとう。
「いいよ〜」
「『変化』!」
その言葉と共に、俺の体は光に包まれた。